第317話 涙

「へ〜あんたがあの英雄さんだったのかい」


「俺のことを知っているのか?」


「やだよ〜いくら耄碌しているとはいえ、そのぐらいは知っているさ。それにお隣のエルフ……………サラさんのこともね」


「恐縮ですわ」


「そういう意味じゃない。ここは辺境だからな。まさか、そんなところにまで知れ渡っているとは思わなかった」


「まぁ、確かにここは随分と中心部からは離れているからね。それでもたまに来る商人から、様々な記事の載った情報紙を買ってはいるから、どこで何が起こっているのかは把握しているつもりさ……………そういえば、ティア。あんたのこともよく取り上げられていたね。今じゃ有名人じゃないか。凄いね」


「ううん。私なんか全然」


「謙遜するな、ティア。今じゃ、獣人族で一番強いのはお前じゃないか。ウィアがぼやいていたぞ?獣人族の誇りという立場を取られるって」


「えへっ、そうですかね」


「おや、あんた達、ウィア様の友達なのかい?」


「まぁ、そんなもんだな」


「へ〜あのお転婆姫様と友達なんて、結構なもんじゃないか。あたしは一度でいいから、見てみたいよ」


「あいつはその呼び方で呼ばれるのはあまり好まないみたいだぞ………………そういえば、やっぱり王族としてのあいつも有名なのか」


「他の国や街なら、いざ知らず。獣人族領で最大の国"ビスト"の王族といえば、そりゃね。それにしてもまさか、本人が嫌がっているとは思わなかったよ」


「もしかしたら、王族として扱われるのが嫌で冒険者として生きてきたのかもしれないな。あいつは堅苦しいのも苦手みたいだからな。今じゃ、王女としての地位も捨てているみたいだ」


「へ〜…………だとしたら、無神経な発言だったね。すまないね。代わりに謝っておいてくれないか?」


「別にいいが……………もしかしたら、そのうち会えるかもしれないぞ?」


「あっはっは。だといいけどね……………じゃあ、その時を期待しないで待っておくよ」


「そうしてくれ………………さてと」


そう言って徐に立ち上がるシンヤ。現在、ニーハの家のリビングで酔い潰れて寝てしまったガイドを除く4人が寛いでいた。ちなみにニーハの家は味のある木造建築であり、独特の良い匂いがしていた。


「まさか、もう帰るのかい?」


「美味い夕食も頂いたからな。これ以上は流石に迷惑……………」


「いや、そんなことは」


「かとも思ったんだが、考えてみれば、可愛い可愛い孫娘が帰ってきて迷惑なはずはないよなと今、思い直したところだ」


「…………あんた、色んな意味で凄いね。そういうのは普通、こっちが言う台詞なんだよ」


「変に遠慮しない方がいいだろう。なんせ、もうすぐあんたも俺の家族となるかもしれないんだからな」


「へ?それってどういう…………」


「ティア、サラ風呂行くぞ………………っと、ニーハ。風呂場まで案内してくれ」


「全く、あんたって人は……………はいはい。案内しますよ…………………って、一緒に入るのかい!?」








―――――――――――――――――――――







「ケリュネイア、そっちに帰ったら話したいことがあるんだ」


「ディアのことでしょう?あなたの軍団レギオンに所属する少女から聞いたわ………………迷惑かけて、ごめんなさいね」


「ううっ……………そんなことは……………いいんだ」


「………………何があったのか、ここでは深く聞かないわ。でも、これだけは聞かせて。あなたにとって、ディアはとても大切な人?」


「ああ、もちろん。何があってもあいつはアタイの唯一無二の親友だ。それはこれからも変わることはない」


「そう………………そう言ってもらえてあの子は幸せ者ね」


「ずずっ……………ああ」


「今でも時々、思うのよ。あの時……………村にあの人が来た時、あの子を置いていかなければ良かったのかなって」


「えっ……………」


「実はあの人から言われていたのよ。お前を旅に連れていくのなら、妹も一緒だって………………でも、私はそれを断った。あの子を危険な旅に同行させる訳にはいかない。たとえ少しの間、寂しい想いをさせようともそれであの子に恨まれようともあの子を守れるのなら、それで良かった………………だって、世界でたった1人の妹だもの」


「ううっ………………ケリュネイア…………」


「でも、旅は想像とは違ったわ。少ししたら村に帰るつもりが1ヶ月経ち、半年経ち、そして気が付けば3年が経過していた…………………私はその間、一度も村に帰ることができなかったの。それでも"箱舟"解散後、少ししたらとある街であの子を見かけて声をかけたの。私の顔を見るとそれはそれは嬉しそうな顔をして………………でも、何故かあの子があなたのクランに入ってからはほとんど会うことはなくなったわ。そして、あのパーティーがあった日の夜に通信の魔道具にあの子の声で記録があったの……………………そこにはあの日、私と離れ離れになった日のことからの全てが吹き込まれていたわ。そこで私は知ったの。あの子の………………ディアの抱えていた気持ちの全てを」


「ぐすっ………………ううっ………………」


「最後にディアは私とあなたに謝っていたわ。そっちであなたとディアの間に何があったのかは知らない。でも、あなた達が一緒に過ごした時間が全て偽りだとは思わないで」


「ケリュネイア………………」


「……………この続きはあなたが帰ってきてからにしましょう。でも、あまり早く帰ってこられても困るわ。だって…………………涙交じりのぐしゃぐしゃな顔をあなたに見られたくないもの」


「ううっ、ケリュネイアぁ〜〜!!」


「ごめんなさい。そろそろ用事があるから、失礼するわ。あ、これだけは覚えておいて。私はディアのこともあなたのことも……………大好きよ」


「ア、アタイも大好きだよぉ〜〜!ケリュネイアぁ〜〜!」


ウィアの涙は通信の魔道具が反応をなくした後もなお、流れ続けていたのだった。

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