ユージンの使命感
福子はスピードでは拓郎に勝り、和也には一度も負けた事がなく、
「大は小を兼ねない。だって、ぶかぶかパンツじゃ脱げて躓くだろ」
福子の例えにヴィクトルが「what?」と首を傾げ、和也は「通訳する気にもなれん」と嘆き、ユージンは重要機器を奪われる前に爆破すべきだとアルミケースに手を伸ばす。
「Don't disturb」
ヴィクトルが邪魔するなとユージンを蹴り飛ばし、福子も同じ思いで後ろに引いた左足で床を蹴り、一気に距離を詰めてジャンプしてヴィクトルの顔面に右拳を突き出す。
ユージンはそれを見て『猛牛に挑むパッタ』をイメージしたが、福子は昆虫でも針を持つスズメバチであり、拳が当たる寸前に人差し指と中指を伸ばし、ヴィクトルの左眼を鋭い爪で突き刺した。
「亡霊にも急所があるからね」
福子が元の位置に戻った時には、ヴィクトルの左眼から頬に二筋の血が流れ、ユージンはひび割れの生じた体で立ち上がり、『Don't give up』とミッションを完了するチャンスを窺う。
「Vital point?」
ヴィクトルは右眼で福子を睨み、もう一方の手で股間を示して、「touch it」と嫌らしい笑みを浮かべ、首を切るジェスチャーをして福子から順番に指差す。
「急所の意味が通じた。触ってみろと挑発し、ケースを開ける事より、抹殺を優先する気だ。通訳は不要だと思うが、一番目は福子」
「でしょうね。女の子に怪我させられて、プライドが傷付いたんでしょ」
「福子。セクハラはともかく、黒服のガードは強固だぞ」
和也の意見を聞くまでもなく、福子は黒服の左胸にあるKGBの紋章と黒虫の蠢く生地を注視し、顔を顰めて視線を上げ、両腕で顔面をブロックして「kill from a girl」と宣言するヴィクトルに舌を出す。
「目を防げば、問題ないってか?」
福子は横に立つ和也に「アルミケースをお願い」と囁き、「福子。何分攻撃を続けられる?」と和也が小声で聞く。
「2分が限界かな〜」
福子は右に回り込む和也を援護するように、左にサイドステップして高速の右ジャブと蹴りでヴィクトルのガードを叩き、打っては離れる連続攻撃を仕掛け、左拳で右眼を突くフェイントを混ぜ込み、単発なヴィクトルの攻撃を軽く躱して翻弄するが、掴まれたら一瞬で勝負が決すると想定している。
しかもヴィクトルは抹殺の順番を守るつもりはなく、福子の攻撃をブロックしながら黒虫が発生する霊気を右拳に集積し、左眼の死角からアルミケースを手にした和也に振り向くと、右拳を大きく振りかぶり、強烈な一撃を叩き込んだ。
和也は福子に援護を指示した段階でヴィクトルは不意打ちを仕掛けると想定し、黒虫の
しかし分厚いケースを擦り抜けたエネルギー体が胸の前で爆発し、アルミケースを持ったまま壁際まで吹き飛ばされる。
『霊気功か?』
福子はヴィクトルの背後から連打を浴びせながら、霊力を拳から発力したと和也のダメージを心配した。
(中国拳法に気力を拳から外へ発する
和也は直撃弾ではなかったので助かったが、身動きができずに腕時計をチラッと見て、福子の反撃を期待する。
『あと、1分……』
ヴィクトルは福子の攻撃を無視して、倒れた和也に近寄り、胸ぐらを左手で掴んで宙吊りにし、背中に飛び付いた福子を腕で振り払って床に叩き付け、指先に辛うじてアルミケースをぶら下げる和也に「good job」と労い、霊エネルギーを集積させた右拳を打ち込む。
「和也……」
福子はヴィクトルの背中越しにそれを見て愕然としたが、ユージンが立ち上がって盾となり、ヴィクトルの一撃を胸で受け、磁力を帯びたジャケットを突き破り、霊体が粉々になって空中に飛び散ってゆく。
和也はその光景を仰向け倒れて見上げ、手にビーンズの感触を感じて口に放り込み、幸運にも数少ない茶色のビーンズを呑み、体が透明になってフローリングの床下に溶け込んだ。
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