会議室での対話ーその1

 話し合いの始まりは、まず互いを知ることからであろう。


彼らはヘリコプターの機内よりも、もっと落ち着いて対話できる場所、ということで空母型艦艇内の会議室に場を移した。


日本側からは和夫と美香、他は学者たちであり、百合帝国側はアリスとサヤカである。


ヘリコプターの機外に姿を現したアリスとサヤカを見た者たちは驚いた。


それは彼女らがあまりにも美しいからであり、アリスがあまりにも幼いからであり、サヤカが驚くべき長身であるからでもある。


(宇宙人はファーストコンタクトにエプロンドレスの幼女を送ってくるのか? あの背の高さは種族の平均的な物なのか?)


居合わせた人員はそんなことを思った。




 「それでは、まずは私たちが皆様の前に現れた経緯をお話ししなければなりませんね」


互いに名乗りを終えた後、和夫が口を開いた。


彼は、まず、一月ほど前の突然の魔法の復活と、エーテル仮説について簡単に話した。


それは百合帝国側にとって驚くべきことである。


宇宙には魔力と称するべき力が存在し、それを伝えるエーテルが存在する!


しかし百合帝国…、いや、三都市同盟でそのような報告はなかった。


おそらくエーテル仮説が正しいとすれば、百合帝国の始祖種族はエーテルがない惑星で発生し、そのままずっとエーテルの無い空間で進化してきたのかもしれない。


百合帝国人は魔力に関して盲目であるのか。


宇宙に魔力があり我々はそれを認識することも操ることもできないのなら、決して我々は宇宙の完全な理解に及ぶことは無いのか?


アリスとサヤカは自分の見聞きしたものを脳内コンピューターを通じ、生中継でライブ配信している。


アリスとサヤカだけではなく、配信を視聴していた三都市同盟の民も、また驚愕した。


「魔法を見てみたいですが…」


「そうですね、私も見たいです」


とアリスとサヤカ。


「よろしいですよ」


和夫はテーブルの上の灰皿に、メモ用紙を一枚千切る。


念を凝らす。


紙はすぐに、魔法により発火点まで加熱され、燃え上がった。


「「おおお…」」


魔法という圧倒的未知を目の当たりにしたアリスとサヤカが声を上げる。


「我々は数日前巨大な魔法の発動を感じ、おそらくはそれが原因で国ごとこの星に転移しました」


美香がおそらく魔法により日本が国家ごと、この星に転移したという大異変について言及すると、驚愕はさらに増す。


魔法は国家転移という超絶的な現象すら起こすのだ。




 百合帝国側は日本が転移してきたことを理解した。


だが、三都市同盟も本来この星の国家ではない。


アリスたちは和夫たちに、百合帝国もまた、他の惑星から転移してきたことを語った。


その中には惑星知性や精神感応能力についての話も含まれている。


「…まるでSF小説のようです」


美香は、感想を口にした。


精神感応能力で知性を持った惑星と接触しその能力で異星に国土ごと転移したという話に対しては相応しい。




 和夫と美香は、日本側の紹介は、そう面倒な手間は掛からないだろうと踏んでいた。


外務省は日本が転移する前から、外国人に日本を紹介するためのコンテンツを制作済みである


それらはデジタルデータでありネットでも公開されている。


それはノートパソコン一台の外部記憶容量に充分収まるのである。


まずはそれを見せ、そして何か他に質問があれば答えるのだ。


「それでは我々、日本国の紹介からさせていただきます」


部屋を暗くし、プロジェクターで壁に映像を投影する。


コンテンツの再生が始まった。


それは神話時代から現代までの日本の歴史の紹介、日本の自然、文化財、伝統音楽から最近の流行歌までの音楽、東京の街角の風景など多岐に渡る。


最後に人口・GDPといった各種統計データが映された。


「なるほど、貴方たちの国は大変豊かな文化をお持ちですね。それに物質的にも豊かでいらっしゃる」


サヤカが口を開いた。


前世が日本人だったアリスにとっても興味深い物である。


彼女が前世を終えてから今になるまで半世紀ほどになるのだ。


日本がどうなっているかは彼女も知りたい。


前世の両親が今どうしているのか、もしまだ生きているようだったら(秘密裏に影から)親孝行もしたいが、そのあたりを知るには日本に行くまでまつしか無いだろう。


(日本に大使館を開くなら私も行くわ。前世の両親とか、私が死んでどうなったのかは探偵事務所に依頼すれば調べてくれるでしょうね)


帝国民として百合帝国に愛着を持つアリスだが、こうして日本人と接触すると、前世での愛国心も再び湧き起こる。


そのため、彼女は百合帝国に害がない範囲で日本に有益に立ち回ることを決めていた。


とりあえず日本は概ね繁栄しているようであり、アリスはなんとなく嬉しかった。


最も外務省の作成したコンテンツは、諸外国に日本の魅力を知ってもらおう、魅力的な国だと思ってもらおうという主旨の物であり、それから日本が繁栄している魅力的な国家に見えるのは当然であるのだが。


国家間の外交において、軍事の要素は大きい。


外務省謹製日本紹介コンテンツには、軍事情報は含まれていなかった。


軍事マニア向けに民間企業が作成し販売している自衛隊紹介DVDを再生する。


アリスは自分が今乗っている護衛艦のデータを知り喜んだ。


二百五十メートルにもならんとする全長と、二万トン近い排水量。


彼女が前世を終えた1969年の日本の軍備から考えると、これは巨艦と言える数値である。


(こんな船を作れるようになったなんて、日本は繁栄しているんだわ!)


「良い船ですね」


思わずそんな言葉で日本側に語りかけた。


「え…? ええ。国民の皆さんを守るためですから」


和夫は、なぜか突然褒められたので戸惑いつつも答えを返した。


次に、サヤカが、エネルギー、IT技術、宇宙開発といった様々なジャンルの最新研究について質問を発した。


日本の技術水準をざっくり把握するためである。


日本側は質問に答えて、日本紹介の番は終わりとなった。

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