第一章・重要機器を巡る争い
2023年5月19日ユージンは亡霊議員の手配で列車と航空機を乗り継いでサウジアラビアへ移動し、翌日、西部ジッダでゼレンスキー大統領の一行に紛れ込み、フランス空軍のエアバスA330-200に乗り込む事に成功した。
『国民はゼレンスキー大統領に全幅の信頼を寄せているが、戦争を終わらせる事はできるのか?』
前方VIP専用の会議室でゼレンスキー大統領が数人の関係者と話し合い、ユージンは磁力を帯びたジャケットを着てアルミケースを持ち、壁側に佇んで不安な表情を浮かべている。
『我々の死を無駄にしないでくれよ……』
亡霊のユージンが工作活動をする事は難しくなかったが、霊体の分裂を防ぐジャケットとビーンズのアイテムが有るとはいえ、死んだ地を離れた影響で体力が消耗し、髪が白くなって皮膚にひび割れが生じ、弱々しい足取りで自動ドアをすり抜けて、通路の奥にある洗面所へ向かう。
『まだ、消え去るものか』
洗面台にアルミケースとビーンズのボトルを置き、髪を整えてキャップとサングラスを掛けて、残り少ないブルーとレッドのビーンズを口に放り込む。
(ブルービーンズはマルチビタミン&ミネラルを含み、パフォーマンスアップと急速な回復効果があり、レッドビーンズはアミノ酸のチロシンを多く含み、ドーパミンとアドレナリンを分泌させて気分を高揚させる。)
「まもなく日本の領空へ入り、あと30分程で広島空港に到着します」と機内アナウンスがあり、ユージンはVIPルームへ戻って窓側の席に座り、眼下に見え始めた日本列島を眺めた。
『太陽の女神、アマテラスの国か?』
再度、重要機器をこの目で見たい衝動に駆られたが、ユージンはアルミケースのロックを解錠するキー番号は知らず、誤動作で爆発すると忠告されている。
【天照逆霊波】
機器のグリップに刻まれた漢字五文字を脳裏に映し出し、『アマテラスのパーツで動く』と、神妙な顔で告げた亡霊議員の発言を思い起こす。
第二次世界大戦、米国が広島と長崎に原子爆弾を投下し、数十万人の人々が亡くなった事は知っていたが、日本の各地に神を祀る神社がある事は知らなかった。
『世界を救えるのは、神か亡霊だな』と、日本文化の資料を見て談笑している政治家たちに嫌味を言う。
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