第22話
ウランは7歳になった。
「母様、僕そろそろ重たい物も持てるから!」
小さな体で買い物かごを持って頑張って歩いているウランを後ろから見ていた。
フラフラしながらもたくさん入った野菜の重さに負けないように必死で持つ姿。
もう大きくなったのだとこの頃はよく感じ、それがとても嬉しい。
ワルシャイナ王国に来てから、すぐに商会で知り合ったロバート商会の方達によくしてもらっている。事務の仕事とわたしのいた国との商談などの仕事をさせてもらえることになった。
わたしは自国の特産物や工芸品を紹介して、逆にこちらの物を向こうのジョージ様にお勧めしている。
年に数回はジョージ様が会いに来てくれる。
そんな関係の中で、ジョージ様とアンナが恋仲になり結婚した。
アンナは今は自国に戻り、わたしはウランと二人でワルシャイナ王国で暮らしている。
ちなみにアンナは男爵家の三女なのでジョージ様との結婚は了承された。
アンナは心配して別居すると言ってくれたが、新婚さんに迷惑はかけたくないのでご遠慮させてもらった。
ウランももう7歳だ。
学校へも通い出したし、昼間はわたしがいなくても平気になった。
わたし達が住んでいる場所も商会の事務所の3階の部屋を借りているので、何かあってもすぐに会いに行ける。
お料理などしたことがなかったわたしも、アンナに習い少しだけ、食べられる程度に、なんとか、お料理もできるようになった。
「母様、また、野菜いっぱいですね。今日もサラダですか?」
「サラダと、お肉を焼くから大丈夫よ」
わたしが作る料理は野菜中心の料理ばかりなので、育ち盛りのウランはお肉食べられると聞いてホッとしていた。
「ふふ、お野菜も食べないと駄目よ?」
「うん!肉があるなら頑張って食べるよ!」
ジョージ様とヴァリスの旦那様が商会からの利益をわたしに回してくれている。
そのお金は将来ウランが大学に行きたいと言った時のために貯めている。
ワルシャイナ王国は、わたしがいた国よりも教育も考え方もかなり進んでいる。
女性は結婚したら家庭に入るしかない、という考え方はあまりしていない。
わたしがどんなに勉強をしても、色んなことを頑張って努力していても、自国では軽くみられていた。
女性蔑視に対する考え方が国によってこんなに差があると思わなかった。
ウランにとってワルシャイナ王国で過ごすことはこれからの人生にとてもプラスになっていると思う。
愛だの恋だので悩んで泣いていた自分が今なら恥ずかしいと思う。
まあ、あれも青春の大事な思い出ではあるけど。
この国では政略結婚などもうなくなっている。
もちろん貴族もいるし、平民もいる。
でも本当に優秀な人は平民でも王宮でしっかりした地位につくことができる。
女性に対しての考え方と同じ。
女性でも男性でも、平民でも貴族でも、力ある者を雇用してくれる、だからみんな努力する。努力すればみんなが豊かになる。
豊かになるからみんなの仕事も増えて国自体が豊かになる。
もちろん貴族だから上になるのが当たり前だと思っている人たちからの不満の声も多かったらしいが、今の国王になって結果を出しているので文句を言いたくても言えなくなって、仕方なく本人達も頑張っているらしい。
実力主義なので、みんな切磋琢磨して、自分を向上させて生きている。
わたしはこの国で、平民として生きているけどやはり子育ては大変で必死で生きてきた。
金銭的には困ることはなかったけど、一からの生活で誰にも頼れないので無駄なお金は使えない。
全てウランのこれからのために少しでも貯めておかないといけない。
わたしは自分の服は、友人になったサリーやバーナからお下がりを貰って着ている。
元侯爵令嬢だなんて誰も思わないと思う。
だけどそんな生活が惨めで辛いなどとは思わない。ううん、とても幸せ。
大切な息子と二人で暮らせることに感謝すらしている。
◇ ◇ ◇
久しぶりにジョージ様がワルシャイナ王国に仕事でやって来た。
「お久しぶりです、ジョージ様。アンナは元気にしていますか?」
「会った瞬間、アンナかい?もちろん元気だよ、もうすぐ子供が生まれるよ」
「後少しですね、アンナに会いたいけどわたしは帰ることができない身です。アンナに元気な赤ちゃんを産んで欲しいとお伝えください。そして体に気をつけてと」
「ミシェル、別に君が帰国しても殿下は何も言わないよ。逆にずっと心配しているんだ、突然君が姿を消してしまったからね」
「殿下にはよくしていただいたのに裏切る形になってしまって申し訳ないと思っています」
「まだやはりライアンと父親を許せない?」
「ジョージ様にはご迷惑がかかっているのでしょう?わたしが国を出る時アンナがついて来てくれました。そのアンナがジョージ様の奥様として過ごしているのだわから、わたしの居場所を知っているのではと問いつめられているのではないですか?」
「うん、まあ、ライアンがいまだに君を探しているよ」
「そうですか……もう離縁して6年も経つのにわたしを探してどうしたいのでしょう」
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