第105話 急展開
「な、何故だ!?僕とシンヤの仲じゃないか!?」
「赤の他人だな」
「報酬か?報酬が不服なんだな?」
「話を聞いてなかったのか?そんなもので判断はしない」
「じゃ、じゃあ一体どんな理由が」
「お前は本当に猪突猛進なんだな。話は最後まで聞け」
「だ、だって!!」
「断るというのは"今すぐフォレストに向かう"のをだ。何も全く引き受けないとは言ってない」
「え!?」
「シンヤ様も人が悪い。今のはわざとそういう言い方をして、私共の反応を試しておられたのですね?」
「そ、そうだったのか!?お、おい!まさか、僕をからかったのか!?」
「さて、何のことか」
「で、どうでしょうか?リース様は…………まぁ、置いておきまして。私は」
「……………お前、本当に大した奴だな。それに肝も据わってる」
「お褒めに預かり光栄でございます」
「おまけに乗せ上手ときたもんだ」
「恐縮でございます」
「1ヶ月だ。最低1ヶ月は待ってくれ。そうしたら、少しは余裕ができるだろう」
「かしこまりました」
「…………で、いいよな?ティア」
「はい。これから取り組むことを考えれば妥当な数字かと」
「うわぁ!?お、お前いつから、そこにいたんだ!?」
「お前………?立場を弁えて下さい。ここの門を潜った時点であなた方はこちらのルールに則った上での対応をしなければなりません。郷に入れば郷に従え。ここでは王族だろうが貴族だろうが、たとえ神であろうが皆、平等です。こちらはあなた方を追い返すこともできたのです。ですが、シンヤさんのご厚意により、この時間が成り立ちました。それを何ですか?先程から聞いていれば、偉そうな態度であまつさえ泣き言のようなことまで言って……………シンヤさんから止められていなければ、今頃ここには血臭が漂っていたでしょうね」
「ひっ!?」
「セバスさん、あなたも反省して下さい。リースさんをわざと野放しにしていたでしょう?おそらく、シンヤさんにその性根を叩き直して欲しかったんでしょうが…………シンヤさんはお守りが主な仕事ではないんですよ?」
「ほっほっほ、これは失敬。それにしても流石、2人目のEXランク冒険者。姿を消していたことも驚きですが何より気配も全くしませんでした。まさか、こんなサプライズが待っていようとは」
「ご、ごめんなさい……………ティア、さん」
「ティア、落ち着け。俺を想ってくれるのは嬉しいがリースにそういう態度をされても俺は別に気にしないし、不快にも感じないぞ?むしろ、可愛いと思うが」
「か、可愛いだって!?」
「ああ。まぁ男だし、そんなことを言われても嬉しくはないと思うがそれが俺の素直な気持ちだからな……………ちなみに俺のことは今まで通りに呼んでくれて構わないからな」
「わ、分かった」
「シンヤさんがそう仰るのなら……………でも、今の言い方だとまるで私の方が子供っぽい感じにならないですか?」
「そんなことないぞ。お前はなあなあにならないように引き締めてくれたんだろ?何事もメリハリが大事だ。俺がこういう時はお前が引き締めてくれればバランスが取れて、ちょうどいい感じになるからな。現にいつも助かってる。ありがとうな」
「いえ…………」
「お前が側に居てくれるから俺は安心して何でも進められるんだ。だから、頼りにしてる。これからもよろしくな…………よしよし」
「もったいないお言葉です!あの、できれば、もっと頭を撫でてもらってもいいですか?」
「分かった。こういう感じか?」
「は、はい!とても嬉しいです!心がポカポカしてきます」
「そうか」
「む、むぅ………」
「どうした、リース?不機嫌そうな顔をして」
「なんか、とっても仲が良さそうだなって…………信頼し合ってるというか」
「ティアは俺が最初に出会った最古参のメンバーであり、右腕だからな」
「…………リースさん?羨ましいですか?」
「な、何だと!?そんな訳あるか!僕は男だぞ!そんな軟弱なこと、別にしてもらわなくても」
「よしよし…………お、リースの髪はサラサラしていて、気持ちが良いな」
「はにゃあ〜…………こ、これ…………とっても良いかもぉ〜」
「リースさん?」
「はっ!?シ、シンヤ!や、やめろ!僕に触るな!!」
「お、すまん…………じゃあ、そういうことで1ヶ月後にフォレストへ向かうから、それまで大人しく待っていてくれ」
「かしこまりました。ではリース様、そろそろお暇致しましょう。これ以上、ここにいては迷惑が掛かりますからね」
「……………嫌だ」
「リース様?」
「僕はここに残る。あと1ヶ月もあの窮屈なお城で過ごすのは嫌だ……………できればシンヤとも離れたくないし(ボソッ)」
「ん?後半が聞き取りづらかったんだが、何か言ったか?」
「い、いや別に…………」
「リース様、先程ティア様からもご進言があったばかりでしょう?これ以上我儘を言って、この方々を困らさないで下さい。最悪、フォレスト家の顔に泥を塗ることにもなりかねませんよ?」
「ぐぬぬ……………」
「……………セバス、俺は別に構わないぞ。こういうじゃじゃ馬が王族に1人ぐらいいてもいいじゃねぇか。ずっと礼節やしきたりに囚われてたら、息苦しいだけだぞ?リースはこのままで十分面白いし、俺も気に入ってる。もし、いきすぎている部分があれば、それはその都度正していけばいいしな」
「シ、シンヤ!お、お、お前何を言っているんだ!?言うことを聞かなければ、僕をシンヤ色に染めるだって!?」
「そんなこと一言も言ってないだろ!」
「どうしよう……………僕は無理矢理、力づくで矯正されてしまう……………ありかも」
「リースさん?」
「ティアさん!?ち、ちょっと顔が怖いんですけど!?」
「いえ?私は別に普通ですよ?」
「いや、だって今……………」
「何ですか?」
「いえ、何でもないです」
「はぁ〜…………駄目だ、こりゃ」
こうして、リース及びセバスからの指名依頼に本格的に取り組むのは1ヶ月後となった。しかし、それまでの間、成り行きでリースとセバスがクランハウスで過ごすこととなり、この先一波乱ありそうな気がしてきたが俺の中では不安や心配よりもどこか楽しみな気持ちの方が勝っていた。それはこのリースという少年の人柄や性格がどこか憎めないものであり、同時に庇護欲をそそられる雰囲気を常に醸し出しているからかもしれない。いずれにせよ、普段ならば迷惑にしか感じない他人との関わりを今回だけは悪くないと思っている自分がいたのは確かであった。
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