善良な殺人者!!!

立花 優

第1話 序章

 誰の小説で読んだのかは、とっくに忘れてしまったが、妙に、心に残っている話がある。


 それは全くの完全犯罪であって、しかも誰にも、見破られないという、正に究極の殺人方法を書いた話だと言うのだ。




 その話の概要とは、確か、次のような話だったと記憶している。




 つまり、老婆(いや、老人なら誰でもいい)がゆっくりと、交通量の多い道路を渡ろうとしている場面を想像してもらおう。勿論、そこは横断歩道ではない。その老婆(老人)は、無理矢理、強引に道を横断しようとしているのだ。




 さて、あと少しで道を渡りきろうとしたその瞬間、ここに、悪意ある殺人者がいて、大声で注意を促すのだ。




「あっ、危ない!おばあさん、後ろから車が!」


 と、ここで、くだんの老婆は、オロオロとためらい、人によっては後ろを振り返るかもしれない。しかし、ここがこの話の最大のトリックで、敢えてそのような大声で注意しなけば、そのまま道を渡りきったであろう老婆は、一瞬、茫然自失となってしまうのだ。




 そして、そのわずか数秒の迷いが、老婆の運命を分けることになる。




 運良く渡りきった場合、声を掛けた本人は、感謝されることはあれ、非難されることは全くない。で、運悪く、(実はもともとそれが狙いのだが)、運悪く老婆が車にはねられ轢き殺されたとしても、やはり、目撃した周囲の人達からすれば、彼の大声は、単に善意で発しただけであった筈で、やはり、当の本人が本心を自白しない限り、いかなる犯罪にも問えないであろう。




これこそ、一見、善意や親切心に名を借りた、究極の完全犯罪なのだ、と、確か、かような話だった記憶している。


 これは、ある意味、現代社会の中に棲む悪魔の所行であろう。しかし、何度も言うように、例え、その本心にもの凄い悪意があったにせよ、誰にも、声を掛けた当の本人を告発すること等、絶対に不可能なのだ。そう考えると、実に、恐ろしい完全犯罪ではないか?


 


 ……それはさておき、貴方は、これから私が記す話を、どう、受け止められるであろうか?果たして、この話を真面目に信用されるだろうか?勿論、語り部は、この私なのであって、この話の主人公の高橋良介ではないのだ。その点、若干、誇張した表現もあると思われるのは許して頂きたい。




 ちなみに、私と、次の話の主人公の高橋良介とは、どういう関係だって?同じ北陸地方のT県に住んでいる友人同士だと思ってもらえばいい。で、これからの話をどうして私が知ったか、それも、おいおいこの話を読んでいかれれば理解されるであろう。











 










             

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