第37話 氷の女王 前編
30戦が終わり、氷華の番がやってきた。
そして、氷華は歩いてリングへ向かった。
流石にリンのように観客席をひとっ飛びはしないか....。
........感覚がバグってるな最近俺。
「それでは準備はいいですか?」
司会者がそう言った。
この試合は、観客の待ち望んでいた試合と言えるだろう。
能力祭開始前から、氷華は注目されていた。
そして、何よりもあのリンの圧巻の迫力。それを目の当たりにした観客は俺らをm無視はもうできない。彼らの意識は俺らに向いている。
.......悲しいことに俺は全くもって期待されていない。まぁ、無能力者...だし。
多分こん中で一番弱いと思われてるんだろうな....リーダーなのに。
そんなのはどうでもいい。氷華が勝ってくれるのはすごく嬉しいことだが....勝っても負けても、俺が負けたらそこで俺らの学園はガメオベラ。
まぁ、負ける気はしないが....。
んなことより、今は氷華の試合を見ることに集中するか。
互いの目線は互いを見つめ合い、動かない。
極夜学園代表の坂井氷華。
彼女に相対するは、緋綠学園代表、多田氏光一。
彼らは試合の始まる前から睨み合い、どのように戦うか、戦略を練っていた。
しかしこの試合、不利なのは氷華である。
なぜなら彼女は、『氷の女王』という二つ名があるからである。
普通であれば、能力が容易に分かってしまう二つ名にはしない。
圧倒的に不利だからである。
『氷の女王』と言うのは氷系能力者だというのがわかってしまう。
対して、相手である光一は氷華ほどの知名度はない。
確かに、代表に選ばれると言うことは緋綠学園では強い部類なのはわかるが。
悪く言ってしまえば、氷華ほどのインパクト...つまりはポテンシャル的なものがない...とも言えてしまう。
しかし、良く言ってしまうと未知数であると言えるのだ。
例えば、ポテンシャルは上でも能力の相性が悪い....と言う可能性もある。
...いくらポテンシャルが高くても能力の相性が悪ければ意味がない。
それは、今までで身体強化系が摩訶不思議系に勝てないことが証明してしまっている。シンプルが一番いいというものは漫画の世界だけである。この世界は無慈悲なのだ。身体強化系に人権がないと言ってもいい。
そんなことを氷華は考えていた。
まず氷華がすることは相手の能力を確認すること。
そうしないと、相手と同じ土俵に立つことはできない。
「レディー...........」
2人は深呼吸をした。そして、
「fight!!」
「っ!」
先制攻撃を仕掛けたのは光一。
数秒にも満たない時間で氷華との距離を詰めてくる。そして回し蹴りを放ってきた。
しかし、そこで反応できない氷華ではない。伊達にBランクの上位はやってないというわけだ。
「...舐めない....でっ!」
回し蹴りを後ろに下がることで避ける。
そして、挨拶とお返しと言わんばかりに、同じ回し蹴りを放つ。
しかし、相手も後ろの下がることで回し蹴りを避ける。
氷華は能力を使い、相手の動きを封じようと試みる。
「凍って...」
相手の足目掛けて能力を使った———がしかし、
「んなもん当たるかよ」
その場で跳ばれてしまい、当たらず失敗。しかし、その瞬間にも氷華は攻撃の手を緩めない。
「まだまだ...」
氷の粒を作り出すと、相手目掛けて放つ。そして放ちながら、回し蹴りを放つ。
しかし、相手のポテンシャルも相当なものなようだ。氷の粒を避けながら、回し蹴りを足で相殺してくる。さらに攻撃を掻い潜ってパンチをしてくる。
相手の攻撃が激しすぎて、
「っっっ⁉︎」
相手の横蹴りをモロ腹にくらってしまった。
リングのギリギリのところまで吹っ飛んでしまった。
「ゲホッゲホッ...」
氷華はすぐさま立ち上がる。
しかし、前を見えると火の玉が飛んできていた。
(まさか....炎系の能力者!?)
瞬時に氷の壁を出す。
ジュ....
直撃はなんとか免れたものの、氷の壁は溶けてしまっている。
普通であれば、火ぐらいでは溶けることのない氷華の氷だが、ものの見事に溶けている。
(.....困ったな)
そう。本来であれば、溶けない氷華の氷が溶けるということは、氷華は光一と相性がすこぶる悪い。
「とりあえず、攻撃するしかないか....」
先ほどの氷の粒を光一に向けて放つ。
しかし、光一も能力を隠す意味がなくなったため、炎の壁で全ての氷の粒を無力化した。
しかし、炎の壁により一瞬死角ができたことを氷華は見逃さない。
全力で走り、飛び蹴りを繰り出す———瞬間、炎が飛び出してきた。
氷華は空中に氷を生み出し、氷を蹴って炎を回避。
そこから畳み掛けるように氷華は突っ込んでいく。
(私の能力じゃ、防戦一方になるのが目に見えてる.....なんとかして隙を作らないと....隙さえあれば...あれが使えるのに...)
突っ込んでいく氷華に対して光一は、多量の炎の球を放つ。
しかし、氷華は、避けながら進んでいく。
徐々に距離が埋まっていく。
そして、距離が1mぐらいになった時...
「もらっっった!」
氷の力を纏った手でストレートを繰り出す。このストレートに当たれば問答無用で当たった場所が凍りつく。
氷華は当たったと確信した———だがしかし、
「———バカだなお前」
「なっ——」
腕を炎を纏った手で掴まれてしまった。
「あぐっああぁああぁあ‼︎‼︎」
氷華に激痛が走る。
普通、体験しないほどの炎に触れているのだ。
その痛みは尋常じゃないほどに痛い。
氷華が悲鳴を上げるのも当然であった。
しかし、氷華も伊達に戦いを掻い潜ってきたわけではない。
氷の棘を相手目掛けて放つ。
相手は手を離し、棘を避ける。
「はぁ....はぁ....いっつつ.....」
幸いなことに瞬時に氷を纏ったおかげで先ほどのダメージが軽減されていた。
しかし、軽減されているだけであって、ダメージがないわけではない。
右腕に力が入りづらくなってしまった。半分ぐらいの力を入れるのが限界だ。
次にあれをくらったら氷を纏ったとしても右腕は使い物にならなくなるだろう。
利き腕を失うのはでかい.....。
早くも氷華はピンチになってしまった。
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