ヴィクトルとドミニカの来襲

 ユージンは日本の工作員にアルミケースを渡し、二時間後に離陸する富豪家のプライベートジェットに乗り込み、スイスからウクライナへ向かう予定だったが、ウクライナの亡霊議員でさえユージンが帰国できるとは想定せず、日本の工作員三名の写真を見せ、広島空港の特別待合室[弥山]が約束の地だと指示した。


「promised land」


 ユージンは[弥山]と書かれたドアの前に立つ、リーゼントヘア、眼鏡、グレーのスーツを着た坂本和也を見て、「ユージン・レブノフです」と名乗り、坂本和也は丁寧に頭を下げて、「お疲れでしょうから、中で話しましょう」と英語で応対した。


(坂本和也は広島の高等学校の英語教師だった経歴もあり、亡霊の工作員でありながら通訳も兼ねている。)


「大丈夫ですか?」

「ええ……」


 和也はユージンの顔色が悪い事を心配したが、「敵だ」という拓郎の声が微かに聴こえて、もてなす時間はないと室内で別れの握手をし、ミッションの引き継ぎを急ぐ。


「残念です。good bye. Eugene」

「Thank you. Kazuya Sakamoto」


 しかし和也がアルミケースを受け取った時、壁際の空間に亀裂が生じて、サングラスに黒虫の防護服を装着したヴィクトルが現出し、和也は背後から強烈な回し蹴りを後頭部に受けて倒れ、ユージンはビーンズを飲もうとしてボトルを落とし、イエローとグリーンビーンズが床に散らばる。


「バカか?イエローとグリーンって、心を落ち着かせる睡眠サプリだろ。戦う気も失せたか、ユージン・レブノフ……」


 ヴィクトルは床のビーンズと呆然と座り込むユージンを見て痣笑い、起き上がろうとする坂本和也の頭を踏みつけて、右手を伸ばして掴もうとするアルミケースを奪う。


 ユージンはシェフチェンコを抹殺したKGBの男を上目遣いに睨み、自分の名前を知っている事と、受け渡し場所に出現した事に疑問を抱く。


「なぜだ?」

「安心しろ。お前のヘマではない。サウジ経由で日本へ持ち込むとはグレートだ。しかし、口の軽い者が災いをもたらす」


 ヴィクトルはウクライナの亡霊議員を捕らえて拷問し、ユージン・レブノフが日本へ重要機器を持ち込み、広島空港の待合室で日本の工作員に渡すと白状させ、同僚のドミニカと移送装置で霊ゾーンへ侵入して広島空港へワープした。


 和也は打撃のダメージで動けなかったが、アルミケースを持って霊ゾーンへ侵入できない事を知っていたので、慌てずに仲間の援護を待つ。


 この時、拓郎もワープで武器は運べないと考え、ロビーの空間に出現した大柄な女性に接近し、截拳道ジークンドーの打撃でロビーの隅へ押し返したが、筋肉質でパワー系のくせにフットワークで受け流して見えた。


 金髪長髪のドミニカは元ヘビー級のレスリング選手で、KGBの猛者の中でも格闘技では負けた事がなく、日本の工作員との武術バトルを楽しみ、ヴィクトルがアルミケースを奪う時間稼ぎをしている。

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