第87話 序列4位"剣舞"レイラ
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スィーエル
性別:女 種族:大天使 年齢:212歳
Lv 25
HP 12500/12500
MP 12500/12500
ATK 12500
DEF 12500
AGI 12500
INT 12500
LUK 12500
固有スキル
聖域・神格化・身代わり・魔の境地・守護神・叡智・サイボーグ・炎熱操作・戦士の誓い・透過・明鏡止水・???
武技スキル
刀剣術:Lv.MAX
体術 :Lv.MAX
魔法
全属性魔法
装備
黒衣一式(神級)
桃大剣クラウ・ソラス(伝説級)
称号
美神の加護・気分屋・世渡り上手・鉄拳制裁・傅く者・恋する乙女・従者の心得・武神・魔神・魔物キラー・盗賊キラー・清純派
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レイラ
性別:女 種族:改造人間 年齢:18歳
Lv 35
HP 5000/5000
MP 5000/5000
ATK 4500
DEF 4000
AGI 3500
INT 4000
LUK 0
固有スキル
金剛・薬学・状態異常無効
武技スキル
剣術 :Lv.8
体術 :Lv.5
魔法
火魔法:Lv.4
水魔法:Lv.4
土魔法:Lv.4
風魔法:Lv.4
無魔法:Lv.7
称号
なし
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カキーンーーーカキーンーーー。剣と剣のぶつかり合う音が森の中に木霊する。それと同時に草木が揺れ、土煙が舞い上がる。並大抵の者ではそれが何によってもたらされたものなのか、目視だけでは捉えることができず、気が付いた時には別の場所で音が発生している。しかし、それが人と人との戦闘であることは踏み平された地面や時折聞こえる掛け声から、かろうじて察することは可能ではあるが、その姿を目で追うことができない者にとっては一体どんな人物がどういった動きをしているのかまで把握することは到底不可能である。ここはとある王国の跡地の近くの森。組織の幹部同士が出会ってから、お互いを敵と認識するまでに掛かった時間はわずか数秒足らず。気が付けば無意識の内に身体が動き出し、剣を交えていた。
「"火炎剣"!」
「"水流斬"デス」
一方が魔法剣を繰り出せば、他方はその属性に対して有利な属性を纏った剣で対抗する。
「"土硬剣"!」
「"風来斬"デス」
とは言っても有利属性で迎え撃っているのは毎回、桃色髪の天使のみ。後出しジャンケンの方が圧倒的に有利なのは言うまでもないのだが、何故か相手の少女は頑なに先攻を譲ろうとはしなかった。
「ぐっ…………」
「そろそろ、そんな戦い方はやめたら、どうデス?変な意地を張らずに勝率の高いやり方を選びやがれデス」
「うるさいっ!敵にアドバイスなんかしている場合じゃないでしょ!"氷牙剣"!」
「"上炎斬"…………馬鹿正直に突っ込んでくるんじゃなくて、相手の出方を待ってからでも遅くないデス」
「余計なお世話よ!アタシは今までこの戦い方でやってきたのよ!そして、それはこれからも変わらないわ!」
少女の名はレイラ。かつて"剣舞"と呼ばれた天才剣士だ。貴族の家に生まれた彼女は幼い頃より、剣を嗜み、多くの研鑽を積んできた。身近な護衛剣士を次々に破り、身代金目的のゴロツキを打ち倒し、冒険者に勝負を挑まれては返り討ちといった具合にメキメキと腕を上げていった彼女は齢14歳にして、遂に国内において一切の敵なしと言わしめる程の剣士となっていた。そんな向上心の高い彼女がそれで満足できる筈もなく、国を飛び出し武者修行の旅へと赴くのにそう時間はかからなかった。国外へと旅立ち、まず驚いたことは衣食住・種族・文化など彼女がいた国でのものとは違うことが多々あり、お金を稼ぎ生活をするだけで精一杯だということ。まずは最低限の生活ができた上で剣士の高みを目指さなければならない。何事も健康あっての物種である。彼女は貴族出身ということもあり、今までが裕福過ぎたのだ。水準の高い生活をしていて、なおかつ高級で高性能な武器はすぐに手に入る。