Prologue5
「キミは、その力を復讐のために使うのかい?」
あぁ……俺は復讐のために強くなったんだ…
「確かにその眼はキミに力を与えてくれるだろう……だが、復讐のためだけに戦うようではいつか自分の身を滅ぼすよ」
構わない、俺から何もかも奪ったあいつに復讐できるのなら、悪魔にでも化物にでもなってやるよ……
「そうか……キミがそこまで言うのなら止めはしない……だけど、これだけは約束して欲しい」
約束?
「復讐を果たしたのなら、どれだけ時間がかかっても構わないからキミの護りたいものを探して欲しい」
護りたいもの?
「うん、例えばそれが友人や恋人でも、街や国でも、文化や歴史でもなんでも構わないからキミが護りたいと思うものを見つけて、そのためにその力を使って欲しい」
師匠にはあるのか?護りたいもの?
「あぁ……色々あったんだが、実は最近もう1つ護りたいものが増えたんだ」
へえ……そいつは羨ましいね……
「なあにキミにもすぐ見つかるさ」
だといいね。
「うん、だからそれが見つかるまでは復讐で簡単に死ぬなんてことするなよ?」
分かったよ約束する。
ガタッと身体が揺れて俺は目が覚める。
(夢か……)
普段あまり見ないのだが、随分と昔のことを夢見てたらしい。
(ここはどこだ?)
横たわった状態の俺は周りを見ようとしたが、顔に麻袋を被せられているのか視界は茶色一色でここがどこなのかは分からない。そのせいで撃たれた額と左肩の傷を確認することができないが、どうやら包帯などで一応治療はしてあるようだった。だが、左腕の義手は外され、両腕は胴体ごとガムテープのようなものでぐるぐる巻きに拘束され、両足も同様に固定されており、どちらも動かすことができない状態だった。
耳栓はされてなかったので、俺は周囲の音や床から伝わる感触からここがどこなのかを確認する。
さっきから断続的にくる揺れからおそらくここは何か乗り物の中のようだ。
そして、時折来る内蔵がふわっとする感覚、これは車や列車、船の類ではない、これは────
(恐らくここは飛行機の中だ……)
最悪だ……仮に逃げ出せたとしても空の上じゃ完全に袋のネズミじゃねーか。
俺は麻袋の中で大きな溜息をついた。
すると前方から扉の開くような音がした。
「目が覚めたようね」
顔は見えないが、声から俺と戦った部隊長の少女が入ってきたのが分かった。
「俺をどこに連れてく気だ?」
音のした方に身体を傾けて少女に聞く。
「今は言えないわ。まあ、大人しくしてれば悪いようにはしないわ」
「もうここに来る前に十分悪い目にあってる気がするんだが?」
俺は半笑い気味に少女に言う。
「それはあなたが抵抗したからよ。自業自得ってやつだわ」
「先に狙撃しといてよく言うぜ…」
「あれは…まあ仕方なかったのよ」
「…」
無茶苦茶だ……言っていることが無茶苦茶すぎる……
俺は少女が言ったことの対して、麻袋の上からでも分かるジト目で睨みつけた。
「と、とにかく大人しくしていなさい!また傷が開くわよ」
少女は俺のジト目攻撃+沈黙に気まずくなって出ていこうとした。
「ちょっと待て」
扉を開けて出ていこうとした少女を俺が呼び止める。
「なに?食事ならちょっと待ってなさい、すぐ用意させるわ」
「違う。いや違くない、飯も欲しかったがそうじゃない」
「じゃあなんなのよ?」
「俺はまだお前の名前を知らない。どうせもう逃げることなんてできないし、教えてくれよ」
なんでもいいので情報を引き出そうと俺はダメ元で少女に聞いてみた。
「そういえばそうだったわね。いいわ、名前くらい教えてあげる。私はセイナ・A・アシュライズ。所属等はまだ控えさせてもらうわ」
と意外にあっさり教えてくれたのでついでにもう一つ気になっていたことを聞く。
「セイナか……ところで、最後に俺に放った攻撃は魔術の類か?」
最後に気絶させられたあの攻撃。
銃で撃たれたり、剣で切られたような感覚とは全く違う、全身に電撃でも流されたようなあの攻撃が何だったのか知りたくて俺はセイナに聞く。
「そこまで手の内を晒す気はないわ」
とこっちはあっさり流されてしまったので、
「ケチ~それぐらい教えてくれよセイナちゃん~」
と俺はどうせ日本語の意味なんて分かんないだろうし(ちゃん呼びでバカにしてるなんて)バレないだろうと思って日本語でそう言ってやると。
「
「ちゃん」がどういう敬称なのか分かってるぞと言わんばかりにセイナは
「まあとにかく大人しくしてなさい、もうすぐ到着するはずだがら」
そう言って少女ことセイナは今度こそ部屋から出ていってしまった。
(さてと、これからどうしたもんかね…)
