第34話:仕事について真剣に考えてみる

 薬草採集を終えて冒険者ギルドに戻ってきた太一たちは、クレアから丁寧に採集がされているとお褒めの言葉をいただいた。

 それが思いのほか嬉しく、太一たちは恥ずかしそうに笑っていた。


「それにしても……どうしてミリーさんがご一緒しているんですか?」

「それはカイナから聞いてちょうだい」

「うぐっ!?」

「……もしかしてカイナさん、まーた魔獣狩りに行きたいとか駄々をこねたんじゃないでしょうね?」

「ち、違うから! 本当に違うわよ!」

「魔獣狩り、ですって?」

「ひいいいいぃぃっ!?」


 魔獣狩りのことは聞いていなかったミリーがジロリと睨みつけると、カイナは恐怖におののいたような声をあげた。


「三人とも、今日はもう宿に戻って休んだらいいと思うわ」

「待って! 見捨てないで、みんな!」

「カイナには私たちがきちんと言い含めておくから、安心してちょうだいね~」

「わ、私たちってなんですか、私たちって!」

「あら~? それは当然、ライフキーパーズ全員でに決まっているじゃないのよ~」

「そ、そんな~!?」


『ライフキーパーズ』というのは、ディーがリーダーを務めているパーティの名前だ。

 命あるものを助ける、をモットーに冒険者活動を行っており、太一たちを助けたのもモットーに従って行動した結果だった。

 カイナもそんな彼らに助けられており、ライフキーパーズには頭が上がらなかった。


「そ、それじゃあ俺たちは、この辺で」

「ちょっと~!」

「「「し、失礼します! 本日はありがとうございました!」」」

「はいは~い、しっかり休むのよ~」


 太一たちは逃げるようにして冒険者ギルドをあとにしたが、その背中にカイナの悲痛な叫びが聞こえた気がしたものの、振り返ることなく足早に去っていった。


 宿に到着した太一たちは予想以上の収入に最初こそ喜んでいたものの、ミリーの言葉がずっと胸に引っ掛かっており、これからどうするべきかを真剣に考えることにした。


「俺たち、ずっと冒険者でいいと思うか?」


 話題を切り出したのは太一だった。


「お前と公太は得意なものがあるからいいけど、俺は違うからなぁ」

「僕は知識があるってだけで、本格的に農業をするかって言われたら、違うかなって思ってるよ」

「そうなの? 公太っておじいちゃん、おばあちゃんっ子だったから、てっきり農業をやりたいのかと思っていたよ」


 太一がそう口にすると、公太は恥ずかしそうに頬を掻きながら答えた。


「おじいちゃんやおばあちゃんは好きだけど、農場はそこまで好きじゃなかったんだ。だって、太陽の下でやるんだよ? 僕、汗っかきだし」

「「あー、確かに」」

「ふ、二人して納得しないでよ! いやまあ、事実なんだけどさ!」


 恥ずかしそうにそう口にした公太を見て、なんだかいつもの日常に戻ってきたような錯覚となり、太一たちは大いに笑った。


「そういう太一君こそどうするの? リーザさんにも褒められてたし、本当に商人として働いた方がいいんじゃない?」

「だよなぁ。でもスキルが罠師だろう? 商人で罠師って、どうするんだ?」

「っていうか、計算ができるだけで商人になれると思う? 俺は思わないんだけど」


 商人というのは腹の探り合いをするのが当然という職業、だと太一は認識している。

 自分の得を最大限に確保するため、様々な交渉術を用いて海千山千の同業者と相対していく。

 そんなことが自分にできるかと考えると、太一は絶対に無理だという結論に至っていた。


「さすがの太一でもそりゃ無理だな」

「むしろ優しいから相手の利益を考えちゃいそうだね」

「それはさすがにないと思うけど、でも交渉術は絶対に無理だな」

「となると……俺たちやっぱ、冒険者ってことでいいんだよな?」


 勇人がまとめを口にすると、太一と公太は同時に頷いた。


「まあ、『いのちだいじ』にとは言っているけど、やっぱり異世界に来たんだから冒険はしてみたいよな」

「そうだね! 僕もそう思ってたよ!」

「それじゃあ、俺たちは冒険者をしながら、この世界で冒険をしつつ、いのちだいじにをスローガンにして生きていく、それでいいか?」

「おう!」

「うん!」


 最後は太一が締め、いろいろあった一日が幕を下ろしたのだった。

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