第103話 訪問者

会議室にて傘下の話を持ちかけられ、それを了承した後、俺は9人のクランマスターを伴ってギルドへと向かい、その日の内に軍団レギオンの申請をした。受付を担当してくれたのはフリーダムで何度も世話になったマリーだ。これまで俺達のような少し異質な冒険者の相手をしてきたマリーのことだ。だいぶ耐性がつき、多少のことではもう驚かないかと思われたが流石に一緒にいる面子が豪華過ぎたのか、ギルドへ入ってきた俺達を見た瞬間、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。そもそも俺が他のクランの奴らと群れていること自体が珍しいしな。そして、その後9つのクランを傘下にすると言ったら、今度は大きな声を出して驚いてしまった。それは外にも聞こえるのではないかというぐらい響き、ブロンがすっ飛んできて何事かと慌てた程である。そこであまり時間を掛けたくなかった俺は2人に簡単に事情を説明するとようやく落ち着きを取り戻し、手続きを進めてもらうことが出来たのだ。しかし、この一連の流れを見ていた冒険者は周りに結構いた為、おそらくまたこのことも広まっていくに違いない。面倒臭い連中がちょっかいをかけてこないことを祈るとしよう。それから1週間が経った現在、またもや来客の報を受けた俺はクランハウスの応接室へと向かうのだった。


――――――――――――――――――――






「待たせたな」


「いえ!こちらの方こそ、急に押しかけてしまい、誠に申し訳ございません」


「……………」


俺が応接室の扉を開けるとそこにいたのは執事服のようなものを着た顔に皺が目立つ老人と短い金髪に碧眼、背丈はあまり高くはなく一見すると少女にも見える程、中性的な少年だった。ちなみに少年だと判断したポイントだが、単純に男物の服を着ていた為だ。


「で?どちら様だ?」


「っ!!ま、まさか、僕達を覚えていないのか!?」


「リース様!そんなことぐらいで取り乱してはなりません!シンヤ様は世界滅亡を企てたあの邪神を討伐なさった英雄にございます。さらには近頃、強力なクランを9つも傘下につけ、ますます多忙を極めていらっしゃいます。これはリース様にも失礼と存じますが、はっきりと言わせて頂きます。上級ダンジョンでたった一瞬やり取りをしただけの我々のことなど記憶の片隅にすら残ってはいないでしょう」


「ぐぬぬ…………」


「?」


「私めは今まで散々、言ってまいりました。決して自分達だけが特別ではないと。そして、それはあの時、あの瞬間にも感じ取ったはずです。世の中、上には上がいると。地位や名誉だけではどうにもならないことがあると。武力のある者には時として何も通じないことがあると…………」


「だ、だが…………」


「リース様、いい加減認めましょう。我々にはないその武力を頼って、今回ここまで足を運んだのです。でなければ、シンヤ様方にとても失礼です」


「話が全く見えないこの状況の方が失礼じゃないのか?」


「はっ!?も、申し訳ございません!大変お待たせして致しました!私共はここから東にあるフォレストという国から参りました王族の関係者にございます。私は執事のセバスと申します。そして、こちらにいらっしゃる御方はリース・フォレスト様にございます。フォレストを治める王様の御子息で三男に当たります」


「あんたはいいとして…………こいつは関係者っつうか、もろ王族じゃねぇか」


「こ、こいつだと!?」


「リース様!」


「ぐっ…………」


「…………?よく分からんが何か用があって来たんだろ?」


「はい。それなのですが……………」


「爺や!ごめん!やっぱり、これだけはどうしても我慢できない!シンヤに僕達のことを思い出してもらいたい!」


「リース様…………」


「ん?俺達、どこかで会ったことあったか?」


「本当に覚えてないのか……………僕達が初めて出会ったのはシリスティラビンの上級ダンジョンの中だ。ほら、僕が一方的にお前達に絡んだやつだよ。そして、僕の勢い任せのその行動のせいで護衛が1人亡くなってしまったんだ」


「シリスティラビンの上級ダンジョンの中か……………ん?もしかして、あの時の勘違い小僧か?」


「か、勘違い!?小僧!?」


「あれ?違ったか?確か、あの時3人でいたよな?執事とお前と甲冑騎士の…………で、無策にも俺達に勝負を挑んだ甲冑騎士が犠牲になったと」


「そうだ。僕は今でもあの時の行動を後悔している。もしあの時、あんなことをしていなければ……………最近は寝る前に必ず思い出して、夢にも出てくるんだ。ギブソンが僕をずっと責め立ててきて……………お前のせいで俺が死んだって、お前さえいなければって……………」


「それは違うぞ」


「え?」


「確かにキッカケはそうかもしれない。だが、アイツは遅かれ早かれ、いずれ大事な場面であの時と同じ行動に出ていたさ。そもそも他者を見下し偏見を持つ奴にロクなのはいない。あれは俺が相手だったから、まだ良かったがそれこそ他国のお偉いさんだったら外交問題にも発展して、よりマズイ状況になっていたかもしれない。だから、あれはお前だけのせいじゃない。お前が全て十字架を背負う必要はないんだ。あれはどっちかというとアイツの人間性の問題だ」


「じ、じゃあ、僕はこれからも生きていていいの?」


「ああ。お前の好きなように生きろ。アイツもそれを望んでるんじゃないのか?」


「…………うっ、ぐすん………」


「おいおい、泣く奴が…………」


「うわあああん、シンヤ〜〜!!」


「ちょっと待て!何で、俺の胸で泣く!?あれ!?そんなに仲良かったか、俺達!?」


「ほほほっ…………実に微笑ましいですな」


「おい!あんたも暢気に笑ってないで何とかしてくれよ!」

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