3.毒は少しずつ体内に廻り、人を蝕む
休み時間になる度、クロヴィスの周囲に人の壁ができていた。魔力なしから魔力ありになり、異例の転校という噂は彼の容姿により話題になることはなかった。
ただ、いつも周囲に人がいる状況は落ち着かない気がする。まぁ、これは大勢より少数もしくは一人を好む私から見た感想だ。
騒がしいのが好きな人は男女問わず集まってくれるこの状況を何とも思わないだろう。それに嫌われるよりかは好意を抱いてもらえる方がいいに決まっている。
「リリー、私もう行くね」
「分かった」
昼休憩はいつも婚約者であるアランと摂っているのでクロヴィスへ積極的に話かけているリリーに一声かけてから私は教室を出た。そのため、そんな私の背を見ていたクロヴィスの視線には気づかなかった。
私が食堂に行くと既にランとアランが並んで食事をしていた。
「・・・・」
どうしていつもランがいるんだろう。少しは遠慮してくれたらいいのに。
「義姉さん。今日、義姉さんのクラスに転校生が来たって聞いたんだけど」
私が席に着くと待ってましたと言わんばかりにランが転校生の話題を出す。アランも噂の真偽が気になっていたのか、それともランが気にしているからなのか分からないが珍しく私の声に耳を傾けてきた。
「どんな人?男の人?女の人?」
ランは目をキラキラして矢継ぎ早に聞いてくる。他人のことなんてどうでもいいじゃない。どうして、そんなことが気になるの?
「男。人となりは知らない」
今日転校して来たんだから知るわけがない。
「へぇ、男の人なんだ。友達になれるかな」
クラス違うでしょ。学年も違う。全校生徒と仲良くなる気でいる?
「格好良い?」
「美人」
「男の人なのに?」
あんただって、格好良いよりも美人って言葉が似合うでしょ。自分の姿を鏡で見たことがないのかしら。
「ラン、転校生なんてどうでも良いだろう」とアランが不機嫌そうに言う。
「貴族でありながら魔力なしなんて、家門を汚した存在だ。お前が近づく価値はない」とアランはクロヴィスのことを切り捨てた。
でもね、アラン。気がついている?
あんたの隣に座っているランお友達の存在は私から見たら十分、家門の恥よ。だって、愛人の子だもの。
いいえ、ダメね。そんな考え方をしては。
彼に罪はない。あるのは私の父と彼の母だから。
私は溢れ出そうになるドス黒い感情を抑え込んで食事を口に運ぶ作業に専念した。その間も二人の会話は続く。
「ダメだよ、アラン。そんなふうに人を評価しては。魔力の有無で人の価値は決まらない。魔力なしで生まれた彼には何の罪もないんだよ」
「・・・・悪かったよ。俺はただ、お前が転校生のことばかり気にかけるからちょっと気に入らなかっただけだ」
「ごめんね、アラン。でも、急な環境の変化できっと戸惑っていると思うんだ」
ランは目を伏せ、悲しげな声で「僕にも覚えがあるから、つい、気にしてしまって」と言った。
それはきっと私の母が死に、セザンヌと一緒に父に引き取られた時のことを言っているのだろう。よく、私の前で言えたな。まぁ、彼に悪気はないのだろうけど。だからこそ、責めることはできない。そこに悪意がないのだから責める理由もない。
「お前は優しいな」
アランは優しい目でランを見つめ、彼の頭を撫でる。決して私に向けることのない目。
「もう、子供扱いしないでよ」とランは頬を膨らませて不満を表現するけどアランは「ははは」と笑って流す。
まるで恋人同士のようなやり取りだ。
いや、そんなはずはない。私の考えすぎだ。ランが恋人だったら、後継者を産めない。それは現実的ではない。
・・・・・だから、私が婚約者?
表向きの妻は私で、ランが本命?後継者は必要だから私に産ませる。ただそれだけの為の婚約?いや、違う。考えすぎだ。それに、いくら女みたいな見た目でもランは男よ。
私の、ただの考えすぎ。そうに決まっている。
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