第170話 カンパル王国

サラの故郷を出発し、車で走ること約1時間。満を持してカンパル王国へと辿り着くことができた。フリーダムの6倍もの面積を誇るこの王国はいわゆる中国に分類され、人口も3000人とそこそこ多い。"カンパルミート"と呼ばれる特産品は独自の飼育方法によって、育った家畜の肉であり、それを使った料理は大変美味である。また栄養面から見ても非常に良質で観光客だけでなく、国民達にとっても毎日の暮らしを支える大切な資産だ。国民の主な信仰神は創造神クリエス。とはいっても熱心な信者はおらず、どの神かと聞かれたらという消去法で導き出された曖昧なものである。他国との交流についてだが国民の国外流出と共に年々減り、遂には"邪神災害"を機にぱったりと途絶えてしまった。国力が落ちてくるということは国防力の低下にそのまま繋がり、軍事に割ける人員と時間の容量が圧倒的に不足していた。それどころか、災害の影響により、王国全体で冒険者の辞職や最低限の防衛力すら持たぬ者が相次ぎ、その余波は王国が抱える兵士にも及んだ。結果、国の力が弱まっていることを他国へと知らしめる形となってしまったが不幸中の幸いか、他国も自国のことで精一杯な為、そのことに気が付く余裕を持ち合わせてはいなかった………………とまぁ、そんなことより最も重要なポイントは他にあった。それはこの王国が人族至上主義であるということだ。





――――――――――――――――――――







「はい、次の者……………って、ええっ!?」


「ん?何かおかしいか?」


「い、いや!そ、そういう訳ではない…………いや、ありません」


「身分証はちゃんと提示しているんだが…………もしかして人数制限とかあったか?」


「いや、問題はそこではなく」


「?」


「あの、つかぬことをお伺い致しますがもしかして、あなた方は"黒天の星"の方々ですか?」


「ああ、そうだ」


「や、やっぱり!うわぁ〜まさか、こんなところで本物に…………」


「早く手続きをしてくれないか?時間を無駄にしたくない」


「っ!?す、すみません!え〜"黒天の星"の方々、合計17名で……………あ!」


「もう通ってもいいか?」


「あ、あの!こんなことを言うのは大変恐縮なんですが、この王国は人族至上主義を謳っていまして、人族以外の入国を認める訳には…………」


「んなの知るか。俺達は依頼で来てんだ。証拠ならセントラル魔法学院ってところの理事長にでも聞けば出してくれる。じゃあな」


「あっ!ち、ちょっと!」








「本当に人族しかいないな」


「はい。周りの方がこちらを訝しげに見てきますね」


「一部、侮蔑や嘲りの視線もありますわ」


「潰、す?」


「ノエ先輩、分かっているとは思いますが間違ってもこちらから手を出してはいけませんよ?」


「焦れったい。陰口を叩く暇があるのなら、堂々とかかってくればいいものを…………もちろん、シンヤ殿には指1本触れさせんが」


「マスターは人族なので大丈夫でいやがるデスよ」


「あいつら、目障りなの」


「まぁ、慣れていくしかないよね。こういう国もあるさ」








カンパル王国の冒険者ギルド内はざわついていた。たった今、扉を開けて入ってきた者達が異質だったからだ。


「冒険者のシンヤ・モリタニだ。依頼でこの王国に少しの間、滞在する。一応、それを伝えに来た」


「は、はい!か、かしこまりました。何か私共の方でお手伝いでき」


「ない。じゃあな」


やり取りはたったの10秒ほど。伝えることだけ伝え終えるとシンヤ達は踵を返し、出口へと向か………


「おい、なんでこんなところに他種族のゴミ共がいるんだ」


おうとして変な冒険者に邪魔されてしまった。そればかりか、


「役立たずで邪魔なだけのゴミは俺が排除してやる!」


「俺もやってやる!」


「ちょうど依頼で失敗してイラついてたんだ!」


10人もの冒険者達がいきなり武器を取り出して襲い掛かってきたのだ。無視されたとか揶揄われたのなら、まだしも何もしていない者達を急襲したのである。


「"正十爪"」


これに対し、クーフォがSランクの冒険者ですら捉え切ることができない速さで拳を振り抜いた。シンヤから贈られた強力な武器である鉤爪は日々の鍛錬も相まって、鍛え抜かれたはずの冒険者達の身体に風穴を開けた。


「ぐばあっ!?」


「な、何故だ!?」


「こ、こんなことが!?」


「お、おい!お前ら、どうした!」


騒然とするギルド内。一方、シンヤ達はというとそんなものどこ吹く風。日常の延長線上とでもいうかのように外へと出ようとしていた。


「こ、これは大変!あの、止まって下さい!今、ギルドマスターが参りますので!」


しかし、慌てて受付嬢がそれを制止し、事態の解決へと動こうとした。それに対して、シンヤはただ一言こう言った。





「は?無理」

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