第8話 朝と母
いつものようにカーテンの隙間から差し込む日差しは、嫌悪感を覚えるほどに清々しく輝いて、目を覚ませと訴えかけてくる。
珍しく起床時間を告げるアラームが鳴り響く前に目が覚めたようだった。
1週間前に発生した鍵泥棒事件。
その真相を知った当日やその翌日は全くと言っていいほど眠れず、3、4時間の睡眠で登校して授業にも集中できていなかった。
ただ、数日経過した今ではこうしてすっきり起床できているあたり、自分は薄情な人間なのか、とも思う。
起床するなりそんな悲観的なことを考える自分に呆れつつ、枕もとの電子時計へと視線を向けた。
簡素な電子時計は午前6時40分を表示している。
普段の起床時間よりも20分も早い目覚めにため息を付いたところで、何やら下の階から、ドタバタと忙しない足音に気が付く。
「そうか――母さん、まだ出勤前か」
よくよく思い返してみると、ここ数日はメモ書きやメールでしか会話、というか石交換をしていないことを思い出して、急いで下の階へ降りていく。
居間にいると思ったが、既に家を出る間際だったようで、玄関で靴を履く途中の母の背中を見つけて、おはようと声を掛けた。
「お、シュウヤ今日は早起きだね、めずらしい」
「いや、ここ数日母さんの顔を見てないな、と思ってさ。それなりに頑張って起きてみた」
「そう?私はいつも見ているよ。シュウヤの寝顔」
「知らない間に見られてるんだ。はぁ—――どこか変態みを感じる、思春期の息子に言うとは思えない程のセリフをありがとう。—――今日も遅いの?」
「母親が息子の寝顔を覗き見ることを変態み、とか言わないの。—―そうだね、遅くなりそう。夜ご飯も作ってあるから、しっかり食べなさいよ。ちなみに夜はオムライスだよ」
そう口にしながら靴を履き終えて立ち上がる母は、鞄を握りしめて玄関の扉を押し開ける。
少し開けただけで透き通った外気が玄関先に流れ込む。
春先のためやや肌寒く、寝間着には堪える気温だったが、気分はいい。
「じゃあ、行ってくるね。久しぶりにシュウヤと話せてよかったよ。元気出た」
「そっか。よかった―――俺も頑張ってくるよ」
「うん、無理しないようねーーー」
誰よりも頑張っている母は、そう言って笑顔で仕事へ向かっていく。
あんな笑顔を見せられては、答えざるを得ないな、と鈍った脳に活を入れて、朝食が用意してある居間に向かうのであった。
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