それが当たり前であり、不思議なことだとは一切思わなかった。しかし、彼女はその旅で学んだ。自分がいかに恵まれた環境や才能で過ごしていたのかを。喉から手が出るほど、それを望んでいる人々は山ほどいるのだ。才能はあるがお金がない者、反対にお金はあるが才能がない者、運悪く劣悪な環境に身を置かれた者など……………数え出したらキリが無い。彼女は今までの自分を恥じ、その時から気持ちを入れ替えてより一層、剣の腕を磨いていくことになった。それから2年が経ち、彼女が16歳の頃のこと。ある一報が彼女の元に舞い込んできた。それは祖国にいる父が病に臥せったというものだった。これを聞いて慌てた彼女は急いで帰国し、父の元まで駆けつけた。ところが父の私室に入る直前、ある男からストップがかかった。その男は黒いローブを纏い、物憂げな顔をしながら彼女へとこう言った。
「君のお父さんは酷い感染症に罹っている。これ以上近付くと今度は君の命が危ない。大人しく、ここから見守っていなさい」
見たことのない男だった。少なくとも彼女が国を出るまではその家で会ったこともない。しかし、母親や周りの者も全員、その男の言うことにしきりに頷き、涙を浮かべながら部屋へと入るのを我慢している。そこで自分だけ我儘を言う訳にもいかず、渋々引き下がった彼女は男に訊いた。
「お父様はどうしたら治りますか?」
周りの者が従っているのを見て、その男は信頼に値すると判断した彼女は父を早く治したいとの思いから、居ても立っても居られなくなっていた。チラリと部屋の中を見ると父がしきりに何かを呟いているのが分かった。よく聞き取れはしなかったが、とても辛そうな表情をしていた為、すぐにでも治してあげたいと思った。少しして、男からはこう返ってきた。
「君のお父さんを治す方法………………それはね」
男の答えを聞いた彼女は驚いた表情をした後、すぐにでも国を発つというその男について行くことにした。最後に振り返って見た父は胸の辺りに手を置いて、寝巻きをきつく握り締めていた。その手の甲には砂時計のような痣ができていた。
――――――――――――――――――――
「砂時計のような痣……………デスか?」
「ええ。それがどうかしたの?……………っていうか、敵に何でこんな話をしちゃったのかしら」
「その男は間違いなく感染症と言いやがったんデスか?」
「ええ」
「その男は組織のトップで父親を治す方法が今、ユー達がしていることデスか?」
「ええ、ランギル様は確かにそう言ったわ。世界中の人間からほんの少しだけエネルギーをもらって、それをお父様を治すのに使ってくれるって……………」
「……………結論から言わせてもらうデス。ユーの父上は感染症になど罹ってはいないし、もし罹っていたとしてもそんな方法では治りやがらないデス。その男は嘘をついていやがるデス」
「…………は?」
「よく聞こえなかったデスか?」
「ち、違うわよ!何を見当違いのことを言ってんのかと思ったのよ!アンタ、馬鹿じゃないの!そんな訳ないじゃない!」
「………………」
「アンタなんかにランギル様の何が分かるっていうのよ!あの方はね、アタシの家の人達全員が信頼していたのよ!それにお父様の治療方法まで提示してくれて………………仮にアンタの言う通り、ランギル様が嘘をついていたとして、一体何のメリットがあるっていうのよ!出鱈目言うんじゃないわよ!」
「メリットなら、あるデス。ユー達を使って、アスターロ教の悲願を達成させるという」
「だから、それは!」
「おかしいとは思いやがらないんデスか?家の者達が見たこともない男に有無も言わず従う光景を……………父親を治す方法として世界中の人間を恐怖に叩き落とすことを強いられることが……………もしかして、フリーダムの一件も見てやがらないとか?」
「それは……………あれ?ち、ちょっと待って…………お母様達はみんな全幅の信頼を…………置いてたの?本当に?で、でもお父様を治す方法が……………今のこの状況を生み、世界中の人達を苦しめている?フリーダムでの一件は…………サプライズと聞いていたけど……………あ、あれ?な、何か頭の中が混乱してきた……………ア、アタシは」
