第17話 同郷

「な、何なんですか、あなた達は!」


屋敷の中に焦った女の声が響き渡る。歳は俺とほぼ変わらないくらいで濡れ羽色の長髪、驚き見開かれた瞳の色も真っ黒でどこか懐かしさを感じさせる風貌だった。肌が白く顔立ちも非常に整っており、凛とした佇まいから、どこか名家のお嬢様なのではないかと錯覚してしまうほどでもあった。服装はこの世界では一度も見たことがない、着物。これまた彼女の為に誂えたのではと思わせるほど、とても良く似合っていた。


「この屋敷の主人となった者だ」


「な、何を勝手なことを!この屋敷は私が最初に見つけたんです!だから、私のです!」


「もしかして、お前がこの屋敷に来る者達を追い返しているのか?」


「そうです!誰だって、自分の家に勝手に入られたら、そうするでしょう?」


「なるほど。だが、それは所有権を持っていればの話だがな」


「ど、どういう意味ですか」


「俺は不動産屋の紹介で来たんだが、その時にここは空き家だと説明を受けているんだ」


「そんなのその不動産屋さんが適当なことを言っているに決まっています」


「お前、今、なんて言った?」


「だ、だから、その不動産屋さんが適当な」


「それ以上、喋ったら、どうなるか分かるか?」


俺は軽く殺気を飛ばし、その少女へと刀を突きつけた。すると少女はぺたんと尻餅をついて、座り込んでしまった。


「な、な、な」


「俺の担当をしてくれた人はな、確かにただ仕事を全うしただけだと周りからはそう捉えられるかもしれない。だが、俺のわがままな提案を汲み取って、親身になって、家を探してくれたんだ。それを俺は当たり前のことだとは思わない。敬意に値する行いだと思っている」


「うぅ………」


「自分の周りで起きていることを当たり前だと思うな。常に感謝しろ。そしたら、そんな言葉は吐かない」


「うわぁぁ〜〜ん」


「………まじか。泣いてしまった」


「なんなの〜この人達〜何故か私のスキルは効かないし、怖がらないし…………普通、知らない人が勝手に住み着いてたら、驚くでしょ…………それどころか逆に説教までし始めちゃうし…………この世界に来てから、碌なことがないです」


「まぁ、落ち着け……………ん?お前、今、なんて言った?」


「その台詞はやめて下さい〜!トラウマになっちゃいますから」


「分かった分かった。それよりもお前、この世界に来てからとか言ったか?」


「…………あ」


「………どうやらこの物件は大当たりだったようだな」



――――――――――――――――――――




「これでも飲んで落ち着け」


「ありがとうございます」


俺達は場所をリビングだと思われる所へと移して話すことにした。その際、汚い部屋や箇所は魔法で綺麗にしながら進んでいた為、今やこの屋敷で汚いところを見つけるのが逆に困難なほどにまでなっている。


「美味しいです〜」


「それで?お前はどういった経緯でこの世界へとやってきたんだ?」


「私の言ったこと、信じてくれるんですか?」


「ああ。理由は後で説明するから、まずはお前の話を聞かせてくれ」


「分かりました。私は…………」


話を聞いてみると彼女は俺が元いた世界と同じそれどころか同じ国から、この世界へとある日、突然やってきたらしい。どうやら、いいところのお嬢様らしく、普段から着物を着るような生活をしていたとのこと。この世界での最初の目覚めはこの屋敷の地下にある石造りの一室からだったみたいだ。倒れていた体を起こし、辺りを見回してみるとそこは全く知らない場所。虚空に浮かんでいた画面にはよく分からないことが書かれており、すぐさまパニックに陥ってしまったらしい。だが、いつまでもそこに居ては仕方ないと勇気を振り絞り、情報収集の為にこの屋敷を探索することにした彼女は辿り着いた書庫で知ってしまったのだ。別の世界にやって来てしまったのだと。それから、寝る間も惜しんで本を読み漁り、手当たり次第に知識を頭に詰め込んでいった。知識・情報はいつの時代・世であっても身を守る武器となり、決して裏切ることはない。この世界で孤独だった彼女にとって、それは何にも変え難いものだったのだろう。それから1ヶ月が経ったある日のこと。この屋敷へと調査員がやってきた。自分がこの世界の人間ではないとバレてしまってはどんな酷い目に遭うか分からない。それとずっと自分を匿ってくれていたこの屋敷に愛着が湧いてしまい、取られたくないと思ってしまった彼女は咄嗟にその者達に固有スキルを使ってしまう。人生初めてのスキルであったが、今まで本を読んでだいたいのことは頭に入っていた為、失敗することなく命中。その調査員達がここでの記憶をなくして帰っていったのを見て、ホッとしていたが、その後何回も訪ねてくる為、いつまでも油断はできなかった。しかし、ある日を境にそれもピタッと止まってしまい、それが今日まで続いていたところに


「俺達がやって来た」


「はい。少しだけビックリしましたけど、いつも通りやれば大丈夫と思い、スキルを使ったんですが」


「俺達には効かなかったと」


「はい〜。何故でしょう?」


「それを説明する為にはある場所へと行かなければならないんだが………一つ聞いてもいか?」


「はい、何でしょう?」


「お前は今後、どうするんだ?」


「どうする……とは?」


「この屋敷にずっと居続けたいのか?」


「できれば……」


「なら、俺から提案がある。お前、俺達の仲間にならないか?」


「へ?」


「俺達は全員、仲間であり、戦友であり、家族だ。助けを求めているんだったら、助けるし。自分の行動に責任を持ちたいのなら、そうさせる。これはお前の身を守るのに打って付けの条件だと思うが?」


「わ、私なんかがいいんでしょうか?」


「良くなきゃこんな提案はしない。それにそうすれば、お前もここに合法的に住めるぞ」


「ありがとうございます!ふ、不束者ですがよろしくお願い致します!!」


「よし、じゃあ、早速」


「シンヤさん、まさか」


「この流れはそうでしてよ」


「う、嘘だろ。やっとあの地獄から解放されると思ったのに………」


「でも、今回は、ノエ達、関係ない」


「そ、そうだよな?い、いや、きっとそうだ、うん。関係ないはず」


「じゃあ、お前ら、来て早々で悪いが一旦戻るぞ」


俺達は屋敷・庭をともに綺麗に整備した後、結界で覆ってから、あの場所へと帰っていった。

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