友人の厄祓いに付き合ったら、友人の一言を聞いた縁結びの神様に悪戯されました!

夏葉緋翠

第一章 やっと逢えた

第1話 久しぶり

「あれ……光輝くん!?蒼部そうぶには来ないって言ってなかったっけ?」


 昇降口前に張り出されていた各クラスの新入生名簿を見上げて呟いた。


 天音あまね光輝こうき


 卓球競技において、個人で何度か全国出場した成績もあって、全国常連の有名私立からスカウトを受けていたと噂が立っていた。


 一瞬同姓同名かと思ったけど、珍しい苗字だしきっと彼なのだろう。

 本人が姿を現してくれたら手っ取り早いんだけど……そう思って辺りを見回して見ても、他の人より少し背が低い僕では何も分からない。


 169cm。高校一年生の男子としては平均的ではあっても、この辺りの地域で一番のスポーツ強豪校ともなれば、男子は巨人レベルで、横に大きい岩の巨人と縦に大きい壁の巨人、そして女子だって僕よりも身長が高い。それに囲まれてしまってはもう何も見えない。だから自分のクラスを確認するというだけのことに、30分近くも時間を要してしまったのだ。


「りお〜そんなキョロキョロしてどした?誰か探してんのか?」


 周りにいた女子たちの黄色い歓声と、男子たちの響めく声が聞こえた時点で若干察したけど、探していた本人が向こうからやってきてくれたようだ。


「光輝くん。名前じゃなくて、苗字の方で呼んでって言ってるじゃん……」


「悪い悪い、だって苗字だとやっぱり距離感あるように思っちゃうんだよな〜」


 音無おとなし里桜りお


 それが僕の名前だ。小・中学校と「りおちゃん」とからかうように名前を呼ばれ続けて、僕は名前を呼ばれることに抵抗を感じるようになってしまった。


 確かに自分でも女の子っぽい名前だなとは思う。いっそ童顔だったり、可愛らしい顔をしていれば名前の印象とも合致していたんだろうけど、生憎と僕は実年齢よりも少し大人びて落ち着いてるように見えるらしい。その見た目と名前のギャップがイジられる要因なのだろう。


 光輝くんのように純粋に下の名前で呼びたいからという理由でそう呼んでくれる人もいるけれど。


「まぁいいや。光輝くんのことを探していたんだよ」


「あら嬉しい」


 爽やかな笑顔をこちらへ向けながら、僕の隣に並んで、先程の僕と同じようにクラス発表の名簿を眺めると、すぐに見つけることが出来たようで、「同じクラスだな!」といっそう眩しい笑顔をこちらへ向けてくる。


 くっ……相変わらずキラキラしてるな。


 自分に向けられたものではないのに、僕とのやり取りを見ていた周りの女子たちが歓喜の悲鳴を上げている。


「人気っぷりは変わらないようで……」


「この間雑誌にも載ったしな!」


 別に卓球という競技を馬鹿にするつもりも、その競技に参加している自分を卑下する訳では無いけれど、今になってこそやっとテレビで取り上げられる機会が増えてきてはいるものの、野球やサッカーなどと比べればあまり派手さはないスポーツだと思われていることが多いと思う。

 小学生から高齢者まで、幅広い年齢層でも参加出来る身近さや、ある程度のラリーをするまでの技術の習得が簡単であることもその要因として考えられると思う。


 とまず卓球のイメージに対する話をしたところで、そんな場所に突如として現れたアイドル的存在がこの天音光輝という男なのだ。


 整った容姿に、見た目だけとは言わせない確かな実力を兼ね備えた期待の新星に対して、県内のスポーツ専門誌を皮切りにメディアはすぐに食いついた。


 本人のこのドヤ顔から、ファッション誌にでも取り上げられたのかと勘違いしてしまいそうだが、光輝くんが言っている雑誌とはおそらく先月発売された卓球専門誌のことだろう。


 まぁその記事の内容としては、8割がその容姿についてのものや、卓球とは関係の無いプライベートなものであったのだが。


「もっとプレーのことについて書いてくれてもいいのにね……」


「ほんとそうなんだよな〜頑張ってんだけどな〜……」


「光輝くん、はかっこいいんだから、そっちを取り上げた方がいいと思うんだけど」


 実際これはお世辞でも何でもなく、心からそう思っている。普段の爽やかさや明るい性格もさることながら、勝負の場だからこそのギラギラとした目の鋭さを見せるのは競技をしている間だけしか見ることが出来ない顔だ。

 卓球台から出るか出ないか―自陣でツーバウンドするかしないか―という球は、大体の人が一旦無難に返球して次の攻撃の機会を狙うものだけど、光輝くんはそこで臆せず果敢にドライヴを打ち込んでいく。

 だからといって前のめりになってしまうこともなく、相手の動きを見ながらその都度柔軟にプレイスタイルを変えていくことが出来る。


 純粋に光輝くんのプレーには魅せられてしまうし、憧れてしまうのだ。


「さすが里桜はちゃんと見ててくれ……って待って、今って言った!?ねぇ普段は!?」


「それは……まぁ……あんまし……?」


「なんで!?」


「いや、だって……」


 だって会う度に違う彼女さんになってるし、毎回彼女さんのクセ強いし、女子絡みの愚痴聞かされるんだもの。

 キラキラしてる雲の上の人だと思ってた時期もあったけど、話せば話すほどこの人も普段の生活においては、同じ人間なんだなぁと思うようになったのだ。


 一応彼の名誉のためにもフォローしておくと、光輝くんが一方的に相手方の悪口を言っている訳でない。ただその……あれだけ言い寄ってくる女の子が多いのに、どうしていつも厄介な人を引き当ててしまうのかと……


 前に話した時の例で言えば、「彼女がストーカー気質でさ〜」と聞かされている時なんか滅茶苦茶に怖かった。

 光輝くんが話を切り出したまさにそのタイミングで、光輝くんのスマホに着信が入り、光輝くんがなんの躊躇いもなくスピーカーモードにして通話ボタンを押した。


「ねぇ、そいつ誰?どうして私に内緒で他の人と会ってるの?そいつ女の子じゃないよねぇ?」


 これメンヘラも入ってない……?そして多分だけど、光輝くんの後方にある電信柱の影からこっちを睨みつけてるのがそうだよね?


 あの時ばかりは冷や汗が止まらなかったなぁ……


 とまあそのような話がいくつもあって、あげだしたらキリがない。


 ただ、そんな人らの話を聞かされることを若干厄介だと思っている僕も、その厄介な人らと同じ部類に入るんだと思う。

 だってそんなアイドル的な存在である光輝くんが、絶対に釣り合わないであろう僕の隣に自分から来てくれて、こうして毎回話してくれることを密かに喜んでしまっているのだから。


「まぁでも良かったよ」


「何が〜?」


「蒼部に光輝くんが来てくれてさ。これで今度からはチームメイトとして一緒に卓球できるわけだし」


「……!おう!!里桜、これからもよろしくな!!」


「うん、こちらこそ」


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