第357話 新たな世界へ
「皆さん、初めまして。クラン"黒天の星"副クランマスター及び
戦える者達と"虹の
「ん?」
「あれは…………」
「"銀狼"だ」
すると皆、同時に上空を見上げ、どういう理屈かそこに映し出されたティアの映像を一心不乱に見つめ続けた。シンヤの時といい、今度も何かあるのではないかと思ったからである。
「まずは冒険者を中心とした戦闘の功労者の皆様にお礼を申し上げます。この度は誠にありがとうございました。そして、戦闘には参加しなかったものの絶対に生き延びてみせるという強い意志の下、敵の軍勢から自身または家族の生命を守り抜いた皆様にもお礼を申し上げます。誠にありがとうございました。それから、生存競争というある種の戦い・・・慣れない中、本当にお疲れ様でした」
疲れ切った者達にティアからの労いの言葉が染み渡っていく。それに対してある者は涙し、またある者は健闘を称え合い、またまたある者は仲間を弔った。そうしていると今度はティアの締めの言葉が耳に入った。
「皆様の健闘の結果、この度の戦いは辛くも犠牲を出しつつ………………我々の勝利という形で幕を閉じました」
ティアのその言葉に一瞬、時が止まる人々。しかし、段々とその意味することが分かってきたのか、最後にこう締めくくったティアに各地から大きな歓声が湧き起こった。
「皆様、嵐は過ぎ去りました。本当にありがとうございました。今、この瞬間から……………我々の日常は戻ってきたのです」
「それは何かの芸か?」
「ふんっ。いいだろう?俺達は1つとなり、更なる強さを手に入れて遂に完全な存在となったのだ」
シンヤが刀を向ける先に堂々と立つのは以前、起きた"聖義事変"の首謀者であるハジメと研究者であるズボラが合体した姿をする者だった。具体的にいえば、ガリガリに痩せ細ったハジメの腹のあたりにズボラの顔が浮き出ている。それは誰もが一目見て、気持ち悪いと感じるものだった。
「完全ねぇ……………どう見ても不完全だろ」
「ふんっ。それはこの力を見てから言え!!我が名は"ジャナイ"!!全てを破壊する者だ!!」
そう言うとハジメは身体から大量の神気を放った。その勢いは凄まじく、木々が軒並み煽られて根元から折れてしまう程だった。
「ふははははっ!!まだまだ、こんなものではないぞ!!俺の力はパワーアップしているんだ!!ここから更に……………がはっ!?」
ところが言葉はそれ以上、続かなかった。一瞬で接近してきたシンヤの刀によって深く斬りつけられてしまったからだ。
「安心しろ。まだ生かしておいてやる。その代わり、お前をここに放った奴を教えろ」
「あ、シンヤさん……………こちらです」
ティアに導かれるまま、シンヤは進んでいく。そこは以前、フォルトゥーナがシンヤ達の為に作り出してくれた空間の中だった。既にティア達幹部は全員集合しており、これから行われることに万が一、邪魔が入るとまずい為、こうした場所で落ち合っていた。
「……………あれか」
「はい」
そうして空間内を進んでいたシンヤの視界に横たわった1人の女性が入った。その女性はかろうじて息はあるものの、かなり辛そうであり、その命も永くはないことが見て取れた。
「お袋」
「…………あら、シンヤ」
その正体はシンヤの母であるフォルトゥーナだった。彼女はシンヤの顔を見た途端、それまでの辛さが嘘であったかのように笑顔でシンヤを出迎えた。しかし、それもかなり無理をしているということは誰の目から見ても明白だった。
「無理に身体を起こさず、そのままの体勢で俺の質問に答えろ………………何があった?」
「…………ごめんね。少しドジ踏んじゃったみたい」
「っ!?」
その台詞を聞いた瞬間、シンヤの脳裏にはリースの顔がフラッシュバックし、自然と涙が零れ落ちて思わず膝をついてしまった。すると、その様子を見たフォルトゥーナは驚き、心配そうな顔をシンヤへと向けた。
「シンヤ?大丈夫?」
「…………俺のことはいい。とりあえず、何があったかだけ教えてくれ」
「…………分かったわ。実は」
そこからフォルトゥーナは自分の身に起きたことを隠し通さず、全て話した。その間、シンヤは一言も発さず、ティア達はその様子を真剣に見つめていた。
「…………なるほど。そんなことが」
「ええ。ごめんね、心配かけて」
「いいや、お袋は何も悪くない。むしろ、俺達の為にありがとう。それから、すまなかった。俺はお前に何もしてやることができなかった」
「何言ってるの。親からしたら、子が元気でいるだけで幸せなのよ。私はそれほど多くのことを出来ないわ。でも、シンヤ達にとって大切なものを1つだけでも守れれば、あとはもう……………」
「お袋」
「ん?なに?」
「俺を産んでくれて、ありがとう。愛してくれて、ありがとう。愛を持って育ててくれて、ありがとう。そして、いつでも俺を想ってくれていて、ありがとう」
「っ!?シンヤ!?」
シンヤからの突然の言葉にフォルトゥーナはひどく動揺し、それ以上に嬉しさから涙を流した。
「ちょっと…………こんな時にそんなこと言わないでよ」
「こんな時だからこそ、言うんだろ」
「だ、だって…………」
フォルトゥーナは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔でシンヤを抱き締めて、思い切り叫んだ。
「そんなこと言われたら、寂しくて逝けないじゃない!!うわ〜ん!!死にたくないよ〜!!」
「……………くっ」
シンヤの方も俯いて、涙を流しながらフォルトゥーナを抱き締め返した。それは最期の時までの限られた時間を1分1秒、無駄にしないようにとの行動だった。
「……………シンヤ、ありがとう。もう大丈夫よ」
しばらく、そうしているとフォルトゥーナの方から身体を離し、シンヤもそれに従った。
「行くのね?」
「当たり前だ…………元々、お袋の話を聞かずとも行くつもりだったんだ」
「どうやら、止められそうにないわね」
「ふざけた連中だ。今すぐ行って、高みの見物を決め込んでいる奴らを全員、引き摺り下ろしてやる」
「無茶はしないで」
「おいおい。俺があんな奴らに負けると思うか?」
「……………そうよね。あなたなら、どんなことでも成し遂げてしまうでしょう。だって、私とあの人の息子なんだもの」
愛おしそうに見つめるフォルトゥーナの視線から逃れるようにシンヤは徐に立ち上がると背を向けて歩き出した。
「頑張って!私はどこまでいってもあなたの味方よ!!」
「っ!?…………ああ。俺は絶対に成し遂げてみせる。だから……………だから、安心して見守っててくれ」
ゆっくりと歩き出したシンヤ。さらにそこに続く12人の仲間達を見たフォルトゥーナは安心して、その瞼をゆっくりと閉じていった。
「シンヤ…………あなたなら、きっとできるわ……………」
「人の子よ…………我々の前に堂々と現れるとは一体どういう了見だ?」
そこは天界のさらに上に位置する場所、神界。現在、そこでは上位の神々が13人もの乱入者達を鋭く睨みつけ、いつ武力で以て排除しようとしてもおかしくはなかった。
「用件はたった1つだ」
現場に漂う緊張感も半端ではなく、彼らから溢れる神気の量は相当なものだった。
「腐った
そう言ってシンヤが刀を抜いた直後、どこかで大きく雷鳴が轟いた。
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