第72話 四継
俺達は子供の頃、とある廃村に住んでいた。そこは貴族に逆らったからとかいうイカれた理由で滅ぼされた気の毒な村だった。人があまり寄り付かず、大罪を犯した者やならず者達が隠れ蓑にするにはうってつけの場所ではあったが幸い、滅ぼされた直後はまだ知られておらず、誰も住んでいなかった。その為、俺達のような訳アリな子供達がそこで勝手に暮らしていても追い出されることもなく、自由に生活することができたのだ。俺達は孤児だった。生まれてすぐ孤児院の前にそれぞれが置かれ、引き取られて3歳の時に初めて出会ったのだ。第一印象は全員最悪といった感じだった。なんせ、残り1つのおやつの取り合いから、お互いを認識し始めたのだ。それまでは別々の部屋で過ごしていて、俺達が出会ったのは偶然によるものだった。そこから約4年もの間、喧嘩してはシスターに怒られ、落ち着きなく暴れては駄目だと正され、人のおやつを取ったらいけないと性根を叩き直されながら、過ごしてきた。そして、俺達が7歳になった時のことだった。孤児院に火をつけられたのだ。上がる悲鳴、勢いを増す炎、立ち昇る煙……………そのどれもはっきりと鮮明に覚えているが、中でも一番辛く記憶に残っているのは俺達を逃がそうとシスターが迫り来る炎の盾となったことだ。その時、言った言葉は今でも忘れられない。
「早くお逃げなさい!今後、私はあなた達の側にはいられないから、これだけは覚えておいて!四人共、喧嘩はしてもいいけど、仲良くね!」
おそらく、もっと言いたいことは沢山あったはずだ。しかし、火の手はすぐ側まで迫っていた。この時ほど、時間という概念が恨めしいと思ったことはない。俺達は今までの感謝や思いを告げることなく、一つ頷くとシスターの行動を無駄にしまいと全速力でそこから抜け出した。それからは住んでいた街を飛び出し、あらゆる村や街を転々としたが、身分証すら持っていない自分達はそもそも入れてすら、もらえなかった。そうしていく内にもう自分達の居場所はどこにもないのだと諦めの気持ちが強くなっていった。それでもシスターの言葉を思い出しては自分達を奮い立たせながら無理矢理、身体を動かし続け、ようやく見つけたのが廃村だったのだ。誰に文句を言われることもなく、少しだけ残っていた家を勝手に住処としながらの生活。食料や水は近くの森に入って、探した。改めて生きていくことの大変さを知り、毎日が必死だった。そんな生活を半年程、続けたある日のこと。突然、とある男が訪ねてきて、こう言った。
「ワシの名はブロン・レジスター。お主ら、もしよければ、ワシと共に来ないか?」
見知らぬ、それも素性の一切分からない相手からの申し出に驚くと同時に不信感を抱いた。その頃は既に世の中に対して、猜疑心や不信感でいっぱいだったからだ。無理もない。生まれた時から、この時に至るまでの経験があまりにも常軌を逸していたのだ。普通に考えて、7歳の子供達四人が協力し合いながら、廃村で暮らすなど、ありえないことだろう。そんな環境に身を置いていれば、自然と全てのものを疑ってかかるようになる。だから、男の言葉は響かなかった。たとえ、その男の瞳が真っ直ぐで濁りがないほど透き通っていたとしても、それをこちらに一切逸らすことなく、向けてきていたとしても……………である。しかし、次にこの男が吐いた言葉はそんな俺達の負の感情をも塗り替える程、衝撃的だった。
「ワシはな、全然できた人間ではない。確かに周りの者からの賛辞や憧れの対象ではあるかもしれん。しかし、それは一冒険者として、また指導者としてのワシじゃ。これが人間的に…………もっと言うと家庭的な人間としてはどうかと問われるとお世辞でも良いとは言えんじゃろう。つい先日、ワシは大きな過ちを犯してしまった。そのせいで大切な者を…………息子を亡くしてしまった。これは父親として最低じゃ。言い訳のしようもない」
「………………」
「だから、これは罪滅ぼしや贖罪のようなものなのかもしれん。じゃが、何かをしていないとワシは、ワシは……………罪悪感に押し潰されて、今にも自ら命を絶ってしまうかもしれんのじゃ。あの時、ああしていればなど毎晩、思い悩んでいつ行動に移すか分からん。しかし、それは悪手。同業者に止められるまでもなく、自分がこれからすべき最善の手など分かっておる。もう二度と同じ過ちを犯さぬ為にまずは自らが直接、しっかりと指導すること。これに尽きる。たとえ、その対象に廃村で暮らす不憫な幼い少年達を選ぼうとも…………ワシの心の隙間を埋める為にお主らを利用しようとも……………許してくれとは言わない。じゃが、これだけは分かって欲しい。ワシは目の前でこんな生活を送っておるお主らを黙って放っておくことなど、決してできぬということを」
思わず、目を見開いた。色々な大人達を見てきたが、シスター以来だった。こんなに自分達に真摯に向き合ってくれていると感じるのは。だからという訳ではないが、少しだけ信じてみてもいいかもしれないと思った。仮に騙されたとしてもここでの暮らしよりはもしかしたら、マシかもしれない。これ以上、失うものなど自分達にはないのだ。そんな時に降って湧いたリスクの少ない賭け。これを逃したら、次はもうないかもしれない。乗るなら今だ。そう思った瞬間、言葉が自然と口から、漏れ出した。
「その誘い、乗ってやる」
――――――――――――――――――――
「おい、ギース!本当にフリーダムにそいつらはいるのか?」
「ああ。どうやら、冒険者登録はそこでしたみたいだし、拠点としていた時期もあるようだ」
「全く、少しは落ち着いたら、どうですか?……………もしかして、ロードの目的って、そっちじゃくて師匠の方なんですか?」
「ば、馬鹿野郎!そんな訳あるか!」
「語るに落ちるとはこのことですね」
「なんだと!!」
「二人とも落ち着け。そんなに焦らなくても奴らもジジイも逃げないだろ」
「「焦ってない!!」」
「はいはい」
「それにしてもよく、わざわざ行く気になったな?もしかして、奴らの功績やランクが異常だからか?」
「それもある。しかし、それだけで今回、動いた訳ではない」
俺達は四人合わせて"
「あいつと…………ブロン・レジスターとは一体、どんな関係なのか。噂では何やら、両者の間でやり取りがあり、実は親子だったとかいう荒唐無稽な話まで出てきている。俺はその真偽を確かめたいんだ」
「結局、お前も師匠のことが気になってんじゃねぇか」
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