陰キャボッチ、高校に行く
「なぁ、お前は聞いたか?うちのクラスのアイドルである雨宮さんが絶体絶命のピンチの中を救い出した冒険者がいるって話」
「え、えぇ……え?そ、そんな人がいるの?」
「あぁ。そうだ。すごいだろ?今、俺たちのクラスはその話題で持ち切りだ」
類は友を呼ぶという言葉がある。
その言葉の通り陰キャボッチに属する者たちは互いにシンパシーを感じ、会話を介さないアイコンタクトでの同類認定によって近づく彼らはクラスという小さなコミュニティで体育での授業などのキラーパスで協力する友となる。
自他ともに認める陰キャボッチであり、高校生活の中で一度たりとも誰かと出かけたことなどない寂しい高校生活を送る天津にもまた、クラスという小さなコミュニティ内でのみ関わる友だちが存在する。
それが神崎蓮夜。
中肉中背の特に特徴もないメガネ男子である彼は唯一とも言える天津の友達である。
「まぁ……俺たちには一切関係ない話題ではあるけど」
「そ、そうだねぇ……」
朝のHRが始まるまでの短い時間。
クラスの陽キャたちが中心部でウェーイ!をする中、、天津と蓮夜はクラスの端の方で言葉を交わす。
「いやいや!助けてあげたヒーローはこの俺だから!」
「お前だけはないわ!つか、お前ってば少し前にダンジョン行って涙を飲んで帰ってきていたじゃんか!」
「そうよそうよ。配信見ている感じ、どちらかと言うとコミュニケーションがあんまり得意じゃない可愛い子でしょ。多分友達の多くない陰キャとかだと思うわよ?」
「ちょ、ちょっとそれは失礼じゃない……?でも、命を助けてくれて人だし、私も誰なのか気になるんだけどねぇ」
琴音を中心として既に伝説となりつつあるあの配信で琴音を助けた彼の正体についての議論が巻き起こる。
「お前、そんな顔を青ざめさせてどうしたんだ……?」
「い、いやなんか話の矛先が僕たち陰キャの方向に向いていないかなぁ……って思って」
「……」
天津の言葉に蓮夜も動揺してその場で固まる。
「なぁ、天津。トイレ行かないか?」
そして、続く蓮夜の言葉は逃げの一手であった。
「あっ、うん。良いね」
蓮夜の言葉に天津は慌てて頷く。
琴音を助けた張本人である天津にとって蓮夜のその提案は実にありがたいものだった。
「……行こうか」
二人はいそいそといつものようにクラスの影となって静かにトイレへと向かっていく。
「あっ!ちょっと待って!ふたりとも!」
「「ピッ!?」」
そんな中で。
いきなり琴音から声を向けられた二人は共に変な声を上げて固まるのだった。
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