これからも友達
平中なごん
一 親友の死
「──ひくっ……なんで、なんで成美がこんな目に……」
たくさんの菊の花に囲まれ、黒い額縁の中でくったくのない笑顔を浮かべている親友を前に、わたし、
わたしの親友・
今はすでに骨となっているが、ようやく警察から帰ってきた彼女の遺体は、遺影のよく知る成美とは似ても似つかないくらいの、見るも無惨な姿に変えられていたらしい。
全裸の状態で顔も身体も全身を切り刻まれ、恐怖と苦痛に歪んだ表現で硬直していたと、漏れ聞こえてきたマスコミの情報では言っている。
殺されたのはおそらく半月ほど前……いつものように学校で会い、帰りに別れたその直後のことだと警察は見ているようだ。
発見されたのは人目につきにくい河川敷。第一発見者は犬の散歩をしていた人で、バラバラにされ、打ち捨てられていた右腕を偶然、犬が見つけたのだそうである……。
この一年あまり、わたし達の住む町の周辺では同じような猟奇殺人事件が連続して起きていた。
犯行は約二ヶ月ごとの間隔で行われ、犠牲になったものは成美ですでに六人目となる……。
被害者は全員、成美と同じ若い女性。殺害方法も同じく拷問を加えたかのように、全身を刃物で切り刻むという極めて凄惨なものだ。
また、運びやすくするためなのか遺体は皆バラバラにされて無造作に遺棄されるという同様の処理方法であることから、警察は同一犯による犯行と考え捜査しているのであるが、今もって犯人の手がかりすら掴めていない状況である。
それからもう一つ、これが同一犯による連続殺人だと考えられる理由には、被害者達に共通する特徴がある……。
各々面識はまったくないし、一見して関係性は見られないのだが、全員どうやら〝パパ活〟をしていたようなのだ。
そのために、成美もじつはパパ活をしていたに違いないなどという心ないウワサが立ち、さらに故人と遺族、そして、わたし達親しい友人達の心を容赦なく世間は踏み躙った。
そんなこと、ぜったいあるわけないのに……。
成美は明るく気立もよく、人に恨まれるようなことはぜんぜんないし、そんな危ない不良行為などとは無縁な優等生だった。
それなのに、なぜこんなことになってしまったのだろう……通り魔のように、偶発的に犯人の標的にされてしまったのだろうか?
「──やあ……元気出せとは僕も言えないけどさ……それでも、成美の分までしっかり生きていかなくっちゃね……」
葬儀が終わった後も遺影の前に立ち、わたしがずっとめそめそしたままでいると、同じく同級生代表としていて参列していた
成美と有輝とわたしは、高校入学以来の仲良し三人組だった……出会いは同じクラスになって、席も近かったので話すようになったくらいのものだったが、なんとなく気があったのか、気づけばよくつるむようになっていた。
「……グス……うん。ありがと……」
わたしは涙をハンカチで拭うと、必死に嗚咽を堪えながら礼を述べる。
成美を失い、彼だってわたし同様に辛いはずなのに……その優しさが、わたしにはなんともうれしかった。
「さ、みんな帰るし、僕らも行こう」
「うん……」
そして、淋しげな笑みを浮かべる有輝に促され、成美の両親に挨拶をして帰郎としたその時。
「……!?」
両親のとなりに朦朧とした面持ちで佇む、制服姿の成美がわたしの眼に映った。
「成美……」
「? ……どうしたの?」
唖然と立ち尽くすわたしに、有輝が怪訝な顔で尋ねてくる。
「な、成美が……成美があそこに! ほら、見て……あれ?」
そんな彼の方を振り向き、興奮気味にそう告げると再び視線を戻すわたしだったが、するとそこにいたはずの成美は煙のようにかき消えている。
「おかしいな……確かに今、成美がそこにいたんだよ! 透けてもいなかったし、ぜんぜん死んでるようには見えなかったよ!?」
「……そんなはずないだろ? 残念だけど、成美はもう死んだんだ。その事実をしっかり受け止めなきゃ」
今見たものをわたしは強く主張するが、困惑した表情を浮かべる有輝にそう諭されてしまう。
「……うん。そうだよね……全部、事実なんだよね……」
確かに、有輝の言うとおりだ……成美は本当に死んだんだ……きっと、すべてが嘘であったと思いたいわたしの、心が見せた幻影だったに違いない……。
わたしはそう呟いて自分を納得させると、悲しみに満ちた葬儀会場を有輝とともに後にした──。
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