~After~好きになった理由

 クリスマスイヴの日。

リビングにはいつもの幼馴染たちや兄二人、兄の友達の翔にぃ……そして好きな人である緋月がいる。

少しだけ慣れない光景だけど、それはそれで楽しく思える。


 兄たちとの初めての対面に緊張していた緋月も、今は打ち解けているみたい。

と言っても、ひたすら長男である蓮にぃからの質問攻めにあってて、緋月は緋月で嫌な顔せず笑顔でサラッと対応してる。


 大人だなぁ……私にはムリ。

うるさい! ってすぐに打ち切りたくなるよ。


「で、緋月君は理央のどこに惚れたんだ?」


「ぶっ?! ゲホ、ゴホ、ゴホッ……え、ちょ、は?!

蓮にぃ! 本人の前で何てこと聞くの!」


「兄として知る義務がある!」


「兄さんがただ知りたいだけだろ。

やめときなよ、大人げない」


「そうですよ、海斗さんの言う通りです。

二人の事なんですから、そっとしましょうよ」


「なんだよ~。

海斗も準人も冷たいなぁ……」


「冷たいとかじゃないから。

あまり踏み込むなって言いたいだけ」


「俺は別に大丈夫ですが……」


 えー……緋月は大丈夫なんだ……。

あー、でも、緋月は優しいから断れないだけなのかも?


「俺は……こうして興味持ってくれるの……すごくうれしいです……。

家での話し相手は父さんだけだったので……。


父さんとの会話は学校の勉強の事とか、世間の時事ネタとか……作る料理の話とか……そういうのしかなかったので……」


 あ……そっか……家では恋の話とか、しづらかったのかな……。


「緋月君……俺は……俺はっ!」


 わー……蓮にぃ……涙目でビール片手に緋月に抱き着いた……。


「俺の事、ほんとの兄だと思ってこれからも仲良くしてくれ!」


「……はい……よろしくお願いします」


 緋月……満更でもなさそう……。

すごく嬉しそうに笑ってる。


「で? 緋月は理央のどこに惚れたんだ?

俺も気になってたんだよな~。

学校での緋月って、女子の前だとすっげー無表情というか、冷たい視線を向けてたのに、理央の前では見たことないくらい優しい顔すんだよな~」


 ……翔にぃまで気になってたなんて……。

でも、緋月……なんて返事するんだろう……私も気になってきた。


「う……そんな、皆から注目されると恥ずかしいんだが……。

ゔんっ……えっと……理央の惚れたところ……それは……」


「それは……?」


 何? 気になる……。


「……女っぽくないところ……かな」


「……はい?」


「あー……理央ちゃんのイケメンなところに惚れたんだね、緋ーちゃん」


「なるほど、一理ありますね」


「ま、色気より食い気のやつだからな」


「俺より身長たけーし、ケンカ強いし、それもそうだよな」


「たしかに、今の理央はイケメンだしね」


「そっかそっか、緋月君は理央のそういう所に惚れたんだな」


「ま、転校した時から見た目とか性格とか女っぽくないしな」


「ちょーーーーっと、待って!!!!!」


 え……なに、皆してそんな納得したような顔して……本人前にして好き勝手言ってるし!


「女っぽくないって何?!

普通に女子なんだけど!

たしかに普段の身なりは男子に寄せてるけど……でも、女子だよ?!

見た目と声の低さ意外!」


「理央、落ち着け。

そういう意味じゃない」


「じゃぁ、どういう意味?!」


「……普段は性格もイケメンで、女っぽくないところが他の女子と違って見えて、隣にいてすごく安心する……。

でも……理央はちゃんと女の子で……戸惑いもあったけど、全部ひっくるめて好きなんだ。

理央は俺の世界を変えてくれたんだよ……。

っ……言わせるなよ……恥ずかしいだろ……」


「……大声出してごめんなさい……。

それと、言わせたのは蓮にぃ達だよ……」


「……それもそうか……」


 緋月……顔真っ赤……。

そんな風に……想ってくれてたんだ……。

今思えば、私の過去の事もあって、男の子になれたら……なんて思ったこともあった。

それを……時間はかかったけど、女っぽくないって認めてもらえて……でも、ちゃんと女子として見てくれて……全部含めて好きだと言ってくれて……素直に嬉しいな……。


「……ありがとう」


「……理央、顔真っ赤……」


「緋月もね……」


「二人の世界に入っちゃったね……」


「青春いーねー、かんぱーい!」


「かんぱーい!」


「兄さんも翔さんもこの雰囲気に関して無責任だな……。

まぁ、でも、理央の彼氏さんがいい人でよかったよ」


「海斗さんもやっぱり心配だったんだ?」


「陸君たちが知ってるように、理央が小さい頃いろいろあったからね」


「緋月は良いやつだよ。

俺にもあれくらい身長があればなぁ……」


「悠、男子は身長がすべてじゃないですよ」


「でかいやつに言われてもな……」


「悠ちゃん、大丈夫!

高校生のうちは伸び盛りって何かで言ってた!!」


「何かって、なんだよ……」


 私たちが二人の世界に入ってる間、皆は料理をつまみながら会話を始めた。

私の耳には納得したような、安心したような会話や楽し気な会話が入ってきた。


 そうして各々がクリスマスパーティーを楽しんでいると、お開きの時間が来たんだ。

 大人組は皆、お酒を飲んでしまっているから車の運転は出来ない。

なので徒歩で皆を送っていく事になったんだ。


 皆が玄関で靴に履き替えていると、葵ちゃんが急に振り返った。


「そうだ! 緋ーちゃんはお留守番!」


「え……なんでだ?」


「なんでって……理央ちゃんを一人きりにする気? イヴの日に?

かわいそー。

だからお留守番して理央ちゃんと一緒にいて!

それに、明日はクリスマスデートするんでしょ?

ついでにお泊りしちゃいなよ」


 わー……葵ちゃん大胆過ぎる……。


「あ、そうだ、理央!

俺たち、このまま翔の家で飲み直すから今日は戻って来ないからな!」


「蓮にぃ達が帰って来るなんてほぼないじゃん……。

いつも海斗にぃの部屋に帰ってるし……」


 というか、お泊まりに関しては何も言わないんだ……。


「海斗の部屋の方が会社から一番近いからな」


「ちゃんと戸締りするんだよ。

それじゃ、緋月君、理央を頼んだよ。

おやすみ、二人とも」


「はい、おやすみなさい」


「……おやすみ」


「「「「お邪魔しましたー!」」」」


 皆……行ってしまった……。

 という事は……また緋月と二人きりでお泊り?!


「……理央……」


「は、はい!」


「……ふっ……声裏返ってる……っ……」


 ひー……恥ずかしい……意識してるのバレバレなやつだ……。


「急な泊りだけど……お世話になります」


「う、うん……。

というより……なんで敬語なの?」


「んー……なんとなく?」


 緋月……軽くそっぽ向いたけど、顔が赤い……。

これって……緋月も意識してるのかな……。

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