第2話 シャーペン
実験室に着いた私たちは、男女別に座らされたせいで離れてしまった。
授業が終わり教室に戻ってからも、友達の多いユンは沢山の人に囲まれて、私の入る隙なんて無かった。
私の方はと言うと、自己紹介で興味を持ってくれた映画好きの女の子が2人
『ジアン』と『ソア』が話しかけてきてくれた。
2学期初日は半日授業。
これと言った楽しいイベントもなく、終わってしまった。
「2人は今日時間ある?お昼ご飯食べに行かない?」
とジアンが提案してくれた。
「ごめん、私バレー部でさ、今日から練習あるんだ。運動部はみんな弁当持ち。」
「そっか、じゃあアミは?」
「ごめん、今日はお母さんがお昼ご飯用意して仕事行っちゃった…。」
「そっか、じゃあまた今度だね。」
「ごめんね!」
この会話をする私たちのすぐ側を、ユンは一瞥もせず通り抜け教室を出た。
(ソンくんも部活か。あ!シャーペン!返してもらうの忘れた。ま、明日でいっか)
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――――――――――――――――――――
翌朝、学校の駐輪場に自転車を停め
体育館の前を通り抜ける。
朝練をしているはずのユンの事が気になって、少し中を覗いたけど、姿は確認出来なかった。
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「おはよう!」
朝練を終えて教室に入ってきたユンに、勇気を振り絞って挨拶をした。
目が合ったのにすぐに逸らされてしまった…。
「おはよ。シャーペン返す。消しゴムは… 貰っとくわ。」
ユンは目も合わせずに、私にシャーペンを手渡した後そのまま座った。
「あ、うん…。」
(昨日、距離を縮めたと思ったんだけどな…何なんだろうこの感じ…。嫌われちゃったのかな…。)
・
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この日から私は毎日声をかけ続けた。
「おはよう!」と言うと「おはよ」と返ってくるだけの何もない日々を過ごした後、どちらから言い出したのか「バイバイ」も言い合える様になった。
だが、それ以上の事は何も無いまま、時は過ぎて行った。
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――――――――――――――――――――
「はぁ。いつ終わんだよぉ。」
3教科分の宿題を終わらせたのに!
まだ2教科ある…。
嫌になって独り言を言ってしまった。
今日は最悪な事に、どの教科も宿題を出した。
「なんで今日はこんなに書く事が多いの?手疲れたよ…。」
カチカチカチ
(ん?)
カチカチカチカチ
(芯無くなった)
シャーペンの蓋を取り消しゴムを取る。
芯を入れる。
無意識でも出来る一連の流れ。
(ん?なんで入んないの?)
よーく中を見てみると、筒状に丸められた紙が入っていた。
(なんだ?何これ?出るかな。)
ピンセットや安全ピンなどを使って、何とか取り出す事が出来た。
ノートの端を手でちぎったであろう、その紙に
『20時 学校前の公園で待ってる。
ユン』
(はぁぁ!? 今、何時!?? 21時!!!)
指定の時間から、1時間も過ぎている。
いや、違う、シャーペンが返って来てから何日経った??
私はパニックだった。
頭ではもう居るはずが無いと分かっていたけれど、確認したい衝動は抑えられ無かった。
朝、寝坊した時よりも素早く準備を済ませ、
母親になんだかんだと言い訳をして家を飛び出した。
自転車に飛び乗り夜道を急ぐ。
直ぐに気付かなかった自分を責めながら、公園へ急いだ。
・
・
(この公園ってさ…そこそこ広いのに、どこ探せばいいんだろう。)
駐輪場に自転車を停めて、自動販売機やベンチの集まるエリアに行く事にした。
(この時間ってこんなに人が居ないんだ。じゃあ、なおさら居るはず無いよね。…ん?…)
「あれ??」
ジャージを来てベンチに寝そべっている、若い男の人が見えた。
心臓がビクンと大きく跳ねる。
恐る恐る近づくと、私が触れたサラサラの髪と学校のどんな綺麗な女の子よりも透明感のあるお砂糖のような白い肌が、右腕で顔を覆っていてもソン・ユンだと解らせた。
慌てて駆け寄り声を掛けた。
「ソンくん!ごめんなさい!」
ユンがゆっくりと、顔から腕を剥がしあくびをしながら起き上がる。
「はぁ〜あ。遅くね!?」
「ご、ごめんなさい…。」
「何日だ?あぁ1週間か。こんだけ芯が無くなんないのは、勉強してない証拠だな。」
「そ、そんな事無いもん!だ、だ、だけど、だけどさ?なんで!?1週間も経ったのに、なんで居るの??」
「アレ……見つけたら、お前だったら来るかなって。せっかく来たのに俺がいなかったら、さ…、その……そりぁ、待つだろ。」
ユンがバツが悪そうに目を逸らした。
私もどうしたら良いのか、分からなくなってしまった。
ぎこちない時間が流れて行く。
「わ、私!シャーペン…そうだ!シャーペン!1本しか持って無いわけじゃ無いんだけど!」
「あ!…そっかぁ。そうだな。ぷはっ。あはははっ。」
あの笑顔だ。
2人だけの世界に連れて行ってくれる様な魔法みたいな笑顔。
嫌な事が全て忘れられる様な、また見たいと願っていた笑顔。
好きになってから見るその笑顔は
なんて甘く至福なのだろうか。
「そうだ、いっぱい待たせたお詫びにジュース奢ってあげる!何が良い?」
「ブラック。 ホットの。」
「え!ブラック飲めるんだ!大人だね!」
「意味わかんねぇ。」
笑ったかと思ったらすっごく冷たくなるし。
なんだか、不思議な人だ。
カフェオレが飲みたかったのに、何故だか背伸びをして
私は微糖を買った。
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