この想い届いたなら、男装…やめてもいいですか?
桜庵
まるで
「……男装やめたい」
「ゴブッ…ゲホッ…ゲホッ…」
とある昼休みの中庭。
まだ開けていないお弁当を眺めながら、ふとこぼれた独り言。
それにしても……私、そんなにむせるような事を言ったかな。
私の独り言が聞こえたとしても、そこまでむせなくても……失礼だな。
「な、おま、ゲホッ……ゴホッ」
「……はぁ……ゆっくりでいいから……」
どうやら、野菜ジュースを飲んでいる最中に私の言葉に驚いたようだ。
隣でいまだにむせている彼の名は、
私と同い年で幼稚園からの幼馴染。
正直、口調は荒い時がある。
性格も不器用だし。
ちなみに言うと、私にはあと三人、幼馴染がいる。
しかも、陸と一緒で幼稚園からの付き合いで同じ学校内に。
今時ありえなくない?
幼稚園からの幼馴染が高校まで一緒だなんて。
もはや家族並みに長い付き合いだよ。
声の低さも素に戻ってしまう。
意図して……いや、半分の意図で普段からしているこの格好を辞めたいだなんて、そんな弱音も幼馴染の前では
「おま……急に何を言い出すんだ……」
「やっと落ち着いた?」
「まぁ……な。
んで?
なんで男装やめたいんだ?」
「……察して……長い付き合いじゃん」
「……わからんでもないが……今更だろ……。
だってお前……背……高いし……色気より食い気だし。
もう女子を捨てたようなもんだろ」
「……。
失礼過ぎにも、程があんじゃない?!
たしかに、身長は172センチあるけど!
誰が色気より食い気なのよ!!」
珍しく真面目に話を聞いてくれてるのかと思ったら、なんて失礼な事を言うんだこの男は。
信じらんない。
いや、たしかにもう何年も男装をして、学校内でも男装女子として
声に関しては幸いなのか、両声類持ちだ。
男装の時は低く話している。
一人称は「私」で、口調も素だけど。
私が男装をしている理由、それは…。
「お待たせしました。
陸、
そう、この
「お待たせ。
って、なんだ……まだ、昼を食べてなかったのか?」
「うん、皆を待ってた」
「理央ちゃん、ごめんね!
「はぁ?!
そもそもの原因は、
「何よ!「競争しようぜ」と言ったのは
「えっと……
この言い合いをしている女の子と男の子。
私の幼馴染だ。
女の子の方は、
背が小さくて可愛くて、男子に人気のあるボブヘアーの女の子。
そして相手の男の子。
こっちは、
こちらも葵ちゃんと同じく背が小さい活発男子。
イケメンって言われていて、一部の女子に人気があるみたい。
そんな二人の言い合いの原因を、メガネで敬語口調、こちらも幼馴染の
要約すると、
不運な事に教頭先生は、自分の大事な壺を移動させようと持ち歩いており、
「その近くにいた俺達も、連帯責任で呼び出されたんですよね」
「
去年から何も変わってない」
「雨宮君てば、そんな事ないよ!
私だってちゃんと成長してるもん!」
葵ちゃんは、普段から私達幼馴染の事をちゃん付けで呼んでいる。
そして緋月に関しては苗字に君付けだ。
緋月も葵ちゃんの事は…と言うより、女子は全員、苗字呼びしている。
きっと、女子と一線を置いている事が関係しているのだろう。
私は…女子だと知られているが、男装のおかげか名前で呼んでくれる。
最初は苗字呼びだったけど。
私も……女子として生きたなら、もう名前で呼んでくれないのかな……。
そんな事をぼんやり考えてしまう。
「……お?……り……?……お……理央?」
「……ハッ……え……と、何?」
「昼……食べないのかと思って。
……何か考え事か?」
「あ……うん、次の授業の事を考えていただけ」
ごめんね……こんなウソ……。
でも、緋月の事を考えていたなんて、口が裂けても言えない。
「そっか。
ならいいんだが」
いつの間にか葵ちゃん達は言い合いを終わってお昼を食べていて、陸や準人も談笑しながら食べ進んでいる。
私も早く食べてしまおう。
それにしても……ビックリした……急に視界に入ってくるのはズルい。
心臓に悪すぎる……。
はぁ……さっきの考え事……ダメだよ。
この思いは閉じ込めるって決めんたんだ。
何かを得れば、何かを失う。
まるで……童話の人魚姫みたいだな……なんて。
そういえば、私が男装している訳……途中だったかな……それは隣にいる、緋月に恋をしているから。
理由は聞いていないけど……以前、「女子と付き合えない」という事を聞いた事がある。
なら、男性が好きなのかと聞いたら、それは違うらしい。
あくまで恋愛対象は女子だが、気が乗らないとの事だ。
もし男装を辞めたら、今の関係が終わってしまうかもしれない。
そうなるくらいなら、私は男装を続ける事を選ぶよ。
そもそも、男装をしている訳は他にもあるけど……それはまた今度ね。
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