第3章 神々の黄昏

第351話 神々の軍勢

「あら!みんな、おかえりなさ……………っ!?」


フォルトゥーナの用意した空間から続々と帰ってくるシンヤ達を見て、彼女はひどく驚いた。何故なら、皆一様に凄まじい成長を遂げていたからだ。それは彼らの放つ"神の気配"…………"神気"から感じることかできた。


「……………ありえない。たった1週間でここまでになるなんて」


「俺達をそこらの奴と一緒にするな」


フォルトゥーナの驚愕に対して平然と返すシンヤ。心なしか、その表情は以前よりも幾分か鋭さを増している気がした。


「で、でもまさか全員が最終進化を果たしているし、レベルも」


「ああ、それな。なんか、あそこで出てくる敵を倒したら、どんどんレベルが上がっていったぞ。もしかしなくても設定ミスってねぇか?」


「いいえ。それは単純にシンヤ達があの空間に適応した証拠よ。あなた達、異世界人がここに適応すると通常のステータス数値が1.5倍されるのよ。それ加えて、シンヤ自身がレベルの上がりやすい体質なの。そして、それにあなたの仲間達も影響され、同じ恩恵を受けている……………結果、無事に最終進化を果たし、レベルもとんでもないことになっているということみたい」


「そうか……………で?俺達は奴らに勝てそうなのか?」


「……………ここから離れたところにいくつか気配を感じない?」


「確かに感じるな。デカいのがいくつかと中ぐらいの、それから小さいのが大量に」


「ええ。その気配の者達が今後、あなた達の敵となる悪神達…………今は"神々の軍勢エインヘルヤル"と呼ばれている存在よ」


「なるほどな。にしてもそんな御大層な名前を付けられる程の存在か?」


「いいえ。彼らが自ら、そう名乗ったらしいわ」


「イタイことこの上ないな…………まぁ、いいか」


「もう彼らの力量はおおよそ分かっているだろうけど油断しないで。腐っても神。何をしでかしてくるか分かったもんじゃないわ」


「それを俺に言うのか?地球での俺が一体どんな場所で暮らしていたと思ってる。あそこじゃ気を抜いた瞬間、終わりだ。ましてや油断などしてしまえば、骨も残らない」


「そうだったわ。あなたにとって、今の忠告は無駄だったわね……………でも、彼女達は」


「それも要らない心配だ。"油断"や"慢心"することの危険性は俺の過去も絡めて言ってある。初めて会った時もティア達に隙はなかっただろ?」


「確かにそうね。それでもあの時はまだ"天界"、それから"神域"に不慣れだったから、御せたけど今、やり合ったらどうなるか分からないわ」


「試してみますか?」


「ひっ!?」


笑顔で言い放つティアに以前のやり取りが頭に浮かび、咄嗟に腰が引けるフォルトゥーナ。しかし、直後に少し悲しそうな表情をするティアを見て、今度は別の意味で焦り出した。


「私、悲しいです。もっとお義母様かあさまと仲良くしたいだけなのにそんなに怖がられたら、一体どうすればいいんですか」


「ええっ!?テ、ティアちゃん!?そ、そんな風に思ってくれていたの!?」


「当たり前じゃないですか。だって、フォルトゥーナさんは私のお母さんとなる人ですよ?家族なんですよ?それなのにそんな…………」


「ああっ!?ごめんなさい!!そんなつもりじゃなかったの!!むしろ、ずっと娘が欲しいと思っていたから嬉しいのよ!!」


「……………本当ですか?」


上目遣い、それも耳がパタンと垂れてしまっている状態のティアにそんな質問をされ、思わず胸が苦しくなったフォルトゥーナはそのまま彼女を抱き締めた。


「本当よ!!ああっ、ティアちゃん!!あなたはなんて可愛いくて良い娘なのかしら!!何でも言ってちょうだいね!!私にできることなら、なんでもしてあげるわ!!」


「……………うわ、チョロ………ボソッ」


「ん?何か言ったかしら?」

 

「いいえ。私もお義母様かあさまにはできる限りのことをしてあげたいです」


「ティアちゃん!!」


感極まりながらティアを抱き締めるフォルトゥーナ。それを冷めた目で見ていたシンヤは一言こう言った。


「何だ、この茶番」


「ちょっと!!今のはどう考えても感動的な場面でしょうが!!水を差さないでよ愛息子!!」


「どうでもいいが、もう行ってもいいか?こうしている間にも奴らが好き勝手に暴れてる様を想像したら、なんか無性に潰してやりたくなった」


「凄い自信ね。でも、まぁそうね。それはあなた達にしかできないこと……………じゃあ天界の未来は任せたわ。私はここにいることしかできない、この手で奴らを止められない自分が悔しいわ」


今度はフォルトゥーナの方が悲しそうな表情を浮かべて俯いた。己の力不足を感じている彼女のその表情はある種、良い絵となっていた。


「お前もそこそこ戦えそうだけどな」


「私は駄目なのよ。………………それにしても今のシンヤ達からしたら、そこそこなのね私」


「何をしょげてんのか知らないが俺達はもう行くぞ」


シンヤに続き、全員が"行ってきます"という言葉をフォルトゥーナへ掛けて歩き出す。ところが、少ししてから立ち止まったシンヤはティア達を先に行かせると後ろを振り返り、こう言った。



「"ここにいることしかできない"とお前は言ったが、そんなことは決してない。修行する場所はお前が与えてくれた。そして、そこへ安心して向かうことができたのはお前がここを守っていてくれたからだ」


「シンヤ……………」


「ありがとな。じゃあ行ってくるわ……………お袋」


「っ!?シンヤちゃん!!」


それから、またまた足に纏わりついてきたフォルトゥーナを引き剥がすのに苦労したシンヤは約5分遅れでティア達と合流した。やはり、シンヤにとって両親とは自身のペースを狂わせてくる存在……………ある意味、彼にとって最も強い敵なのかもしれなかった。

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