勿論大人しくする気などサラサラ無い俺は、こんなとことっとと逃げ出させてもらうぜ……
と言いたいところだが、今の状況では正直何もできることはない。
(せめてこの顔の袋が取れればどうにでもなるんだけどな……)
(まあ、いま仮に逃げだせたとしても飛行機の中じゃ結局どうすることもできないし、飛行機が地上に着くまではとりあえず大人しくしてるか…)
と俺は考え(開き直って)、とりあえずは大人しく捕まってることにした。
(それに、俺を連れて来いって命令したやつが誰なのかも気になるしな……)
(全く、あんな状態なのに口の減らない奴ね……)
アタシは丸1日ずっと寝ていた
(それにしてもあれだけの出血、さらには電撃も食らっておいてケロッとしてるあたりホントタフな奴だわ……)
でも今回はそのおかげでターゲットを殺さず生け捕りにできたのだから、不幸中の幸いと言うべきかしら。普段から手強いターゲットを仕留めてきたが、やつはその中でも群を抜いて強かった。
それに────
(奴はおそらくまだ本気を出していなかった)
眼の能力を解放し本気を出していたように見せていたが、他にもまだ力を隠し持っているような感じはしていた。たまたまアタシの電撃による奇襲が成功したから良かったものの、今回はホントに手強い相手だった。
(でも、これでようやくアタシは認めて貰えるはず……)
アタシは窓の外に目をやる。
今は日本の東京を10時頃に飛行機で飛んで、それから大体12時間ほど経ったとこだった。日の入りは日本よりも2時間程早いのだが、それでもこちらの時間でまだ午後2時なので日の沈んでないアタシの故郷、ロンドンが近づいてきた。
「隊長、そろそろ着陸前です。席にお戻りください」
「分かったすぐに戻るわ」
アタシは長い金髪の髪を翻しながら、再び自分の部屋に向かって歩き出す。
本当に戦うべき相手のいる、このロンドンの街を見据えながら。
「そろそろ例の部隊の到着予定時刻になります」
溜まっていた書類の山を書斎で片付けていた私のところに、ノックをして入ってきた側近がそう伝えてきた。
「あら、もうそんな時間?」
そう言われて時刻を確認すると、丁度午後2時を回ったくらいのところだった。
書類仕事なんて面倒くさいといつも溜め込んでいるのに、いざやり出すとつい集中しすぎて時間を忘れてしまう…私の悪い癖だ。
「それで、彼は大人しくここに来るかしら?」
両手で伸びをしながら私は側近のセバスチャンに言う。
「さて、どうでしょう……ちょっと気まぐれな方ですし、途中で逃げ出してしまうかもしれませんね」
セバスは右目に掛けている片眼鏡を触り、苦笑しながらそう返してくる。
とある事情で軍に1人の男を連れてきて欲しいと命令し、無事にミッションを遂行した部隊がこちらに帰ってきているのだが、ミッションの成功とは別に私は心配していることがあった。
「はあ、ホント気分屋だからねアイツ……でも多分、誰が部隊を送ったか気になって大人しく捕まってると思うんだけどね」
「そうだと良いのですが……」
片手で頭を抑えて私は溜め息つく。
私が心配していることはターゲットの男がすごい気分屋だということだ。逃げ出せるタイミングがあっても大人しく捕まってる場合もあれば、途中で急に逃げ出してしまう可能性もありえるため、部隊が拘束し連行してるとはいえ本当に来るかどうかは正直言って五分五分なのだ。
「まあ、ここでこうしてうなだれていても仕方ありませんね……セバス、面会の準備を始めなさい」
「分かりました。武器の方は如何しますか?」
「必要無いわ。今回は」
「かしこまりました、では少々お待ちを」
そう言ってお辞儀をしながら出て行ったセバスをあとに、私も椅子から立ち上がって準備を始めるのだった。
「くしゅん!!」
外の肌寒い空気と薄着のせいかクシャミがでる。
「おい、喋るな」
「おいおい、生理現象だぞ?多めに見てくれよ……」
飛行機を降りて車に乗せられた俺は、30分~40分程移動したあとに降ろされ、体中ガムテープでぐるぐる巻のせいで1人では歩けないのため、囚人などに使う拘束台車に乗せられて運ばれている最中だった。
(随分移動時間がかかったが、ようやく目的地に着いたようだな)
台車に乗せられて移動すること5分、目的地の建物に着いたのか、エレベーターに乗せられてセイナを含む兵士4人と共に上の階に移動する。
が、エレベーターが小さいのか兵士4人が俺に当たるぐらい近い場所にグイグイ寄ってきたらしく凄く息苦しい。しかも誰も一言も喋らないという沈黙も相まって辛い…
(こんなに狭いなら別々で乗れよ!)
