恋する爆弾低気圧接近中!?~私の彼に近づく悪い虫は、みーんな吹っ飛んじゃえ♡~

日埜和なこ

第1話

 青い空を見上げて芝生に寝転がるのが、幼い頃から大好きだった。

 夏が過ぎて、穏やかな秋風が吹き抜ける時期が特に好き。雲のない空がどこまでも高く続く青空、すじ雲が広がる空、鰯雲にひつじ雲、毎日でも眺めてられた。

 

 青空の向こうには宇宙があるんだ。

 宇宙から見た雲ってどんな形をしてるのかな。海は青空の色で地球の色なんだよね。見てみたいな。

 幼い頃は、夢いっぱいだった。


 帰りのホームルームで配られた成績表を前に、私は深々とため息をついた。

 辛うじて赤点はない。なんなら、国語と生物は成績上位組。英語と社会は平均点を超えたから問題ない。でも、数学と科学が悲惨なことになっている。赤点じゃなくても、平均点が遠かったら――


「みっちゃん、さすがだね。現文、一桁じゃない! あー、でも数学ギリな感じ?」

「ちょっ! 勝手に覗き込まないでよ」

「怒んないでよ。ほら、仲間なかま!」


 幼馴染みの陽菜ひなは悪びれずに、中間テストの成績表を差し出してきた。まぁ、いつも成績は見せ合っている仲なんだけどね。

 折りたたまれた用紙を開き、思わず「なによこれ!」と私は声を上げていた。


「全然、仲間じゃないし! 陽菜、数学上位じゃない、科学も!」

「えー、でも、国語は赤点だし、英語はギリ。総合順位はみっちゃんの方が上だよね?」

「順位なんて関係ないの!」

「へ? 何でなんで? お互いこれじゃ上位クラスは無理だね~って慰め合うとこっしょ?」


 冗談か本音か分からない顔でへらへらと笑う陽菜に、私はもう一度、そうじゃなくてと呟いた。

 

「……これじゃ、私、理系選ぶなんて無理」

「みっちゃん、理系選択するつもりだったの? マジ?」


 顔をひきつらせた陽菜は目を泳がせると「強く生きて」と真顔で言い放った。

 文理選択の希望提出は来週に迫っている。この成績で理系を選択するなんて、冒険も良いところだってのも分かってる。


 顔を見れば文理どちらが適してるか分かるって豪語する平橋先生にだって「光空みつぞらさんは文系ね」と即答されたくらいよ。親だって、受験は文学部でしょって決めてかかるくらい、今まで国語の成績と理科目生きてきた。

 なのに、高校に入ってからの科学はさっぱり分からなくて頭が痛い。


「今回、うんと頑張ったのに……立ち直れない」

「なんで突然、理系選択なの?」

「……それは……」

「清野が理系だから?」

「ちっ、違うし! 何で、ハルが出てくるのよ。私は将来、気象予報士になりたいから──!」


 成績表を入れたファイルをリュックに押し込め、勢いよく立ち上がると、椅子がガタッと音を立てた。

 まだ教室に残っていたクラスメイトの視線が私に向かってきて、とたんに恥ずかしくなって、逃げるように教室を飛び出したのは言うまでもない。

 落ち着け。落ち着くんだ私。

 別に、ハルが理系だからとか関係ないし。私はただ、行きたい大学が理系だから――


 トイレの個室に飛び込み、唸りたい気持ちを押し込めていると、誰かが入ってくる気配がした。


「ねぇ、聞いた? バスケ部の清野くん、彼女いないって」

「ほんと!? え、でも、三組のキラキラが彼女だって聞いたよ」

「あー、天文部の光空?」


 私はぎくりとして息を殺した。

 なんなの。どこの誰よ。突然トイレでハルの話を始めたかと思ったら、私のことを言い出すなんて。私のことを知ってる人? ていうか、私はキラキラじゃないし。何なの、その呼び名。


「よく考えたら、あんな名前負け女が、清野くんの彼女な訳ないじゃん。だって、き・ら・り!」

「そんなこと言ったら可哀想だよ。顔はフツーなんだし。でもまぁ、可哀そうだよね。フツーの顔であの名前じゃ、自信も持てなくなると思うよ」

「キラキラに気を遣うなんてやっさしー。でもさ、あの女のせいだよね。清野くんんはツンデレ好きなんて噂までたってさ。いい迷惑じゃない?」

「え、違うの!?」

 

 散々私をディスりまくった女が、私の心の声を代弁するように声を上げた。

 ちょっと待って。言いたいことは山のようにあるんだけど、それ以上に看過できないことを、こいつら言ってなかった?

 ハルがツンデレ好きじゃないって、本当?

 

 だって、私のところにだって、ハルはツンデレ好きだって噂が入ってたんだけど。

 それに、図書委員の園原さんに笑いかけてるところだって見たことあるし、バスケ部マネージャーの藤さんともよく話してるし、五組の委員長──名前なんだっけ?

 とにかく、ツンデレ女子代表みたいな三人と仲が良いって聞いたこともあるんだけど。違ったの!?

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