日本と百合帝国・接触ーその2
日本国・海上自衛隊に所属する空母型護衛艦と補給艦が百合帝国に接近していた。
艦内には、未知の知的生物とのファーストコンタクトに役立ちそうな人員が、大急ぎで(大雑把な人選で)集められ乗せられていた。
それは、未知の病原体を警戒しての陸上自衛隊の防疫部隊であり、あるいは大学の言語学者や生物学者であり、外務省から派遣された外交官であったりする。
対艦ミサイル等に備えた近接防空火器しか持たない空母型護衛艦は、攻撃の意思なしと示すに適していると考えられ、また、必要とあらば自衛隊のティルトローター機で追加で人員や機材を運ぶこともできるのだ。
それに自衛隊は日本の様々な組織の中でも、不測の事態に対応することに関しては最も適している。
広い格納庫には、必要かもしれないと思われる様々な機材を収納することができる。
これらの事柄から、海上自衛隊の空母型護衛艦はこの任務に最適であると思われた。
外交官として空母型護衛艦に乗り込んでいた佐藤和夫と田中美香は、和夫の船室で話し合っていた。
軍艦の居住性など碌でもないものと相場が決まっているのだが、自衛隊員以外のメンバーには狭いながらも個室が割り当てられている。
エリート官僚である彼らには、軍艦において、二段ベッドでも三段ベッドでも四段ベッドでもない、個室のベッドで眠る贅沢が許されているのだ。
「有識者の見解では、彼らの体格はそこまで我々と極端なサイズ差はないと思われるとのことだが…」
とは和夫からの言葉。
「新しい惑星の重力と大気から推定したものだそうですが、ガリヴァー旅行記の巨人や小人ほどまでには、極端な体格差はないという推定ですからね。」
水をたたえた海洋があり、地球とほぼ同じ気圧と大気成分の惑星。
それに、知的生物はそれなりのサイズの脳を持つはずである。
地球人と比べて極端に小さいということは考えづらい。
そしてまた、極端に大きい体格も然りである。
重力が地球とほぼ変わりないのである。
陸上で活動する生物は極端に大きくはなれないだろう。
象サイズ程度に巨大な知的生物ですら、想定するのは難しいというのが有識者の見解だった。
「都市の人口はおそらく数千万程度、か」
撮影された画像データと知的生物の想定されるサイズからの、専門家の推定を口にする。
「専門家は地球外知的生命体なんて難しい言い方をしてますけど、要するに宇宙人ですよね! 私ワクワクします! ファーストコンタクトですよファー!スト!コン!タクト! 歴史の教科書に、初めて宇宙人と接触した外交官として私たち、名前のっちゃいますよ!」
美香は期待を抑えきれないという様子だった。
難関大学を出て、激務と知りつつなおキャリア官僚となるような彼女である。
上昇意欲は旺盛なのだ。
ファーストコンタクトという大役を任せられたことが嬉しくて仕方がないのであった。
「…、先方のコミュニケーション手段もわからないから、まずはそこからかな」
和夫が、その興奮に水を差す。
日本の空母型艦艇の接近は百合帝国のセンサー群に捕捉されていた。
日本国内では、電波を用いた放送が盛んに行われている。
百合帝国では放送を分析して、日本の技術レベルや日本人の外見を概ね把握していた。
アリスは日本の電波放送による映像と、人工衛星などにより撮影された日本の画像データの中に、彼女の記憶にあるランドマーク…、東京タワー、国会議事堂、皇居といった建築物を見つけ、彼らがかつて自分の生きた日本からの使節であることをすでに確信していた。
(自衛隊にも空母があるのね)
と呑気な感想を抱く。
「サヤカちゃん。あれなら、甲板にヘリコプターが安全に着陸できるわ。へリコプターでこちらから乗り着けましょ? 」
とアリスは日本への調査と接触に誘ったメンバーに声をかけた。
彼女らは空母型艦艇の接近が確認されてから、自分たちから艦艇に赴く準備をしていた。
「いきなり撃ち落とされたりしないかしらね? 向こうの目的はおそらく調査と接触だろうから、大丈夫だとは思うけど、念は入れましょ。最初は無人のヘリコプターを接近させて、そして問題なければ私たちが着艦するの。」
サヤカがそれに答える。
アリスの幼馴染であり、隣に住む友人であるサヤカは精神感応能力を持っている。
そのためアリスは日本への接触に彼女を誘ったのだ。
意思と意思を直接接触させる精神感応能力は未知の言語(最もアリスは前世の記憶により日本語が話せるのだが、彼女は前世の記憶を秘密にしていた)を使用する相手に対してコミュニケーションを取るためにうってつけである。
人工知能が日本の放送電波を解析し、言語を分析しているが、それが済むのを待つより精神感応能力を用いたほうが早いのである。
彼女らは必要な機材を積み終えたヘリコプターに乗り組み、空母型艦艇を目指し百合帝国を飛び立った。
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