久しぶりに

 皆が私の家に集まり、緋月に手伝ってもらってテーブルを運んだり飲み物を用意していざ、勉強を始めたわけだけど……。


「……わっかんない……。

理央ちゃ~ん……」


「はいはい……どこ?」


 さっきからこの調子だ。

 もうかれこれ一時間は経つ。

 陸と悠に至っては、疲れたのか顎を机に乗せたり、再びペンを持っては考え、また机に顎乗せをする。

 それの繰り返しだ。


 その中でも準人や緋月は黙々と勉強を進めている。

 緋月も時々は準人に聞いたりしているけど、ワースト三位組よりは順調のようだ。


 翔にぃはソファでそのまま寝てるし……。


 皆自由だな。


「……勉強って疲れるな……。

なぁ、理央、カーペットの上でお菓子食べてもいいか?」


「いいよ。

っていつもしてんじゃん。

なんで今更聞いた?」


「ヒマだったから」


 ヒマだったら普段聞かない事を聞くのか、悠よ。


「集中力が相変わらずありませんね」


「気分転換に何か曲流す?」


「あ、それなら胡蝶聞いていい?」


 ……マジかー。

 緋月ってばどんだけ好きなの……。

 そういえば、すごく熱弁してくれた日があったっけ。

 ほら、皆も嬉しいような、気恥ずかしいような微妙な表情だよ。


 これは、必死に表情を堪えているやつだ。

 緋月はもうスマホで曲探しに夢中で皆の表情に気付いてないようだけど……。


 教室ではクラスのみんながいるから、幾分か緋月の胡蝶好きを流せるみたいだけど、こういう本人達しかいない所ではちょっと厳しいものがあるみたい。


 皆……体が反応しなければいいけど……。


 中学の時も、こうして集まってみんなと勉強している時、勉強に飽きた悠がペンでリズムを取り始めて、そこから我慢できなくなった葵ちゃんや陸がベースやギターを持ち出して、準人はピアノのアプリを使って結局、勉強どころじゃなく音合わせになったんだっけ。


 懐かしいな……。

 そんな事もあったなぁ。


 ん?

 皆スマホ見てる……。

 あ、私の方にも何か来た。


 えーっと……葵ちゃんから……。

『胡蝶の曲に反応しないように皆に個別で連絡したよ。』


 葵ちゃん……。

 葵ちゃんに視線を向けると、にこっと笑ってくれた。

 ありがとう……。


 あ、緋月……曲が決まったのかな……スマホを置いた。


 スマホから流れ始めた曲……このイントロはバラードのやつだ。

 この曲を作った後に海外に行く事が決まったんだよね。


 そういえば最近、新曲出してないな……。

 今度考えてみよう。


 曲がフルで流れ終わり、息抜きが出来たのか、皆再び机に向き直した。


 またしばらく勉強していると、今度は私のスマホが鳴り出した。


「あ、蓮にぃからだ……」


 私の声に反応して皆の動かしていた手が止まり、こっちに視線が集まる。


 とりあえず、電話に出よう。


『お、取った!

りーおちゃーん!!

ヤッホーーー!!

元気してるかー?!


こっちに来てから全然連絡ねーんだもん!

兄ちゃん寂しいぞ!!

もっと連絡くれてもいいんだぞ。

理央からの連絡ならいつでもウェルカムだぞ。


あっまさか男か?!

男が出来て兄ちゃんはもういらないってか?!』


「……」


(ピッ)


 すごい、マシンガントーク……。

 それに……すこしばかり控えめに言って、うっとうしい。


「はぁ……」


「わー……理央ちゃん、なかった事にした」


「いつもの光景ですね」


「蓮さん、一発目は必ずあんな感じだよな」


「なー、切られるってわかってるのに、懲りないよな」


 悠に懲りないとか言われたらダメだと思う。

 スピーカーじゃないけど、蓮にぃの声は大きいからね。

 それなりに皆に聞こえるんだ。


「今の……理央の兄貴?」


「うん……まぁ……。

ってまた来た……。


……今度は何」


『いやー、悪い悪い。

元気にしてるのはわかってるけど、連絡がないからさー。

つい、な』


「何が「つい」よ。

連絡なら海斗にぃに入れてるよ」


『わかってる!

けど、俺にも欲しい!』


「はいはい。

で?

用件は?

こっちに来るんでしょ?」


『いや、悪いが行けなくなった。


仕事が長引きそうなんだ。

翔に連絡してるんだが繋がらなくて、理央にかけた』


「あー……翔にぃマナーモードにしたままかも……それに寝てるし……。

起こす?」


『いや、いいよ。

起きたら連絡するようにだけ伝えて欲しい』


「わかった」


『んじゃ、そういう事だから。

今度、海斗とそっちに様子見に行くな。

まぁ、理央の事だから上手くやってるだろうけど、無理はすんなよ、じゃぁな』


「蓮さん、何かあったのか?」


「仕事で来れないって……」


「マジか!」


「わ、びっくりした!

って、翔にぃ、起きてたの?」


「今起きた」


「そっか、蓮にぃが連絡ちょうだいって」


「わかった。

サンキュー」


 これでまた落ち着いて勉強できる。


「って今何時?」


「もう五時半」


「ありがとう、緋月。

そろそろご飯作ってくる。


準人、あとお願い」


「わかりました」


「唐揚げか?!」


 悠ってば……そんなキラキラした目で見て……。


「違う、カレー」


「え、何で……」


「何でって……この人数分を?

さすがに日が暮れる……」


「まぁ、理央のカレー上手いからいいけどな!」


 いいんだ。

 悠も切り替え早くて助かる。


「じゃぁ、ちょっと行ってくる」


 制服汚れるのは嫌だしエプロン探しにいこう。



 よし、エプロンに材料、手洗い…準備出来た!

 レッツクッキング!


 ん?


「緋月……?

どうしたの?

何か飲み物?」


「あー……いや……なんか……。

準人達は理央の家にいる事に慣れてるだろうけど……。

俺は……違うから……。


なんか手伝わないと落ちつかなくて」


 あぁ、それで今日ずっと何かしら手伝ってくれてたのか。

 そんな気遣い……不要なのに、嬉しいと感じるのは不本意だろうか。


「ありがとう、緋月」


 それでも、やっぱり嬉しいと感じてしまう私は自然と笑顔がこぼれてしまった。


「……別に」


 あれ……私、なんかマズかった?

 久しぶりに緋月にそっぽを向かれた。


 嬉しすぎてこぼれた笑顔……そんなに変だったかな?


 それからは緋月に手伝ってもらったおかげで料理が早く出来て、みんなで食べて。


 翔にぃは蓮にぃと合流するって事になって、葵ちゃん以外の男子組を家まで送ることになった。


 にしても…葵ちゃんは本当にお泊りする気でいたんだな。

 女子会が出来るから嬉しいんだけど。


 緋月がいる前で女子の私が出なくてよかったな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る