第48話:ダジールの想い
事情聴取と指導方針の説明が終わった後、太一たちは今日一日、何もするなというお達しが下った。
「これはギルドマスター命令だから、他の職員に声を掛けても同じだからね?」
そう口にしたクレアは三人の背中を押しながら冒険者ギルドの外に追いやってしまった。
「……これからどうしようか?」
やることのなくなった三人だったが、太一は公太が背負っているボロボロの大盾を目にしたことで一つの提案を口にする。
「ダジールさんの武具店に行かないか?」
「行きてえ! ナイフが折れちまったからな!」
「僕も大盾を買い替えなきゃ。でも、お金が……」
「そこは俺が出してやるよ」
「「「――!! ディーさん!?」」」
急に会話に参加してきた人物がいて驚いた太一たちが振り返ると、そこには快活な笑みを浮かべたディーが立っていた。
「ダジールの店だろう? 早く行こうぜ!」
「いや、あの、ディーさん?」
「これはギルドからの差し金でもないし、俺たちへの借金でもない。単純に俺の懐からお金を出させてもらうぜ」
「でも、それはさすがに……」
「四の五の言うんじゃねえっての! これは俺が決めたことだから気にすんな!」
「気にするなと言われましても……」
「よーし、行くぞー! お前たちが来なくても、俺は来るまで待っているからな!」
これはもう奢られなければ終わらないなと思った太一たちは、ディーに続いてダジールの武具店へ向かうことにした。
「おーい! ダジールの親父!」
何やら似たような光景を目の当たりにしたあと、ダジールが奥の扉から姿を現した。
「やかましいぞ、ディー!」
「いいじゃねぇか、親父!」
「えぇい、お前に親父と呼ばれる筋合いわないぞ!」
「まあまあ、そう言うなって! それに、今日は俺の用事じゃないんだよ!」
「んっ? なんじゃ、坊主たち。早速何か相談事か?」
相談事かと問われた太一たちは、体をビクッと震えさせる。
何せ装備を整えたのが昨日であり、壊してしまったのも昨日なのだ。
扱いが悪いだの、お前たちに使わせる武具はないだの、文句を言われてしまうのも仕方がないと思えてならない。
「「「ご、ごめんなさい!」」」
「……なんじゃ、藪から棒に」
疑問の声を口にするダジールに申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、公太はボロボロになった大盾を、そして勇人は折れたナイフを彼に見せた。
「なんとまあ、昨日かったこれらがもうこんな風になってしまったのか」
「ダジールさんが丹精込めて作った武具をこんな風にしてしまって……」
「僕たち、申し訳ないというか、合わす顔がないっていうか……」
「なんじゃ、そんなことを気にしていたのか?」
「「「……えっ?」」」
罵倒されるものだと思っていた太一たちからすれば、まさかのダジールの反応に驚きを隠せない。
「武具というものは持ち主を守ってこそ、真価を発揮するんだ。こいつらはお前たちの命を守らずにこんな風になっちまったのか?」
「「ち、違います!」」
「ならいいじゃねぇか。……ん? ってことは、坊主たちが噂の新人冒険者なのか?」
「その話、昨日もしませんでしたか?」
太一が苦笑しながらそう口にしたが、ダジールは首を横に振った。
「いいや、昨日の話とはまた違う噂よ。ラディナの森に現れたデビルベアから新人冒険者を守るために立ち向かったっていう、勇気ある新人冒険者がいたってな」
「「「ど、どこからそんな噂が流れたんですか!?」」」
「否定しないってことは、坊主たちなのか」
「あははははっ! そういうことだよ、親父!」
「「「ディーさんも知っていたんですか!?」」」
Fランク冒険者の鑑と言われることも恥ずかしかった三人にとって、勇気あるなどと言われるのはさらに恥ずかしいものがあった。
「だがまあ、最初の噂も今の噂も事実だから否定できねぇよなぁ?」
「否定は……できませんけど、でも勇気があるわけじゃないし、助けたいと思ったから動いただけで……」
「それができる人間が少ないから、こうやって噂になっているんだろう。誇ることはあっても、恥ずかしがることではないと思うがなぁ」
ダジールが腕組みをしながらそう口にすると、太一たちは顔を見合わせてから苦笑いを浮かべた。
「そうは言ってもなぁ?」
「恥ずかしいというか、むず痒いというか」
「僕たちには似合わないんだよねぇ」
「まあ、そういう奴らだからクレアもディーも肩入れしているんだろうなぁ」
「分かるか、親父?」
「だから親父と呼ぶんじゃない! どれ、今度は俺が見繕ってやろう、こっちに来い!」
ダジールはディーを怒鳴りつけると、そのまま太一たちに手招きをして店内を案内し始めた。
「あの、でも、予算が……」
「予算は俺が出すから三人に合う最高の武具を見繕ってくれ!」
「ちょっと! ディーさん!?」
「がははははっ! さすがだな、ディー! いいだろう、良すぎるのもいかんが、坊主たちに合う最高の武具を選んでやろう!」
「「「……ま、マジかよ」」」
いったいどれほどの値段になるのか、太一たちは内心で戦々恐々としながらダジールが選んでくる武具を見つめていたのだった。
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