第8話:黙祷


「すまない……………あなた達との約束を守ることができなかった」


俺はフォレスト家を前にして、勢いよく頭を下げた。現在、俺はサラ・ローズ・サクヤを伴って、フォレスト国へとやってきていた。その目的はただ1つ。彼らへの謝罪だった。


「うぐっ…………リース」


「……………」


「リース……………ああっ、私の可愛い可愛いリース」


俺からの報告を聞いた彼らは息を詰まらせながら泣いたり、黙ったまま目を閉じて涙を流したり、はたまた声を震わせながら泣き崩れたとそこからは彼女に対して、どれだけの愛情があったのかを窺わせた。そんな中、ただ1人じっとして座っていた前国王アース・フォレストは勢いよく立ち上がり、俺の顔を鋭い表情で見つめてきた。


「シンヤ……………その約束とやらだが」


「……………」


「安心せい。まだ破られておらん」


「えっ」


「だって、そうじゃろう?お前さんとワシがした約束はこうだ…………… "リースが常に笑顔でいられること"。お前がいつ、その約束を破った?」


「しかし、リースはもう」


「今まで!お前と行動を共にしてからのリースは常に笑顔だった!そして、それはこれからも変わることがない!……………なんせ、きっとリースは空の上でも常に笑顔でいてくれているはずだから」


「っ!?」


「だが…………だが、すまない。そうと分かっていてもな……………今日は…………今日だけは……………素直な気持ちを表してもいいだろうか」


そう言葉を詰まらせながら言ったアースに対して、俺は無言でゆっくりと頷いた。直後、アースはこの場にいる誰よりも静かに深く泣いた。


「「「……………」」」


そして、俺の後ろでは3人が立ったまま、目を閉じて手を組み祈るようなポーズで涙を流していた。










「シンヤさん……………私、もっともっと頑張りますね」


「どうした、突然?」


サクヤの発言に不思議そうな顔をする俺達。あのあと城を出た俺達は少し歩いてから帰ろうということになり、ゆっくりとフォレスト国内を見て回った。おそらくだが、リースのいた国の空気を肌で感じておきたかったのだと思う。それから、しばらくして国を出た俺達はみんな黙ったまま道を歩いていた時に突然、サクヤが口を開いたのだった。


「リースの家族のあの姿を見ていたら、何だかそう強く思えてきて……………でも別に私がリースの代わりになるとか、誰かの為にとかじゃないです。これは全て自分の為です」


「「「……………」」」


「私、向こうの世界からこっちにやってきて、最初は身体的にも精神的にも弱くて、それこそ地獄でしたけど…………それでもシンヤさんと出会って強くなって、なんだか自分が変われたような気がして……………何でもできる!私達にできないことは何もない!……………そんな驕りがいつのまにか、ありました」


「それが人間ってものだろ?誰しもいきなり強い力を手にしたら、普通はそうなる」


「ええ。ですが、どんなに強くなっても、どんなに凄くなってもできないことはある……………シンヤさんですら、そうです」


「…………ああ」


「だから、私はもっともっと頑張って、自分の限界を引き延ばします。自分の手の届く範囲をもっともっと広げて、いつか、いつの日にか……………そこにあなたがいてくれたら、嬉しいです」


「「サクヤ……………?」」


「おい、今のプロポーズか?2人が戸惑ってるから、あまり冗談は」


「冗談じゃないです。私は本気です」


「「サクヤ……………」」


「……………そうか」


「でも、今日は頑張るのをお休みします……………彼女に私の決意を伝えたいので」


そう言って、サクヤは徐に立ち止まり、目を閉じて手を組んだ。


「…………そうだな。それがいい」


そうして俺達もサクヤに倣い、同じことをする。


「「「「……………」」」」


心地よい木漏れ日が辺りに降り注ぎ、風もまた爽やかにそよぐ。幸い、周囲に人はなく、まるでこの世界が俺達を柔らかく優しく包み込んでくれているような感覚に陥った。そこでふと思う。これはリースが俺達を温かく見守ってくれているんじゃないかと。


「〜〜〜〜〜〜」


その時、耳元で聞き覚えのある声が聞こえた気がした。少し目を開けて隣を見てみると俺と同じく聞こえたのだろう。サクヤが嗚咽を漏らしながら、涙を流していたのだった。

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