女装魔法使いと嘘を探す旅
海坂依里
第1の事件『承認欲求の偽魔女』
第1章「魔法学園からの旅立ち」
第1話「魔女試験合否発表」
魔法使いよりも上位にあたる魔女。
魔女は高貴なる存在として地位が確立され、将来の安泰が約束される。
(国は魔法の力に頼りまくってるのに)
魔女になるには、魔女試験に合格しなければいけない。
(今も昔も、魔女だけを重んじてる)
魔女試験を突破するための人材を育成する、国立サーベルグ魔法学園。
中庭では、魔法樹の大樹が桃色の花びらを降らせて春の訪れを祝福していた。
降り注ぐ花びらの祝福を受けることができるのは、選ばれし魔女の資格を得た者のみ。
この季節は魔女試験の結果が発表され、努力が報われた者。
積み重ねた努力が、何も結果を残さなかった者に二分される。
(でも)
学園に通う魔法使いたちが、結果発表の掲示を今か今かと待ちわびている。
俺は、まだ結果が張り出されていない掲示板を見上げる。
(いつかは、きっと……)
魔女に選ばれた人間は歓喜に包まれるが、実際は魔女になれない人の方が断然に多い。
魔女試験の合否発表は、積み重ねてきた努力は無駄だったって現実を突きつけられる日でもある。
「アンジェル!」
群衆の中から俺に声をかけてきたのは、魔法学園での生活を一緒に乗り越えてくれた幼なじみのティアだった。彼女が俺の元に来るまでの間に、魔女試験の合格結果を手にした教師が視界に入る。
(いよいよだ……)
掲示板に張り出された紙に、自分の名前が書かれていれば合格。
名前がなければ、その時点で魔女になるという夢は閉ざされる。
「…………」
漏れ出そうになる声を抑え込む。
魔女になるために頑張ってきた自分を誇ることができるはずなのに、心臓の音も呼吸も乱れそうになるのが情けない。
(男は生まれた時点で負け組だって言われる)
周囲は掲示された合否発表を見て、歓喜の声を上げたり、涙を零す者もいる。
自分は、どんな結果が待っていたとしても感情を抑えなければいけない。
(どんなに努力したって、男の魔法使いは認めてもらえないから)
不合格っていう現実も、声を押し殺して堪えなければいけない。
「あ……っ……」
隣で一緒に魔女試験の結果を見守っていたティアは、魔女試験に合格したことが一目で分かった。
今まで積み重ねてきた努力が報われたことで、ティアの瞳には嬉しさや感動の涙が込み上げていた。視界が滲んでいるだろう彼女は、手の甲で溢れる涙を拭っていた。
「合格おめでとう」
最後の最後まで幼なじみのことを気遣ってくれる彼女に、精いっぱいの笑顔を向ける。
ティアのことは駆けつけた同級生たちに託して、俺はひっそりと目立たないように会場を去る。
「頑張ったんだけどな……」
見上げた空の蒼の中に、魔法樹が降らせる桃色の花びらが混ざり込む。
綺麗と表現したいけれど、素直に綺麗だと言葉にできないことが悔しい。
(努力が報われない瞬間って)
こんなにも心臓が痛くなるんだってことを知る。
どんなに努力したって、自分の命を懸けてまで努力してきたと主張したって、俺が魔女試験に受かることは絶対にない。
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