第43話:お褒めとお怒りとお褒めと
「……生きてる?」
「……俺たち、生きてるよな?」
「……よ、よかったよ~!」
デビルベアが倒されたのを見て、太一たちはお互いに抱き合って生を実感している。
遅れて駆けつけた冒険者たちも太一たちを見て安堵しており、誰もが笑みを浮かべていた。
「怪我はないか、三人とも?」
「あはは、ディーさん。俺は大丈夫だけど、勇人と公太は?」
「俺も問題なし」
「僕はちょっと怪我をしちゃったけど、ポーションを飲んだら治っちゃった。ポーションってすごいね」
「……いや、デビルベアを相手にそれだけで済んでるお前たちの方がすごいからな?」
「「「……えっ?」」」
まさかディーから褒められるとは思っておらず、三人は驚きの声を漏らす。
死にそうになったのだから怒られると思っていた分、完全に反応に遅れてしまった。
「……俺たち、褒められた?」
「……だよな?」
「……よかったよ~!」
「でもなー!」
「「「は、はい!?」」」
喜びも束の間、今度は怒気をはらんだ声音でディーが睨みを利かせる。
「お前たち、無茶をし過ぎだ! 他の冒険者を逃がすためだと聞いたが、それでお前たちが死んでいたら元も子もないだろう!」
「それは、その……」
「あの時はあれが最善だと思って……」
「ごめんなさい……」
三人が謝っても睨みを解かないディーだったが、そこへ助け船が出された。
「ごめんなさい、ディー。私がきちんと教えてあげるべきだったわ」
「ミリーか」
「カイナが主導だったとはいえ、私も三人にラディナの森で指導をしたんだから、薬草採集だけじゃなく、魔獣についてもきちんと教えるべきだった」
「その通りだ」
ミリーの謝罪にディーの睨みは彼女へ向いた。
「ち、違います!」
「これは俺たちの判断だったんです!」
「ミリーさんは悪くありません!」
三人はミリーが悪く言われるのは筋違いだと反論する。
「あぁん? お前たち、言い訳できる立場だと思っているのか?」
「思っていません!」
「でもミリーさんが怒られるのは違います!」
「お、怒るなら、僕たちを怒ってください!」
怒気をはらんだままの声音であり、鋭い視線が再び太一たちに突き刺さる。
しかし、自分たちではなくミリーが怒られるかもしれないと分かっているからか、三人は恐怖を押し殺して真っすぐディーの目を見つめ返した。
「…………ったく、お前たちには敵わないよ」
「「「……えっ?」」」
突如、ディーの声音から怒気が消え、表情も普段のものに戻っていた。
「これで調子に乗るようだったら締めなきゃなんねぇって思っていたが、杞憂だったみたいだな」
「調子に乗るだなんて、無理ですよ」
「体ブルブルだったもんな」
「僕は今でも震えが止まってないよ」
「「俺もだよ!」」
三人とも震えていて気づいていなかったが、くっついていた三人とも、実は恐怖でずっと震え続けていた。
「ほんっっとうによくやったよ、お前たちは!」
ディーも今度は励ましが必要だと感じたのだろう、豪快に笑いながらやや乱暴に三人の頭を撫で、そして大きく腕を広げて肩に回した。
「生きていてくれてよかったぜ、三人とも」
「本当だよね」
「これはミリーの奢りだねー」
「今日に限って言えば、リッツの言う通りにしましょうか」
ディーたちの会話が終わったのを見計らい、今度はカイナが太一たちに声を掛けてきた。
「……三人とも」
しかし、その声は元気がなく、カイナ自身とても落ち込んでいるように見えた。
「カイナさん!」
「助けてくれてありがとうございました!」
「僕、カイナさんがいなかったら捕まってたかもしれませ~ん!」
だからというわけではないが、太一たちはカイナに感謝の意を伝えた。
「そんな! 私は三人にきちんと森の危険を、魔獣の危険を伝えられなかった。今回のことは、私のせいなんだ!」
「そんなことないですよ?」
「うんうん、何もかも俺たちが悪い!」
「冒険者は自己責任だって聞いています」
「で、でも……」
猫耳をしゅんと垂らしているカイナの頭を、ミリーが優しく撫でてくれた。
「……ミリーさん」
「私も同罪よ。だから、これからはきちんと後輩の指導をしていきましょう」
「……ぐすっ! はい!」
ミリーの言葉に泣いてしまったカイナだったが、その後の言葉には力が漲っていた。
褒められ、怒られ、最後にはまた褒められた太一たちは、多くの冒険者たちに囲まれて帰途についたのだった。
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