追憶ノ正体

 ゴルゴダ機関。

 聞き慣れないその組織名は、僕の中にいる———いや、今の僕を表すのだと言うことは、言われなくても分かっていた。



 クーデター事件中に(僕の中だけで)発覚した、僕ではない僕。


 オリュンポスのスパイにして、ゴルゴダ機関とか言うそこの組織の部隊の隊長。


  神技ジル———超能力を用いて、『ケイ・チェインズ』に寄生し、その後その体と魂を乗っ取った、


 その本当の名を『トゥルース』。

 ケイ・チェインズに入り込んだ、僕で僕じゃないけど僕だった、誰かだ———。



「……ゴルゴダ機関にいた時の記憶は、ほとんどありません。だから、ヘンな名前で呼ばれることには慣れてません。


 ……僕から言うのもヘンですけど、ケイ……と呼んでくれれば……」


『分かりました、ケイさん———ケイさんと呼びましょう』

「仮称……って……ああいや、確かにそうか……」


 自分の中には、トゥルースの魂までも混同している。ケイとトゥルースの共存状態、ソレで何とか生命を保っているのが今の僕なんだ。


『まず、貴方の身柄はこれから数週間……あるいは拘束させていただきます。


 貴方はその間、与えられた使命をただこなしていただければそれでいいです。

 ……何をされるのかは知りませんけど、ただ1つ。



 もう貴方に自由は、。あるのはただ、その事実だけです』



 その声に驚いて右を向いた時。僕は今この部屋にいる2人の人影を認識した。


 1人は太り気味にして、子供……くらいの背の高さをした、僕より二回りくらいちっちゃい男。

 もう1人は白衣を身に纏った、かなりデカい女性だった。


 ……どこがデカいかと言われると、具体的に3つくらい挙げられるけど。



「自由はない、ってどう言うことですか」


『そのままの意味だよ、申し訳ないけれど、もう君には自由行動をさせてはいけないんだ。



 ……特に、ヴェンデッタ2号機に会わせるのだけは、絶対に』


『ブドゥー博士の言う通りです。…………もう、もうダメなんですよ……貴方は、もう戦ってはいけないんです……!』



 戦ってはいけない———だと?

 自由はない、戦ってはいけないなんて……いやでも、それは……


 従うしか、ないのか?

 何が起きたか分からない、そもそも何で僕がここにいるのか、なぜあのような惨状が起きて———僕がそれを引き起こしてしまったのか。


 何もかも分からないことだらけ。思えばいつもこうだが、もはやそんなこと今の僕にはどうでもよくなっていた。



 それよりも聞きたいことがあった。

 よく思い出してみれば、最後。意識が途切れる寸前に、僕は確かに———何かを、虹を見たんだ。……そして、撃たれた。


 なのにここにいて、そしてなぜかその場所で謎の現象が起きている。


 分からない。だからこそ、聞く必要があった。僕の手に入れたものは、ちゃんと残っていてくれているかを。



「……リコ…………は、リコは、生きていますか……?」



『リコ……リコ・プランクのこと……ですか、あの方は……


 ……身体的な異常———はありませんでしたが、日常生活にやや支障をきたすような精神疾患が認められる……とのことで……』


「じ……じゃあ、元気に生きてるってことで……いいんですよね?!」


『……はい。彼女に関しては、の影響を受けていないと推測されています。彼女は、ですが』


「じゃあ、やっぱり……僕は…………」



『貴方もそうですが、受けた影響が色濃く残っているのは———の方です。


 先程の写真の白い柱。アレを構成する成分は塩で間違いはないのですが、その塩はもともとでした』


「は……?!」


 塩。

 そう、塩。海の底とか、色んなところに埋まってたりするあの、塩。

 魔物の肉に付けたりして食べる、あの調味料としての、塩。


 ソレの元が人間……だって……?



『意味が分からない……か、そうなるのも無理はない、そもそも人が塩になるなぞ、普通はあり得ない話だ。普通は、な。


 だがソレが、ヴェンデッタの引き起こしたヘヴンズバーストの、超極限空間内の事であれば、『普通』とは話が変わってくるのだよ』


『ブドゥー博士』と呼ばれたその老人の声は、僕の耳に残り続けていた。

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