第8話 『好き』という気持ち

 寝るまでの間、LINEの会話で頭も指も忙しかった。

6人のグループと、モヤモヤを聞いてもらう為の女子3人のグループ。

それに加えてソジンの個人トークもあった。


 何で元カノの存在が気になるのか?

って事を聞かれた。

今更ごまかせないので、素直に話した。


 『付き合っていた人は居なかったのは確かだから、誰か違う人の話しなんじゃ無いか?』

との事だった。

元カノが居たって、別に隠す必要なんて無い訳だし…。


(嘘では無いと思う…)



 ジアンは

『こんなにモテるのに元カノの1人や2人いるでしょ!?10人以上居たって驚いちゃダメだよ。だって選び放題だよ?』

と、言っていた…。


『モテる人を好きになる覚悟がなってない。』

と、叱られる始末。


(後からショックを受けない為の、彼女なりの優しさだと分かってるよ…。)


・ 



「おはよ。」


「おはよ…。」


 ジアンのせいで

[元カノ10人以上の恋愛マスター]

に見えてしまって、目が合わせられない。


「おい!」


 肩を叩かれた。


「何!?」


「お前、なんか急に…変だよ?」


「気のせいだよ。」


 それは、めちゃくちゃ無理がある。

自分でもわかる。



 リュックから教科書やノートを取り出し、机にしまう姿を見ていると、身のこなしや仕草がやっぱりカッコよくて、胸がときめく。

モテるのもわかるし過去は変えられない。



「なんだよ?(笑)」


 ユンが椅子に腰掛けながら、こちらを見ずに言った。


「え?」


「俺の顔に、なんか付いてる?」


 今日初めてちゃんと、目が合った。


「付いてない!」


 慌てて体勢を黒板の方へ戻す。

明らかに見惚れてしまっていた…。


(あぁ!恥ずかしっ!)



――――――――――――――――

《ユンside》


【3時間目・体育】


「今日女子は体育館でバドミントンだってぇ。ユンちゃんがっかりぃ。」

デヒョンがからかう。



「よーし!全員揃ったか?今日は走り幅跳びだ。陸上部!手伝ってくれ。」



 走り幅跳びは1人ずつしか出来ない。

ゆっくり話しが出来た。



「アミちゃんが、何でお前に彼女が居たかを知りたかったのか、気になって聞いてみたよ。」


「なんて?」


「お前、コートから探すの大変。って、居なかったらずっと気になる。って言ったんだろ?」


「あぁ…。言った、かな。」


「前に誰かを待ってて探した事があったんだなって分かったから。だって。で、その子と付き合ってたのかなぁって気になったらしいよ。」


「あぁ…。」


「誰か違う人の話しじゃ無い?って言っといたけど、そうなんだろ?お前の話しじゃないよな?」


「いや、俺の話。」


「はぁ?誰の事?」


「アミだよ。」


「なんでぇ?」


 デヒョンが大きな目を、さらに大きくして俺の顔を覗き込んだ。


「だ、だってさ、アミちゃんと仲良くなったのは同じクラスになってからだろ?」


「お前、目落ちるぞ(笑)」


「そうだよ。アミちゃんを待ってたってなんだよ。説明しろよ」



 2ヶ月前の2月…。

バスケットボール部、新人生大会決勝。

新人戦は1年全員が試合に参加が出来る。

1年の部員数は20人。

観客席を見渡すと、1年生の顔が沢山あった。


 その中に、アミが一緒に行動している女子3

人の顔があった。

ドキッとした。

アミが来ているかもしれない。

胸が高鳴る。

その女子3人を中心に周辺を探す。


 居ない…?

あの3人がいてアイツが居ない。


 試合直前まで観客席を探したが見つからない。

遅れて来るのか?

ベンチに戻るたびに観客席が気になる。


 試合結果は、俺たちの優勝。

アミは最後まで見つからなかった。



「試合の後に知ったんだけど、その3人の中の2人がバスケ部に彼氏がいて、もう1人はバスケ部に好きな奴が居たんだって。結局もう1人もすぐに付き合い出したみたいだな。」


「ふ〜ん」


「昨日何気なく1年の時の友達はどうしたのか聞いてみたら、3人とも彼氏が居たから学校でしか仲良くしてなかった。ってさ。」


「それで今、新しい友達と一緒に居るんだね。あまり目立たない感じの知らない子ばっかりだったから、最初は不安だったんだけど仲良くなってみたらみんな面白いし、良い子達だよね。」


「確かに。最初は陰キャかよ?って思ったけど、何でも食わず嫌いはよく無いな?(笑)」


「チッ。くたばれ。」


「美人で目立つからって良いわけでは無いし、陰キャだって仲良くなったら俺らとおんなじって事がわかったよ。(笑)」


「お前がこんなに毒舌だって事も、仲良くなんないと分からないしな!早く、みーんなにバレたらいいのに。」


「あの子達、可愛いよ。性格も良いし。あの目立つ4人じゃなくて良かったもん。俺あの4人苦手。性格悪いもん。あの4人だったらユンの頼みでも断ってた。」


「あぁ、あれはクズだよ。性格の悪いのが滲み出ててキレイに見えないけどな?アホな男共がチヤホヤするから調子に乗るんだよ。チッ!」


「こないだ、アミ達をすげー顔で睨んでたからな。」


「マジで!?やっぱりヤダなぁ。」




――――――――――――――

《アミside》



“ぐぅ…ぎゅるる”



 派手にお腹の音を鳴らしてしまった。

恥ずかしくて顔が上げられない。

気付かれていないか、気配で様子を探る。


(聞こえたかな?どうしよう…。)



「これ、やるよ。」


「ん?」


 ユンが握った右手を差し出した。


「手ぇ出せって。」


 右手を差し出す。

手のひらにチクっとした感覚。


 一粒包装のキャラメルだった。



(え?って事は…?)


(…!! 聞こえてたぁ!!)



 あまりの恥ずかしさに、手のひらにキャラメルを乗せたまま、勢いよく机に突っ伏すと『ゴンッ』と大きな音が響いた。

特に痛くは無い。

突っ伏したままの私の姿を見て、ユンは声を殺して大爆笑していた。


「はぁぁあ!おもしれっ。早く食べないと先生来るぞ。」


「えっ…。」


 授業中にお腹の音が教室に響くのを阻止すべく、キャラメルを素早く口に入れた。


 キャラメルは笑っちゃうくらいに甘くて、胸の痛みを癒してくれた。

過去がどうであれ、私はいまユンくんが好き。

こんな幸せな毎日を満喫しないなんてもったいない。



 私は、ユンに向かい肩をすくめて

「へへへっ」と照れ笑いをした。


 それを見たユンの顔が赤くなった。


 これ以上、私は何を望むのか。

贅沢すぎてバチが当たっちゃうね。



(ソジンくんに、もう気にしないってLINEしよ。)

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