第19話 報復

「さて、じゃあ、こいつらのホームに誰が乗り込むかだが………」


捕らえた賊を地べたに寝かせて、俺達は会議を行った。仲間達が目の前で殺られたのが相当、堪えているらしく、簡単に正体を吐いてくれた。どうやら、訓練場で突っかかってきた奴らの仲間らしい。Bランククランの「なんとかかんとか」っていう。


「ぜひ、私に」


「そんな奴ら、一瞬で消し炭にして差し上げますわ」


「腕が鳴るぜ」


「これが初の対人戦……大丈夫でしようか」


皆、何故かやる気マンマンで今すぐにでも飛び出していきそうな気配がする。そんなに好戦的な奴らだったっけと首を傾げていると一人だけ、何も発言してないのがいると思い、そちらに目をやると


「シンヤ、ノエに、行かせて!」


ノエが今回ばかりは誰にも譲らないという決意のこもった目で俺を見上げていた。


「………どうしてだ?」


「元はといえば、シンヤが、買うはず、だった、戦い。それを、ノエが、取った」


「だから、最後まで責任を持ちたいと?」


「うん」


「誰か連れていくか?別に一人でなくてもいいんだぞ?」


「いい。ノエが、一人で、やりたい」


「そうか。お前がそうしたいなら、そうすればいい」


「ありがと」


「じゃあ、こいつに案内させるか………おい、起きろ」


「えぇ!?ノエ先輩、一人で大丈夫なんですか?」


「アスカは仲間になって日が浅いから、まだ分からないか………ノエの強さが」


「別に疑ってる訳じゃないですけど………隣で戦ってるのを見てましたし、それどころか、ご指導まで賜りましたし」


「まぁ、少しだけ不安になる気持ちも分からんでもないが………じゃあ、他の先輩方に聞いてみろ」


「は、はい………あの、ぶっちゃけ、ノエ先輩ってどうなん」


「ノエなら余裕です」


「余裕ですわね」


「余裕だぜ」


「余裕」


「あの、質問終える前に答えてるんですけど………あと、さりげなく、本人も混ざってましたし」


「ともかく、そんなに心配なら、お前も一緒に行ってこいよ。見学で。それなら、ノエも許してくれるだろ」


「許す。後輩は、先輩の、背中を見て、育つ」


「えぇ〜〜〜!?」




――――――――――――――――――――




「こ、ここが愚狼隊のクランハウスです。」


「着いた」


「ふぇ〜ここが」


「アスカ、覚えとく、必要ない。今日で、なくなる、から」


「「え?」」


「あ、あと、案内、ご苦労」


「え、いえいえ、じゃあ俺はこれ」


その後の言葉を彼が発することはできなかった。彼女達は血溜まりを踏まないように門を破壊してから、遂にBランククラン愚狼隊のクランハウスへと乗り込んだ。



――――――――――――――――――――



「て、敵襲!や、奴らが来ました!」


「数と方向は?」


「2人で方向は門を破壊して、正面からです!!」


「は?冗談も休み休み言え!天下のBランククラン愚狼隊のクランハウスに正面切って乗り込んでくる奴がいるか!」


「ほ、本当なんです!ドワーフと人間のガキが一人ずつ」


「はっ!しかもよりにもよって、ガキかよ」


「…………あと、これはもっと嘘だと思われるかもしれませんが、戦っているのはドワーフだけなんです」


「お前はさっきから、何を言ってるんだ?」


――――――――――――――――――――



「そいや!」


「ぐはっ」


「えいや!」


「べらぼっ」


「よいしょ」


「なんでー」


ノエがハンマーを一振りする度に隊員達は吹き飛び、絶命していく。驚くべきことに未だ屋敷の中に入ってすらいなかった。何故なら、門を破壊して、踏み込んだ直後に待ち構えていた隊員達によって足止めされてしまったからだ。しかし、そんなこと、ノエには関係ない。彼女は全てを破壊する為に来ているのだ。シンヤの敵はノエの敵。何もしてこない者にはこちらも特に何もしないが、向かってくるのならば話は別。ましてや、それが殺意を持って来るのなら、こちらはそれ以上のもので返さなければならない。こういうバカを一人潰したところで何にもならない。やるなら、組織ごとでないと効率が悪い。どうせ、後から掃いて捨てるほど湧いてくるのだから。むしろ、待ち構えてくれていたのはラッキーだった。探す手間が省ける……………とは言いつつも彼女は同じことの繰り返しにすぐ飽きるタイプである。そして、それを彼女自身、自覚していた。その為、15人ほど殺ったところで彼女はあることに取り掛かった。それはクランハウス自体を破壊して、中から強制的に残りの隊員も出してしまうという力技であった。この世界には固有スキルがあり、武技スキルがあり、なにより魔法がある。大規模破壊をやろうと思えば、できないことはない。それをほとんどの人間がやろうと思わないだけで。


「サンダーストーム、アースクエイク、スプラッシュ」


彼女は彼らにとっての死の呪文を平然と唱えた。雷の竜巻が吹き荒れ、地震が起こり、洪水が襲いかかる。その時、フリーダムの中で

唯一その場所が自然災害の発生地となった。



――――――――――――――――――――




「嘘だろ………俺達のホームが」


「くっ……嘆くのは後にして、まずは生きていることを喜びましょう」


「本当じゃ………老体には辛いて」


「そ、そんな………こんなこと、占いにも出ていませーん!」


「……………想定外」


「ヒッヒッヒ」


「それもやったのがあのお嬢ちゃん、たった一人とはね」


「天下のBランククランが泣けてくるぜ」


「これで本当に全員殺られたら、お笑い草だで」


「……………どうやら、我々は向こうを侮っていたようだな」


クランハウスは壊滅。隊員は隊長とクランマスターを残して、皆死亡。といっても深手を負った隊長もおり、皆が皆万全とは言い難い状況ではあった。ともかく、ノエの攻撃によって、大打撃を受けてしまった愚狼隊はここで遂に認識を改める。相手はとんでもなく強いのだと。


「皆の者、聞け!」


その時、隊長達に向けて、喝を入れる男がいた。この男こそ、Bランククラン愚狼隊クランマスターの"鉄壁"のガンドル、その人であった。


「卑怯だなんだと言われようがこうなっては致し方あるまい。命あっての物種だ………全員でこの娘を迎え撃つぞ」


今、ここにBランククラン愚狼隊クランマスター+幹部9名対ドワーフの少女の戦いが始まろうとしていた。

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