義弟に婚約者を奪われ、悪女として断罪されましたがなぜか邪神に溺愛されハッピーエンド?を迎えることになりました

音無砂月

1.私はまだ微睡の中

「子供だからお嫁さんになれないの?」

「違うよ。君がとても真っさらで綺麗だからだよ」

「?」

首を傾げる子供に青年は笑う。

「大丈夫だよ。今は無理ってだけだから」

「じゃあ、大きくなったらお嫁さんにしてくれる?」

青年はやはり何も分かっていない子供に苦笑する。

「君が俺のところまで堕ちてくれればお嫁さんにしてあげる」

「?」

子供は再び首を傾げる。

そんな子供を安心させるように青年は頭を撫で、笑いかける。

「大丈だよ。俺が手伝ってあげる。だって君は俺の唯一だから。君は俺に見つかってしまった。君は俺に気に入られてしまったから」

子供は頭を撫でられたことをとても喜んだ。

だって、子供の頭を撫でてくれる人間は一人もいなかったから。

「そのために俺たちはお別れしないといけない。これは君が俺のお嫁さんになるために必要なことだ」

「・・・・・必要なこと・・・・・」

別れることを嫌がる子供に青年は言い聞かせる。

「そうだよ。そうでなければ、君は俺のお嫁さんにはなれない。大丈夫。しばしの別れだ。時が満ちたらまた会えるよ」

「本当?」

「ああ」

瞳を輝かせる無垢な子供の頭に手を乗せる。

「俺との記憶は閉じておこう。少しの間だけ忘れるだけだ。思い出は微睡の中に。大丈夫。時が満ちたら君は全てを思い出す」

腕の中で意識を失う無垢なる子供に青年は恍惚とした笑みを浮かべる。

「ああ、早く堕ちておいで。フィオナ。そうすればずっと一緒だ。君が願った通り、俺は君を放さない。永遠に等しい時間を愛し尽くそう。ドス黒く染まる君を待っている。ずっと、待っているよ」


◇◇◇


懐かしい夢を見た気がする。

顔も名前も思い出せない。でも、とても大好きだった誰かとの幸せで悲しい記憶だった気がする。

私の名前はフィオナ・グランチェ。グランチェ子爵家の嫡女になる。

肩まである少しクセのついた金色の髪と紫の瞳は母親に似た。彼女は私が幼い頃に亡くなっている。

「義姉さん、アランが迎えに来てるよ」

緑の髪に夕焼け色の目をした儚げな美女のような相貌をした彼は私の一つ下の義弟、ラン。父と父の愛人の間に生まれた。

私の母は父の愛を得られないこと、父に愛人がいることが許せず心を病み、自殺した。母の葬儀からそう日数が経たないうちに父はセザンヌという平民の女とランを連れてきた。

ランに罪はない。彼は生まれて来てしまっただけだ。罪があるとすれば彼の母と私たち二人の父だ。

だからランを恨んではいけない。彼に罪はないのだから。

「アラン様、お待たせして申し訳ありません」

玄関ホールで待っていた青い髪に薄桃色の瞳をした彼が私の婚約者、アラン・モンド伯爵令息だ。

「アラン、おはよう」

「おはよう、ラン」

アランは最初に声をかけた私を一瞥し、次に挨拶をしたランに笑顔を見せた。

「寝癖、ついてるぞ」

「えぇ、嘘。どこぉ?」

「ここだよ」

「・・・・・」

アランは私の横に立つランの髪に優しく触れ、寝癖を治してあげる。そんなアランにランは「ありがとう」と照れたように笑う。

ランの見た目が儚げな美女だからだろうか。まるで二人の方が恋人のように見える。

でも、二人は気の合う友人同士だ。同性だからこそ気安く触れ合うこともできるのだろう。これが異性で相手が婚約者ではない者であれば問題があるけど。

それに女性同士と男性同士では付き合い方が違うと友人の一人が教えてくれたからそうなんだろう。だから何も心配することはない。

「早く学校に行こう。遅刻しちゃうよ」

「そうだな」

「義姉さんも」

「・・・・・」

アランとランは並んで歩き出し、私はその後ろについて行く。馬車の中でもアランとランが隣同士で、二人はずっと楽しそうに話している。まるでアランの前に座っている私が見えていないようだ。

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