「性格が真っ直ぐで正直な正義感の強い少女…………その純真さに付け込み、悪魔の囁きをして軽い洗脳状態へと誘う。随分と悪どい手口を使いやがるデス。久々に胸糞が悪くなってきやがりましたデス」
「え…………洗脳状態?アタシが?……………いや、そんな筈ないわ!さっきから、何なのよ!そんなこと言ってアタシを騙そうなんて」
「騙しているのはその男の方デス!確かに真っ直ぐなことは良いことデス!しかし、それだけでは世の中、やっていけないデス!剣術もそう、戦い方もそう、思考もそう……………世の中、悪どい連中なんて溢れ返る程いやがるデス。ユーみたいに真っ直ぐな少女はそういう連中の標的になってしまいます!」
「そんなの嘘よ!」
「嘘じゃない………」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!これ以上、アタシをおかしくするな!こんなの卑怯よ!精神攻撃なんて」
「………………」
「1つ教えといてあげるわ!さっきは詳しく言っていなかったけど、お父様は本当に具合が悪そうだったわ!だから、感染症は本当よ!近付くと危ないっていうのも!だから、ランギル様はアタシを近付けないように」
「手の甲にできる砂時計のような痣…………それは喪失病の証。断じて、感染症なんかではないデス」
「え……………」
「喪失病とは愛する者や親しい者が側を離れて寂寥感に苛まれた者が罹る病気デス。治療方法は……………離れてしまった者がまた側に帰ってくること。そのランギルとかいう男がユーを父上に近付けなかった理由は…………」
「ま、まさか」
「喪失病が治ってしまうから、また治らずともユーがその病気に辿り着き、治療方法を見つけてしまう可能性があったから……………父上がしきりに何かを呟いていると言っていましたが、おそらくそれはユーの名前でしょう」
「そ、そんな…………そんなことって」
「よく考えやがれデス。いくつもおかしな点がある筈デス」
「う、嘘よ…………あ、あはは…………きっと嘘に決まってる。それか、これは達の悪い夢なんだわ。そうよ、夢………これは夢…………」
「どうしたデス?」
「ゆ………め………………うわああああ!お父様ぁぁぁっ!」
「こ、これはまずいデス!」
それは魔力の暴走だった。本人の理性がなくなり、その命尽き果てるまであらゆるものを破壊する。これを止める手段はたった1つだけである。
「"光聖大斬"!!」
「ぐはっ……………」
「悪いデスね…………これしか方法はなさそうデス」
「あ、れ…………アタシ…………そっか、暴走しかけたんだ…………悪いわね、止めてもらって」
「ミーを恨まないんデスか?」
「何で?むしろ、お礼を言いたいわ。ありがとう、目を覚まさせてくれて…………アタシ、どうかしてたわ。真っ直ぐ過ぎるのも厄介ね。1つのことに集中し過ぎて、何も見えなくなってた。考えてみたら、そんな訳ないのに……………お父様の治療方法が世界中の人々を苦しめることなんて……………」
「………………」
「本当は沢山、償いをしなければならないんでしょうけど…………それも叶わないわ。アタシは何がしたかったのかしらね?お父様も救えず、それどころか関係ない人々を危険な目に遭わせて……………最も救えないのはアタシ自身ね」
「そんなこと言いやがるなデス!ユーが最期にするべきは後悔ではなく、これまでの人生を精一杯生き抜いてきたということを実感することデス!確かにユーのしたことは間違いだらけだったかもしれない。けれども、ユーに救われた人々がいることも事実デス!それを蔑ろにして、勝手に自己嫌悪に陥るなんて許されないデス!特にユーの父上が悲しみやがるデス!」
「そうかな…………ごめん」
「他に言い残したことは?」
「ああ…………奴の、ランギルの暴走を止めて……………それから、お父様を」
彼女がその先を言うことはなかった。無理もない。身体を貫通した大剣から滴り落ちる血はとっくに致死量を超えていた。それでもここまで意識を保てたのは一重に彼女がとても真面目で真っ直ぐな人間だったからに他ならない。気持ちだけで繋いだ時間、しかしその身体はとうに限界を超えていたのだった。
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