第6話 確信

「おはよ!」


「ジアン!おはよう…どうしよう。緊張する!」


「もし、話しかけられなかったら頑張って、アミから話しかけるんだよ!?」


「何て?」


「そんなもん自分で考えなよ!」


「ジアン!アミ!おはよ!」

ソアが慌てて教室に入って来た。


「バスケ部も着替え終わって部室から出て来てたから、もうちょっとしたら来るよ!」


「ひぃ〜!」





 教室に誰かが入って来るたびに私たちが勢いよく視線を向けるので、その視線に気付いたクラスメイトは

〝ギクっ〟と、たじろいだ。

10人程その繰り返しをしてしまった所で


 ジアンが


「何やってんだ、あたしたち!」

と、ツッコんだ。

我に返った3人は、顔を見合わせて大爆笑した。


「ぶはっ!!ぎゃはははは!」

「怖いからぁ!きゃはは!」




 一笑いして呼吸が整った所で、ユンの姿が目に入った。




 廊下の窓から差し込む朝日に照らされて白い肌はさらに輝き、汗で濡れる髪の黒さとの対比が眩しかった。



 私がユンの姿を捉えたのと同時に目が合ったが、お互いに目を逸さなかった。




 どうして〝そう〟思ったのか、理屈では説明できないが



――私の事、好きなんだ…



 と、ユンの視線で解った。





 自信とかそんなモノではない。

自惚れだと笑いたい奴は笑えばいい。

目を見て、そうわかったのだから仕方ない。


 だから、不安なんてどこかへ行ってしまった。

彼は私を…





――放っておくはずがない。






「おはよ。」


「おはよう。」


「昨日観たよ。映画。」


「どうだった?」


「まぁまぁ…面白かったかな。」


「でしょ?そりゃそうじゃん!ふふんっ」


「面白くなかったらボロクソに言ってやるつもりだったのにな。」


「残念だったね!」


 私のドヤ顔を見て、ユンは鼻で笑った。



 このやり取りにホッとしたのか呆れたのか、ジアンとソアは自分の席へと向かった。



 すると、ユンは顔を近づけ小さな声で


「今日返しに行こうかと思ってるんだけど、一緒に行く?」


と聞いて来た。


「うん。行く。」


「じゃあ…8時に…マンションの駐輪場でいっか。」


「うん…」





〜1時間目終了後〜



「次の実験室、4人で行って。」


「ん?お前は?」


「アミと行く。」


「っだそうですぅ!俺たちは邪魔者らしいよ?」

ソジンが呆れて笑う。



「アミ行こ。」


「うん。」






「今日、風があんまりなかったのに、ここはすごいね」


「建物の造りでそうなるのかもな。」


「知ってて連れて来たんじゃないんだ?」


「知らない。」


「なんだぁ。あはははっ。」



 ユンがつられて穏やかに笑う。

笑ってくれると嬉しい。

普段、あまり笑っているところを見ないから、すごく嬉しい。





 実験室から教室までは6人で戻る。


 男子1軍の上位に君臨する3人が、今まで目立たなかった女子3人と急に行動を共にしだした事も、噂として学校中に広まっていた。

そのせいで、すれ違う人が皆んな私たちを見る。

興味と好奇の目にさらされて、居心地は……

良いはずはない。


 それに加え、恐ろしい事に

1軍の女子4人組がすれ違う直前、物凄い剣幕で睨んできた。


 あまりの剣幕に、恐怖と共に嫌な予感がよぎったが


 4人の前を通り掛かった時、

ユンが振り返り「なぁ」と、普段より大きい声で話しかけてきた。


「ん?」


「飴とか持ってない?腹減った。」


「持ってる訳ないじゃん(笑)」


「早弁用の弁当、朝練前に食っちゃったんだよな。」


「じゃあ、お弁当を食べてお昼は食堂に行けば?」


「そっか…。そうしよ。」



――絶対に、わざとだ。




(それって、マウントだからね?ぐふふっ。)





――――――――――――――――――――

☆自宅☆




「どこ行くの!?」


「レンタルビデオ屋さん。」


「遅くならない様にね。」


「はーい。」




◎19時57分


(遅くもなく早くもないちょうど良い!)



「はぁはぁはぁ、ごめん。ちょっと過ぎたな。」


「5分だけだよ?大丈夫。部活あったのに走って来たの?」


「トレーニングになるから。」


「へぇ。あ、私走らないからね?」


「良いよ(笑)チャリキーは?」



 一昨日とは違って少し早い時間だけに、同じ高校の人を何人も見かけた。

その度にユンの背中から顔を離していたら

「何やってんの?」と笑われてしまった。

背中に耳をあてて聞く笑い声は、低くて甘い。





「あの人、ファンクラブの人じゃない?」


「あぁ、そうだな。わざと横走ろうか?キャキャ!」


「やだよ!やめてね?怖いから。」


「わかったよ。」


 ルートを変えてくれた。





「あれ?今日は返却だけ?」


「うん。春の大会が近いからもう、休みは無いかもな。」


「そうなんだ…頑張ってね。」


「うん。で、アミは門限何時?」


「10時だよ。」


「じゃあ、どこ行く?」





 ユンは、真っ直ぐな目で私に聞いた。

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