第13話 魔の手
「!!!!!!いったぁ!!」
椅子から落ちそうになる程の衝撃を、体に食らった。
自分の身に何が起こったのか、直ぐには理解出来なかった。
テーブルに
私の腰掛けている椅子に、左側から勢いよく滑り込み、座っているとんでもない奴が居る。
スマホ画面をミンジュンに素早く見せると、
すぐに、その“とんでもない奴”の処理に取り掛かった。
「なに、するんだ……よ!!」
「よ!!」のタイミングで左腕と腰を使って椅子から落としてやろうとしたが、
ビクともしなかった。
顔を見なくても呼吸する音や、柔軟剤と汗拭きシートの匂いでそれが“ユン”だと分かる。
「あっち行きなよ!」
アゴで向かい側の席を指した。
「どこに座ろうが自由だろ。」
「お尻が、落ちてんの!!」
「お前があっち行け。」
このやり取りを見ていたミンジュンが立ち上がり、片付けを始めた。
「ここどうぞ。」
と立ち去って行った。
私が折れてミンジュンの座っていた、右の席に移動した。
ミンジュンが視界から居なくなったのを確認すると、
「おかしくね?」
と、ユンが言い出した。
「こーんなにいっぱい席があんのに隣に座るとかおかしくね?」
見渡すとほとんど人がいなかった。
「いやいやいや、さっきどこに座ろうが自由とかって言ってたじゃん!」
「知らねぇ。」
「はぁ?」
「あいつ友達?」
「あの人3年生だよ。今日初めて会ったし。」
「そんな風には見えなかったけどな!チッ。」
ユンは明らかにヤキモチをやいている。
ニヤニヤしそうになるのを抑えた。
我慢我慢。
「で? なんで図書館?」
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経緯を説明した。
「俺だったら、絶対やらねぇわぁ〜。」
バスケですごいじゃん的な事を言って喜ばせるか、自慢げに言って煽るか迷っていたら
「すごいと思うよ。」
と、真顔で言われた。
「俺なんて声もかけられねぇよ。ホントすごいと思うよ。」
「あ、ありがとう。」
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駐輪場に行くと、私の自転車の横にユンの自転車が停めてあった。
自転車を押しながら図書館の敷地内を歩く。
門の手前でユンが立ち止まった。
「明日もここ
「今日借りた2冊がダメだったらね。」
「借りたらすぐ体育館に来いよ。」
そう言うと私から目を逸らし、通りを走る車を次々に目で追った。
「どこでだって読めるんだから、体育館で読めば良いじゃん…。」
と、続けた。
「あぁっ!」
目が合う。
「そっか。そうだね!(笑)」
「さっきのアイツ。あんまり近づくなよ…。」
「私が先に座ってたんだよ?あっちが隣に座って来たんだもん。」
「じゃあ、離れろ。」
「何それ、もしかしてヤキモチやいてんの?」
「違う! いや、そうだけど、違くてさ!」
「どっちだよ…。」
「さっき本!写真撮ってただろ?あの時さ…あぁ!言いたくねぇ…。」
「じゃあ、言わなくてイイよ? 帰ろ。」
私は再び歩き出した。
「あの時!」
立ち止まって振り返る。
ユンの顔が真剣だった。
「アミのこと舐める様に見てた。」
「え?えぇ??」
「首とか…胸とか…色んなとこ!だから!近づいて来たら逃げろ。」
「わ、わかった…。って…。ええ?? 気持ち悪ぅ。」
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私たちの家は方向が違う。
図書館の門を出てお、互いに様子を伺った。
「ムカつくから今日は相手してやんねぇ。」
「別に良いし!」
「ふんっ。」
そう言うとユンは、素早く自転車に乗って帰ってしまった。
(なんだよ…寂しいじゃん…。)
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翌朝、ユンはまだ機嫌が悪かった。
私とちゃんと口を利いたは、2時間目が終わってからだった。
「昨日借りた本はどうだったんだよ?」
「2冊ともダメだった。前から映画を見る前に原作を読みたいなって思ってるのが何冊かあるから、それ見てくる。」
「すぐ行って戻って来いよ。」
「約束は出来ないぃ!」
「早く来ないと絶交だから。」
「ぷはっ。ふふふっ。」
『絶交』の、あまりの可愛さに笑ってしまった。
… 睨まれた。
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早く図書館を出るにはタイトルを決めておけば良いのだ。
お昼休みにリストアップしておいた。
(今日は5冊にしておこう。)
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(映画コーナーがあれば良いのに…)
作者ごとに分かれているため、探すのには少々時間がかかる。
(これ…こんなに分厚いのか…)
「キームさんっ。」
見ると、ミンジュンだった。
近づいて来る。
「良いの見つかった?」
頭の上から声が聞こえる。
距離感がやっぱりおかしい。
近すぎる。
後ろに一歩離れた。
「逃げなくても良いじゃん。」
「逃げて無いです。」
ミンジュンはまた近づくと、こともあろうに手を伸ばし、私の頬にかかる髪を触りそのまま耳にかけた。
「キレイな髪だね?」
虫唾が走る。
また手が伸びて来た。
「さ、触らないで下さい!」
「あれぇ?おかしいなぁ。大抵の女は俺がこれをやると喜ぶのに。」
ミンジュンが少しずつ詰め寄ってくる。
両肩を、両手で掴まれてしまった。
「や、やめてください。声、おおきい声、出しますよ?」
手を下ろした。
「昨日のアレって彼氏?」
「そうです。」
嘘も方便。そう答えた方が良いと思った。
「なんだ、彼氏持ちかよ。チッ。人見知りしない感じだし、直ぐにヤレると思ったのにな。」
「あぁ??」
「2年に簡単にヤレる女居ない?ウワサとかあったら教えてくれよ。 あ、彼氏と別れたらおいで。いつでも“して”あげるから。」
じゃあな。
と、後ろ手に手を振って立ち去っていった。
全身のあらゆる毛が逆立つ。
あんな男に簡単になびく女が居るのか。
地球上にあの男しか居なくなったってごめんだ!
私は少し震える体で素早く本を選び
急いで体育館へ向かった。
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