第17話 バスケ少年と文学少女の恋
結局は好きな物に辿り着く。
あれだけ選ぶのが大変だった本探しも、大好きな作家の映画化された作品に落ち着いた。
大人気のテレビドラマシリーズで、天才物理学者が「実に面白い」と難事件を解決するやつ。
ずっと、映画を観る前に読みたいと思っていたのを忘れていた。
高校の数学教師が、隣に住む母子を守る為に奮闘するお話し。
どうせ面白いに決まっている。
大好きな作家の
ミヨン先生ありがとうございます。
コレクションするために試し読みもせずに図書カードを使って買わせて頂きます。
1度読んでみてからミヨン先生に、報告する事にしよう。
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キャプテンはその日のうちに監督に話をしてくれたらしい。
ミヨン先生も宣言通り、その日の職員会議にかけてくれた。
次の日の放課後、私を見つけた監督に声をかけられた――
監督と言っても、私にとっては
3年の、社会の先生。
子どもの頃からずっと大学生になってもバスケに明け暮れ、審判の資格も取りバスケットボール協会にも席を置いているらしい。
子どもや大人に関わらず呼ばれれば審判を引き受け、自身も助っ人で試合に出たりするバスケ愛に溢れた先生だ。
バスケ部員はそんな先生に敬意を表し『監督』と呼ぶ。
「もし、しつこく言ってくる様なら靴を脱いで中に入って来なさい。」
「ありがとうございます。すみません。」
「なぜ謝る?」
「私は、バスケ部では無いから…。」
「この学校の生徒で無ければ、先生は子どもを助けないと思うか?」
「あ…いえ…。」
「困っている子どもに居場所を作らないなんて無いから(笑)先生達は困っているという事を言ってくれない方が辛いんだ。救えないからな。だから、困ったら困ったと言いなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
「よし。」
先生と微笑み合った。
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ドリブルの音とバッシュのキュッキュッという音が心地よかった。
見ていなくても、耳でユンの存在が感じられる。
――守られてる。
安心感があった。
時々アイツに会って一言二言、言われたりしたが無視していた。
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カシャンカシャンカシャンカシャン
「ん?」
本から顔を上げると、少し離れたところからテヨンが、体育館の中にスマホのレンズを向けて連写していた。
ユリは横からそのスマホを覗き込み、笑っている。
体育館の中を見ると、中央にドリブルをしているユンだけが見えた。
3人1組でする練習で、ゴール下に居る2人のディフェンスをいかに抜けて、レイアップを決められるか。
今まさに、オフェンスであるユンが腰をかがめドリブルをし、ディフェンス2人を睨みつけ攻撃を仕掛けようとするところだった。
――ダン!ダン!キュッ!キュッキュ…キュッ!
――パスッ
(おー!決まった!カッコいい!♡)
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「ねぇ。そこから撮ったら私入ってない?言ってくれたら
「
写真を確認しながら2人が戻って来た。
「ほら、見て!」
スマホ画面を見せられた。
(お♡)
確かに、本を読む私の奥で腰をかがめ、走り出そうとしているユンとの構図が良かった。
「なんかさぁ。あるじゃん。ロックスターと舞妓さんのカップルみたいなの!ユンくんとアミちゃんのやってる事ってそれみたいだなぁ!って思ってさ、撮っちゃった!ちょーエモい♡ LINEで送るね!」
「ありがとう。へへっ。」
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その時だった、あの声が聞こえた。
「キームさんっ」
(それやめろっ。)
無視をした。
『いま読んでるんだから、話しかけてくるな』オーラを醸し出しながら。
すると、また横に座って来た。
「無視すんなよ。俺、何かした?」
「…………」
「なぁ!」
!!
「何するんですか!?」
私の大好きな作家さんの、大切な私物の本を乱暴に奪った。
「無視するからだろ!」
「話す事が無いから話さないだけです!」
「おい!クォン・ミンジュン!」
監督がすぐに飛んできて防球ネット越しにミンジュンに声をかけた。
バスケ部の男子達が動きを止めこちらの様子を伺った。
「お前、何やってる?」
「何って、話してるだけです。」
「その本、アミに返せ。」
乱暴に帰って来た。
監督がその場にしゃがんで目線を合わせた。
「ミンジュン、お前さ。女のケツばっか追いかけ回すな。手当たり次第に声かけてるの、有名になってるぞ。」
「な、なんすか、そ、そ…」
「数打ってりゃそりゃ当たるよな。でもそれってモテるとは違うぞ。」
「別にモテたいとか思ってません。」
「ただやりたいだけか?」
「…………」
「女性に敬意を払えない様な男は、その内見向きもされなくなって、やりたくてもやれなくなるからな。女性の情報網って甘く見てると痛い目にあうぞ。」
「…………」
「女子数人から、お前にしつこく誘われると相談が寄せられているんだ。」
「えっ…。」
「本当に好きな人が出来た時に、今している事を後悔する事になるから、もうやめなさい。学校でお前が女子と話している時に、その女子が嫌そうにしていたら割り込んで聞くからな。どんな話をしているのか。」
「普通に話してるだけですよ!」
すぐさま立ち上がり、去って行った。
「先生!かっこいい!」
テヨンが叫んだ。
「ほんとカッコいい!」
私たち3人とマネージャー2人、女子5人で拍手を送った。
監督は
「ガキが、やりたいだけとか、何考えてんだ…。」
と、ボソッとつぶやき自分の居たポジションへと、戻って行った。
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「ごめんね、本当にあとちょっとなの。これだけ!」
「うん。」
「すぐ読み終わるからちょっと待って。」
「はいはい。どうぞ。」
晩御飯を食べた後、待ち合わせをして公園のベンチで会うのが日課の様になっている。
題材に選んだ小説の一巡目が終わりそうで、読み切りたかった。
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(待って、待って!なんて事!そんな!そんな!そんな!)
「うぅ、うぅ。何でぇ?あぁぁ、うぇーん。」
「ちょっ、ちょっと待てよ…」
「あっ、あっ、ひっ。うぅ。」
「俺が泣かせてるみたいだから!」
「あぁ。ひどいよっ」
「アミぃ!頼むって!!」
「ひどすぎるぅ。うっ。うわぁぁん!」
「お前マジかよ!」
予想外の悲しい結末に爆発的に泣いてしまった。
その横でユンがなす術もなくオロオロとしていた。
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「ちょっと泣いただけじゃん。」
「はぁ?あれが?撮っとけば良かったわ。」
「おっきな声では泣いてなかったもん。」
「そんな問題じゃねーんだよ、ばーか。」
「ひどいなぁ…。」
「………………」
「恥ずかしい思いさせてごめんね。ケンカになるなら帰る…。」
立ち上がった瞬間、右手首を掴んで引っ張られた。
その反動で、ベンチに座ってしまった。
「ふっ」
立ち上がったのに、秒で戻ってしまったのが面白くて、2人同時に吹き出しそうになった。
「これの映画、今度一緒に観よ?」
「うるさい。お前、ちょっと黙ってろ。」
言う事を聞いて黙っていると、最初に沈黙を破ったのは、ユンの方だった。
「………それ、いつにする?」
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