第107話 鍛冶
「お疲れさん」
「あ、シンヤ。お疲れ…………ん?隣の人は、誰?」
「あぁ、紹介するわ。こいつはリース。訳あって1ヶ月程、ここのクランハウスで生活を共にする予定だから、よろしく頼む」
「リ、リースです!よろしくお願いします!」
「ん、よろしく」
「にしても頑張ってるんだな、ノエ」
「鍛冶、楽しいから」
リースを伴って次に訪れた場所はクランハウスの敷地内にある、とある建物だった。ここでは日夜、武器・防具の製造や修復が行われている。ノエもニーベル同様、俺達と出会い行動を共にする内に固有スキルの鍛治が恩恵を受け、出来ることの幅が広がったのだ。その為、ニーベルが試飲用の酒を作り始めた段階で自分も鍛冶をやりたいと思ったノエの要望を受けた俺は専用の建物を創造したのである。それが3週間前のことでそこからは試作用の武器・防具を作ったり、傘下のクランの武器で破損や刃こぼれしたものを修復したりしていた。もちろん、全てをノエ1人で行っていたという訳ではなく、銅組と一緒に取り組んでいたのだが、ノエ以外は全員鍛冶をしたことがない為、指導と同時並行での作業となった。皆、飲み込みが早く、大事な工程はノエが行わなければならないがそれ以外の部分は既に任せられるレベルまで達している。チラリと奥の方を見れば、組長であるリームが軽く汗を流しながら、真剣な顔をして取り組んでいるのが窺える。少し前に聞いたのだが、組員達は別に強制されてこのようなことをしているのではないそうだ。ニーベルのところもそうだったが組員達は嫌々付き合わされているのではなく、自らの意思で行っているんだとか。戦闘だけでなく、こういった形で自分の力を発揮できるのが嬉しく、日々どんどん上達していくのも感じられて、ますますやる気が満ち溢れてくるみたいだ。こちらがわざわざ訊いてもいないのに目をキラキラさせながら語ってきたから、まず間違いはないだろう。
「ん?見学?」
「そうだ。リースが俺の目的地について回りたいらしくてな……………いいか?」
「ん、大丈夫」
「悪いな」
「す、すみません!お邪魔します!」
「別に、いい」
――――――――――――――――――――
「ここは?」
「武器・防具を、作る上で、素材となるものを、熱して打ち延ばす、場所。ものによっては、特に熱くしなくちゃ、いけないから、大変。でも、火魔法を、使えれば、それも解決」
「なるほど」
「本当に魔法って便利だな〜………」
「次は、その熱した中から、良質なものを、抜き出して、炉で熱する。これは、少し時間を、かけて行う。その後、熱したものを、平たく延ばし、折り返して、2枚に重ねる。これを20回、繰り返すと、層が厚くなって、丈夫になる」
「大変だな」
「冒険者達が何気なく使ってるけど、そんな工程があったんだ」
「まだ終わってない。刃こぼれや、なるべく折れないように、"堅粉"と"保土"をそこに、練り込んで、また叩いて延ばす。こうすることで、ある程度は、武器や防具が、保つように、なる。で、それを火魔法で熱する。この時の温度は、触った人が一瞬で、溶ける程」
「どおりでこの建物の中が暑いはずだ」
「ひぃっ!!」
「そこからは、頃合いを見て、急冷する。これも、魔法を使えば、簡単。そして、その後は、色々と細かい部分を、修正していって、完成させる。後半部分は、ノエしか、できないから、腕が鳴る。ざっくりと、説明すると、こんな感じ」
「なるほど。勉強になった。ありがとう」
「す、凄い…………」
「ちなみに、製造じゃなくて、修復の方は……………」
その後もノエに色々と説明してもらいながら、回った。酒蔵でもそうだったがリースは本当に楽しそうに聞いていて、それは見ていてとても微笑ましかった。ずっと王城で暮らしているとこういったものに触れる機会などないのだろう。とはいっても俺はリースが以前、どんな暮らしをしていたのか詳しくは知らない。だが、少なくともこれだけ表情がコロコロと変わり、生き生きとした姿でいるということはさぞかし刺激のない日々を送っていたという想像はつく。まぁ、兄達のギスギスとした感情を直で感じ、緊張感といった別の刺激はあったのかもしれないが…………
「これが、ノエ達の、してること」
「そうか。よく分かった。ありがとう」
「ありがとうございました!とても興味深かったです!」
「また、いつでも、来るといい」
「お、ノエもリースが気に入ったのか?」
「ん。なんか憎めないし、好感が持てる」
「へ!?そ、そうなんですか!?」
「だから言っただろ?お前は生意気だが、何故か、人を不快にさせないんだ。ま、それも才能の一種だろう」
「生意気という部分には引っかかるけど…………そうか、そうなんだ」
「じゃあな、ノエ。また何かあったら来るわ」
「ん、待ってる」
「で、では!お邪魔しました!」
俺達はノエに挨拶をして、外へと出た。熱気を感じた身体に涼しい風が当たって、とても気持ちがいい。数歩前へと進んで後ろを振り向くとまだ入り方近くに佇んでいるリースがいることに気が付いた。
「どうした?」
「さっきの話だけど……………シンヤは僕のこと、どう思うの?」
「ん?言わなかったか?俺はお前を気に入ってるって。なんか憎めないし、余計なことをされても苛つかないから、大抵のことは許してやるかもな。あと、なんか知らんが可愛げもあるな。お前がもし女だったら、惚れてたかもな」
「そ、そうなんだ…………そうか、そんな風に」
「ん?何、顔赤くしてんだ?気持ち悪いぞ」
「き、気持ち悪いとか言うなよ!褒められて嬉しくない奴なんていないだろ!」
「落ち着けって。悪かったよ。言い過ぎた」
「ふ、ふんっ!分かればいいんだ」
肩で風を切って、俺の横を通り過ぎていくリースを見て思う。すぐに感情的になるのは見ていて面白いし、そこに嘘が含まれていないのは好感が持てる。しかし……………
「俺を残して、どこに行くつもりなんだ?」
もう少し落ち着いて、周りをよく見る。それは最優先で教育していくべきだとこの時、はっきりと胸に刻み込んだのだった。
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