第7話 洋裁店
第7話 洋裁店
時はリリアがドレスを買いに行く日へと遡る。
リリアは洋裁店の扉を開け、中に足を踏み入れた。店内は華やかな生地とドレスがディスプレイされ、優雅な雰囲気が漂っていた。
さすがは最近流行りの洋裁店だわ。貴族のご令嬢たちが好みそうな、上品な店内ね。
リリアは店を見渡し、洋裁店の人気度を感じた。
店員はリリアの入店に気づき、微笑みながら近づいてきた。
「お客様、いらっしゃいませ。どのようなお洋服をお求めでしょうか?」
「特別な機会のために素敵なドレスを探しているの。今度、私のお披露目会があるのよ」
リリアは令嬢らしく微笑み、店員の問いに答えた。
お披露目会があると言うことは、どこかの貴族のご令嬢だろう。着ているドレスも質が良さそうだ。
「かしこまりました、二階の個室へご案内いたします。こちらへどうぞ」
「ありがとう」
店員はリリアをどこかのご令嬢だと考え、特別な個室へと案内した。
「こちら、紅茶とクッキーでございます。ドレスのご用意が出来るまで、お待ちください」
「お嬢様、お入れします」
「ええ、ありがとう」
セリンがリリアのカップに紅茶を注いだ。リリアはそれを見ながら、どのようなドレスにしようか悩んでいた。
16歳の令嬢たちが招かれる王宮でのパーティーでは、ヴァンダーヘイデン家は家紋である赤い薔薇をあしらったドレスを着ることが決まっていた。けれど、今回は伯爵家でのお披露目会だから、そこまで畏まらなくても良いと思う。
「お嬢様、何かお困りですか?」
「うーん、ドレスを何色にしようか迷っているのよ」
「そうですね、お嬢様は何色でも似合ってしまうので……」
「あ、ありがとう……」
まあそうなんだけど、好んでいる人に面と向かって言われると恥ずかしいわね。一度目の人生ではよく聞いていた言葉なのに、欲望や悪意のない素直な言葉は心にすっと溶け込んだ。
リリアは紅茶を飲むふりをして、恥ずかしさを凌いだ。
「お待たせしました!遅くなり申し訳ございません。このお店で一番良いものを取り揃えて参りました……」
急いだのだろう。ドレスを持ってきた店員たちは息を切らしていた。
「大丈夫よ。丁度良かったわ」
リリアは恥ずかしさをどこかにやろうとしていた最中だったので、店員たちの登場に安堵した。
素晴らしいわ!今流行りのデザインから、素材まで揃っているじゃない。
リリアはドレスを一目見ると、感嘆した。
「どれも素晴らしいわ。私、これと言った好みがないのよ。強いて言えば、派手すぎず私の髪色に似合うドレスがいいわ」
「かしこまりました。必ずやお嬢様のご希望に叶うドレスをお探しします」
店員はリリアの要望に応じ、色とデザインの選択肢を提示した。12歳のリリアに似合うようにと、淡い色のドレスが彼女の前に並べられた。彼女は特にピンク色のドレスに目を留め、それを試着することに決めた。
試着室に入ると、店員はリリアをしっかりとサポートし、ドレスの調整やアクセサリーの提案をした。リリアが鏡の前に立つと、ピンク色のドレスが彼女によく似合っていることが一目で分かった。
「これにするわ」
「お選びいただき、ありがとうございます。このドレスはお嬢様にぴったりです」
「あと、他にもいくつかお出かけ用のドレスを買いたいの」
「かしこまりました」
リリアは美しいピンクのドレスと外用のドレスを購入した。
後日、ヴァンダーヘイデン伯爵家にはリリアの購入したドレスが届けられた。
「お待たせいたしました。購入されたドレスをお届けに参りました。こちらは当店からのプレゼントです」
「あら、ありがとう。これからもよろしくね」
「はい!誠にありがとうございました」
洋裁店の配達人は、リリアの言葉に嬉々として答えた。
「リリア、ドレスを買ったのね」
エレノアが階段から降りてきながらリリアに話しかけた。
「はい。お披露目会用に買ってきました」
「そう」
リリアを見て薄笑いながらそれだけ言うと、エレノアは出かけていった。
なによ!何か言いたいことがあるなら言えばいいじゃないの。リリアは手を握りしめて怒りを抑えた。
「お嬢様……」
リリアの様子を気にしてセリンが話しかけようとした時、もう一人の声が聞こえた。
「お姉様、ドレスを買われたんですね……」
妹のクララであった。最近はリリアが虐めなくなったと言えど、ビクビクしながらリリアに話しかけた。
「ああ、そうなの。今日届いたのよ」
リリアは笑顔でクララに話しかけた。
「そうだわ!このドレス、クララに似合うと思うのだけど、どう?」
リリアはドレスの中からクララに似合いそうな水色のドレスを手に取ると、彼女にあててみた。
「うん、とっても可愛い。貴方にあげるわ」
「え、いいんですか……?」
「ええ、もちろんよ。今まで貴方にきつく当たってしまった事を謝りたかったの。私、お母様やお父様に愛されている貴方が羨ましくて……。クララが良ければ貰ってくれないかしら?」
私はクララが愛されていることに嫉妬していた。過去の私はそれでクララを虐めてしまっていたけれど、今の私はそうではない。
私がこれから、この伯爵家で過ごしやすくなるために良い姉を演じる必要がある。
「そんな!私もお姉様と仲良くなりたいです!」
「ありがとう、クララ」
本当にありがとう、クララ。貴方がまだ単純な8歳でよかったわ。
「お姉様、ありがとうございます。大切に着ますね!」
「ええ」
リリアは微笑みながらそう答えた。
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