第15話 記憶の上書き
キャプテンと、3秒程見つめ合ったところで
「大事な事だから答えてくれる?」
と、言われた。
ユンは顔だけをこちらに向け私を見ている。
(どうしよう。どうやって言おう。)
「狙ってます、アミちゃんの事、23人目にしようとしてます!」
テヨンが答えてしまった。
「はい!終わったー。アイツ終わったわぁ。」
キャプテンが言うと、3年生が騒ぎ始めた。
「どんな感じに言われてんの?ってか何で狙われる事になった?」
「あのぉ……、国語のミヨン先生に呼ばれて、ある事をする事になったんですけど、あのミンジュンって人も一緒にやる事になって、それで、そこで知り合って…」
「うん、で?」
「で…あの…。」
ユンが聞いているので言い辛い。
言葉を選んでいたら
「アミちゃん話し辛いと思うんで、私が代わりに話します。」
と、テヨンが引き取った。
「さっき図書館で肩掴まれて、髪を触られたみたいです。こう、耳に髪をかけたって…」
「え。きも!吐いて良い?(苦笑)」
数人が「ふっ」と笑った。
「ん、で?」
ユンの事を『彼氏』と偽った事を伏せておきたくて、後は自分で話す事にした。
「彼氏が居るか聞かれたので、居ると答えた方が良いと思って……」
「その方が絶対良いよ。間違ってない。」
そう言いながら、サムズアップしてくれた。
「居るって答えたら……人見知りしないし直ぐやれると思ったのになって。別れたらおいで……って。」
「…………。」
「いつでもしてあげるって言われました……あ!あと、2年に簡単にやれる女が居たら…教えてって…」
誰も笑わなかった。
「アイツ、マジでシメようぜ。」
副キャプテンが、イライラした様子で言った。
「あの!…ミヨン先生に話してみますから。」
「うん、そうしな。」
キャプテンが即答した。
心配になってユンを見てみると、転がっているボールを蹴飛ばしていた。
天を仰ぐと振り返り、キャプテンに近づき向かい合った。
「こいつ、あの3年とこれから顔合わせないといけないんです。やらないといけない事があるから。帰り心配なので毎日ここで、やらせて良いですか?」
「何をすんの?」
「話せよ。」
ユンが私に向かい言った。
「ダメだったら恥ずかしいからあんまり言いたくない。」
「大丈夫だって。言えよ。」
「…今年の読書感想文コンクール、地方と全国の入賞を一緒に目指す事になったんです。本を何回も読まないとダメだし、作文もOKが出るまで何回も書かないといけません。」
「あれって1人だけだよね?学年で1人しか選ばれないんだよね?アミちゃん凄いじゃん!」
マネージャーが喜ぶ横でキャプテンが
「てか、アイツが俺らの代表かよ。」
と、嫌な顔をした。
「読書だって作文だってここでも出来るし毎日ここに居たら監視が出来るなって思って…」
「わかった。監督達には俺らから話してやるよ。」
「ありがとうございます。」
ユンが頭を下げたのを見て、私は立ち上がった。
「あの。私の為にすみません。ありがとうございます。皆さんにお願いがあるんですけど。私のコンクールの話しは内緒にしてもらっていいですか?入賞しなかったら恥ずかしいので…」
「わかったわかった。内緒ね?でも、その内すぐにバレると思うよ(笑)よし、監督来ちゃうから練習戻るぞ!」
集まっていた部員が、散らばって行った。
「あ、ユンくん!」
ユンが黙って振り返った。
「ありがとう!ミヨン先生の所に行ってくる。」
「1人で行くなよ。悪いけど2人一緒に行ってくれる?」
と、テヨンとユリに向かって言うと、2人は(うんうん)と頷いた。
3人でユンの後ろ姿を見ていたら、監督が入って来た。
「ごめんね。なんか、私のために。」
「何言ってんの?当たり前の事じゃん。」
と、ユリが背中をさすってくれた。
「うふっ。ユンくんに任命されちゃったね!じゃ、行こっ。」
とテヨンが手をひいてくれた。
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「女の大事な髪を無断で触るなんて最低な行為だわね。怖かったでしょ?大丈夫?」
「帰って早く洗いたいです。」
「かわいそうに…。」
「その噂は一部の先生がうっすらしか聞いていなくて、職員室では問題になって無かったのよね。」
「じゃあ…どうにもならないですね…。」
「そんな事ないわよ。噂の中身がどこまで本当かはこの際どうでも良いわ。アミさんが嫌な思いをしたのは確かなんだし、この先も危ない目に合うかもしれない限り、私たちは守らなきいけないの。今日の職員会議で議題に出します。」
「ミヨン先生!(泣)」
「作文の為に集まる際には先生と帰りましょう。お家まで送るから。」
「え?どうやって?良いんですか?」
「先生も自転車通勤なのよ。だから気にしないで。アミさんには諦めて欲しくないからね!」
「ありがとうございます(泣)」
(やっぱりミヨン先生大好き(泣))
ミヨン先生との話が楽しくて、職員室に長居してしまった。
職員室から体育館に向かう途中、触られた左側の髪を洗った。
体育館に着くと、帰り支度も済み監督の話を聞いている所だった。
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テヨンとユリと別れて体育館の前でユンが出てくるのを待っていると、
ユンは走って1番に出てきてくれた。
「ちゃんと話せた?」
「うん。これから職員会議で話してくれるって。それにね!作文で集まる時は家まで送ってくれるって!」
ユンは濡れた髪に気付いたのか私が話している間、顔の左側を見ていた。
「じゃあ、少しは安心だな。図書館…行きたい?」
「うん…いい?」
「行こ。」
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「ここで座って待っててくれたらいいよ。」
「いや。良いよ…。」
本を選ぶ間も、そばを離れずついて来てくれた。
5冊目を手に取り6冊目を選び始めた時、私の手から本を取って持ってくれた。
「ありがとう。」
「うん。」
10冊選びテーブルに座った。
昨日と同じユンが左で私が右。
「ユンくん時間ある?」
「いいよ。読みたいんだろ?」
「ごめん、最初を少し読んでダメなら返せるからちょっと待ってて。」
「スマホ触ってるから良いよ。」
なかなかしっくり来ない。
3冊目を閉じて、4冊目を取ろうとした時だった……
!!!!!!!!
心臓がドクンと大きく跳ねる。
呼吸が止まりそうになった。
荒くなる呼吸をコントロール出来ない。
さっき洗った左側の髪を、ユンが触っていた。
恐る恐るユンの顔を見る。
切ない表情に、泣きそうになった。
ユンは私の左側頭部を、右手でゆっくりと何度も撫でた。
私の髪が、ユンの指を何度も通る。
ユンの指が、頭を触り髪を通しながら耳や頬に触れる。
指先から想いが伝わる。
「嫌な事は、早く忘れろ。」
涙が
ユンはその指で、私の耳に髪をかけた。
「記憶の上書き!嫌な方、忘れろ。」
「じゃ………今の忘れるね。」
「ぷはっ!(笑)言うと思った!」
「ふっ。ふふっ。」
「泣くか笑うかどっちかにしろよ。」
「ふふふっ。」
「チッ(笑)」
「ユンくん…。」
「ん?」
「ありがと。」
ユンは少し微笑むと、またスマホに目を落とした。
私は涙を拭いて、4冊目を手に取り読み始めた。
ドキドキして嬉しくて、内容は全く頭に入って来なかった。
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