黒ずきんちゃんと茶色ずきんちゃんの巻

 私、茶色ずきんちゃんのことよく踏んじゃうのよね。


 だっていつも匍匐ほふく前進をしてて地面に同化してるから、区別がつかないんだもん。

 トラックにひかれたら危ないからやめなさいと言ってるのに、有事に備えて訓練をしてるみたい。


 そりゃあ何かあった時のために鍛えておくことは大切だけど、せめてもうちょっと安全な場所でやってほしいわね。



 ある日のこと。

 ちょっと良いことがあって、ついスキップして歩いていたの。

 そうしたら──


 むぎゅ!


「ぎゃああ!」


「きゃっ! あ、茶色ずきんちゃんじゃない。ごめんね、痛かった?」


「ぎゅう……自分は大丈夫であります」


「いったいこんなとこで何をしてるの?」


「いつなんどき敵が攻めてくるかわからないので、こうして体を鍛えているのです」


「それは大切かもしれないけど、せめて空き地とかでやったら?」


「あそこは現在工事中でありまして、自分は使えないのであります」


「──てえへんだてえへんだー!」


「あっ、猫ずきんちゃんだわ、どうしたのかしら?」


「カンカンカン! 防災ずきんちゃんの家が火事だ! どけどけーどけどけー!」


「また? 大変だわ、私も行かないと。あ、茶色ずきんちゃ──」


 むぎゅ!


 踏まれた。



 次の日。

 ぽかぽか陽気で、私が気持ちよく散歩していると、かき乱す声が聞こえてきた。


「待つでござる! 数々の狼藉ろうぜきもう許さないでござる!」


「あっ、かぶとずきんちゃんの声だわ。いったい何があったのかしら」


「逃げろー! 急げ、覆面ふくめんずきん!」


「待ってください、強盗がんどうずきんの旦那!」


「待てーい! 拙者せっしゃのおみやげ丸で成敗してくれる!」


「捕まえられるもんなら捕まえてみろー!」


「お尻ぺんぺーん!」


「悪い子ふたり組だわ。くわばらくわばら」


 巻き込まれないように道の端に避けた私の目の前で──


 むぎゅ!


「ぎゃあああ!」


 むぎゅ!


「ぎゃああああ!」


 むぎゅ!


「ぎゃあああああ!」


 地面に潜んでいた茶色ずきんちゃんが次々と踏まれていった。



 また次の日。

 私は黄色ずきんちゃんとお手てをつないで散歩をしていた。

 彼女はほかの子より一回り小さくて、まだおもらしをしてしまう。


「ねえ、黄色ずきんちゃん。闇ずきんちゃんに貰ったオムツはいてみた?」


「ううん。つけかたわからなくて、まだはいてない」


「ママにはかせてもらうといいよ」


「うん」


「というか、昔はつけてたんじゃないの?」


「いまはパンツのれんしゅうしてるの」


「そっか、偉いね、頑張って。あ、そこ段差になってるから気をつけて」


「うん」


 むぎゅ。


「ぎゃあ!」


「あっ、茶色ずきんちゃんじゃない。黄色ずきんちゃん、降りてあげて」


「うん……う……う……」


「あああ、だめよ、だめー!」


 大変なことになった。

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