ねぇ きいて

楽しみにしていた一日が

あなたの声に飾られて

口ずさむ知らない歌の音符がくるり

ポットのお湯に混ざって溶ける


香り立つコーヒー あなたはブラック

私は湯気とミルクが白く回って

揃いのカップ 色違いの持ち手

見なくても分かるの 置く位置だけで


ねぇきいて

入れ替えたなら あなたは気づいてくれるかな

ねぇ きいて

ふいに広がるミルクの味に 怒らず笑ってくれるかな


いつもと変わらない口元と

いつもと変わらない視線の先は

いつも どこかを向いていて


角砂糖はいれないでいたから

いつの間にかくずれていったのかなって


簡単な一言が

簡単じゃなくなって


空のカップを受け取る私に

変わらない 「ありがとう」

その一言が 変わらな過ぎて怖くなる


あなたの歌が溶けたコーヒーを

飲めなかった私でさえ

もう居ないっていうのに


白かったカップでさえ

一緒に歳を重ねたのにねって





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