と内心で叫びながら早く目的地の階に移動してくれと祈っていると、俺の意思が通じたのか、チーンというエレベーター音が鳴り、ドアが開く。
ふう……と心の中でため息つきながら俺はエレベーターから降ろされた。
兵士の足音の反響から察するに、随分広い部屋に運ばれているようだった。
(こんなとこ連れてきて何するんだ?)
と俺がそんなことを考えていると、数歩進んだとこで周りの兵士が立ち止まり、ザッという音を立てながら全員がその場に立ち止まった。
(しゃがんで頭を下げたのか?)
見えないためしっかりと分からないが、恐らく今から来る人物に対しての忠誠心を表すためか、兵士4人はその場に伏せて
「ようこそいらしてくださいましたね。フォルテ」
女性の声だ。しかもとても優しい声。
俺が想像していた人物とは真逆の雰囲気の人物に一瞬驚いたが────
「いらしたって、無理やり連れてきたんだろう?俺のこと知ってるなんて、誰だお前?」
と嫌味を込めて返事を返す。すると女性が喋るよりも先に────
「おい、口には気をつけろ!」
と横にいた兵士が、ライフルのストックで側頭部を殴ってきた。
(痛ってぇ……)
周りが見えないのと手でガードできないため、そこそこ痛い一撃がもろに当たってしまい、口の中が切れたのか血の味がしてくる。
「乱暴は止めなさい」
「し、しかし……」
「構いません、それよりも彼と話したいことがあります。麻袋をとってもらいませんか?」
女性は兵士を優しく制止ながら命令する。
「わ、分かりました」
兵士はシュッと装備していたナイフを抜いて俺の麻袋の首元の紐を切り、袋を外した。
1日、2日ぶりの外の明るさに俺は眉を潜めながらもゆっくりと眼を開いていく…その
「ッツ!! 待て!!」
俺の横にいた女隊長セイナは異変に瞬時に気づいたのか、麻袋を取った兵士に命令したが遅い。目が見えるようになったことで使えるようになった
「なっ!?」
「ちっ!止まれ!」
驚いた兵士たちがすぐさま拘束しようとしてきたが、俺はその一瞬の隙に10倍まで上げていた力を3倍まで落として身体の負担を軽減させ、前にいた女性めがけて低空にジャンプした。地面が軽く抉れる程の衝撃と、ターゲットとの延長線上に女性がいるため兵士たちは銃を撃つことができない。
俺はそのまま女性の前までたどり着き人質に取ろうと身体を掴もうとした瞬間────
「はぁ!」
女性の隣にいた片眼鏡の男が鋭い左足の上段蹴りを俺のアゴ目がけてかましてきた。
「くッ!」
俺は瞬時に右手で片眼鏡の男の脚の脛を掴み、握り潰そうとする。
だが、片眼鏡の男は俺に足を持たれていることを利用しながら、逆足でさらに俺のアゴ目がけて右足の上段蹴りを放ってくる。
辛うじて俺は右手を離しながらそれを回避し、右腕を上げて戦闘態勢をとりながら片眼鏡の男をじっと見た。
(ってあれ?コイツは確か……?)
麻袋取られてから初めてしっかり片眼鏡の男を見た俺は、どこかで見たことある顔に一瞬頭の上にはてなマークが浮かぶ…そして
「フフ、相変わらずですねフォルテ」
と片眼鏡の男の後ろにいたさっきの女性が顔を見せてくる。ウェーブのかかったロングの金髪、ブルーサファイアの瞳、純白のドレスに身を包んだシンデレラのような美しい女性に俺は紅い瞳を見開いて驚愕の表情になる。それもそのはず、いま俺の目の前にいるのは、かの有名な────
「イギリス女王陛下エリザベス3世!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます