第10話 8月31日

 久しぶりの学校だ。夏休み開始以来、日本にいなかったので身体にまとわりつく暑さに懐かしさを感じながらも嫌気が差す。


 酒井雄二は昇降口の扉を開けて学校内に入って教室の前までやってきた。学校内は人がいる気配がなく静まり返っている。


 教室の扉を開けると中には誰も居なかった。子どもたちは新しい生活の場所を見つけたのだろうか。


 会えないことは寂しいが、自分の生きる場所を見つけてくれているも願いたい。


 先生の夏休みの宿題は自分なりの責任を取ってきた。こんな世の中にした、こんな時代にした人たちへの責任を突きつけてきた。


 国が無くなるというのに、こんなことをするなんて誰にも理解されないだろう。だけど、やらない選択肢はなかった。やらないことは、俺自身のアイデンティティを保てない。


 ポケットに入れているモバイル端末は絶えず通知を伝えている。この通知も間もなく止まるだろう。この学校とともに。


 この学校が我々の存在した証となるのだ。未来永劫に。

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