トライアル———勝負っ!

 ———と。


『よお、ケイ!……いっちょ俺と勝負、やってみねえか?』


 シミュレーター同士の回線を開いてきたのはショーゴだった。


「勝負……?」


『ああ、勝負といこうじゃねえか、ケイ』


 勝負って言ったって、あっちも僕と同じ部類のトライアルを好んでいるとは限らない。大丈夫なのかな、乗っても。


『そうだ、トライアルは……やらせてもらう』


「……誘ったのはそっちなのに、僕の意見に合わせるわけじゃないんだね……」


『っふ、英雄にそんなこと言われたっちゃあ、俺はな〜んにも傷付かねえぜ…………っと!』


 トライアル———起動画面が、正面のメインモニターに映し出される。

 選択されたトライアルは……速射技能、か……


「これでいいの?」


『ああ……だからこそ俺は、砲撃主体のサイドツー……サイドツー・クラッシュを任されてるわけなんだが……


 ……よし、そっちの準備を始めてくれ』


「あっ……うん!」


 速射技能トライアル———その名の通り、目標をいかに速く撃ち抜くかを測るトライアルだ。


 このトライアルにおいて、敵となる目標は一撃で撃破扱いになる。だからこそ、いかに速く照準を合わせ、いかに速く撃ち抜くか。それに限っている。


「…………」


 気を整えて、タイミングを伺い続ける。

 ライフルは2点バーストに。例えトライアルだからと言っても、負けるのは心地のいいものじゃない。


 だから、負けるなら———せめて当たって砕けるっ!


『よおし、準備はいいなっ!』


「あ、うんっ!」




 それから実に、8秒後。

 おかしいな、と思い始めた時既に、開始の笛の音はなっていた。


「———来るっ!」


 一瞬にして展開された図面。背景。

 辺り一面は荒野。その上には、澄み渡る青空が広がっている。


 敵はどこから現れるか———それは意外にもシンプルな答えだった。


「そこおっ!」


 奥から2つ目の岩。そこから出てきたサイドツーと思しき影に、僕は瞬時に照準を合わせ、2点で撃って見せた。


 弾丸は命中。2発も当てる間もなく、その敵機は消滅した。


 ———左腕ライフル、残り弾数、28発。


『ブチ飛ばすぜっ!』

 

 横からだろうか、ショーゴの声が聞こえてくる。……普段の余裕そうな感じが、嘘のようにノリノリだ。あんなやつだったか?


「っと!」


 そんなことを気にする間に、もう1機岩の間から出てきていた。


 まだトライアルも序盤だ。そんなに敵の出現スピードも速くないし、処理しそびれた敵が溢れて———みたいなことには陥ってはいない。


 ———左腕ライフル、残り弾数、26発。


『そおらよっ、ここからが———本番だぜえっ!』


 ショーゴの声が聞こえ始めた瞬間、左右の岩より2機ずつサイドツーが現れる。

 ———そうか、だから両腕に初めからライフルがあったと。


 左腕ライフル、残り22発。


「いや……まだ、来るっ!」


 3機……4機…………8機?!

 レーダーに映り出した魔力反応、そこには背後も含めて8機の敵機が存在していた。


「ようやく、速射らしく……」

『なってきたじゃねえかっ!』



 しかしやることは変わらない。機体の前後左右の移動、視界の移動も追加されたとは言え、敵に照準を当てて撃ち抜くのみ。2発外したが、おそらく許容範囲内だ。


 左腕ライフル、残り12発。同右腕、残り24発。


 だが、猛攻は止まらない。速射の名の通り、次々に敵は出現する。


「ふっ! はっ!……にっ!」


 視界が動転する。機体の制御も同時に行なっているわけだが、こちらは片手間でも十分こなせる。そのくらいの練度はある。


 でも、こと射撃においては別だ。


 ———そも、僕はあまり射撃が得意じゃない。

 現に正確に当てようと努力している今だって、既に3発も漏らしてしまった。



 左腕ライフル、残り2発。同右腕、14発。


『ラストスパート……いっちょいくぜえっ!』

「望むところだ……っ!」


 ———ライフルはセミオートに。

 最後の波———と言わんばかりに、左右合わせて16機の機体が、機体正面に展開する。


 もちろん、今回も例に漏れず———っ?!


「左腕……リロードッ?!」


 ———しまった。完全に失念していた。

 左腕のライフルを僕は多く使いすぎていた。故に、この時になって弾切れが発生したんだ。


 それだけじゃない。2点バーストを使い続けたせいでもある。……まずった。


「ちっ……っ、狙いが……っ!」


 左腕方面。そこに展開していた残り6機のサイドツー。

 もちろん、速射に造作はない。なかったが、ことこの時においては別だった。

 


 元々左右の腕部で交互に撃ちつつ、効率的に処理していくのが僕のやり方だった。

 四方八方、全面に展開する敵に対しては、やはりそれが効果的だ。


 だと言うのに、僕は……左腕部を使いすぎて、弾切れを起こしてしまった。

 故に、本来処理し切れる時間でも……処理できない……っ!









『…………よ〜〜っし、全員終わったな……っと、スコア見てみるか……』


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