第31話 エオルとブリジットと真竜

 轟音を響かせ、エオルの発生させた雷、炎雷魔法フレイライトニングが真竜へと直撃する。



「ぐ、おおおおおおおおおっ!?」



 真竜の絶叫がこだまし、金色の鱗がみるみるうちに黒焦げになっていく。



「が、あ、あ……」



 そして、全身が黒焦げとなり、天を仰いだまま動かなくなった。



 ブリジットが飛び跳ねる。



「すごいであります! あんな魔法見たことないであります!」


「はぁ……はぁ……やったわ……炎しか使えなくても……」



 良かった……考えていたことが、成功して。



 ファントムフェイスと戦った時に発生させた水蒸気に、遺跡の電撃……それにあの竜の電撃発生プロセス……なんとか、組み合わせれば、私でもって考えていたけど……。



 ううん。



 私だから・・・よ。



「私だからできたのよ! あははははは! ざまぁ無いわねクソ蛇ヤロウ!!」



 緊張の糸が切れたことと仮説の立証。その2つがエオルを興奮させた。



「あっはははは!! 覚えておきなさい!! 私はエオル・ルラール!! 未来・・の大魔導士よ!!」


 エオルが笑う。


「すごいであります! エオル殿は天才であります!!」


 ブリジットが持ち上げる。


「でしょでしょ!? やっぱり私は天才だったのよ!!」


 エオルがさらにふんぞり返る。



 そんな中。



 パキリ・・・という音がした。



「ん? 今何か変な音が……」



「私は伝説の真竜を倒した女!! 生ける伝説ぅ!!」



 バカ笑いするエオルをよそに、ブリジットが音の出所を探した。


 そして、たどり着く。何が音を出していたのか。


 それは、黒焦げになった真竜からだった。




 パキ。






 パキパキ。






 パキパキパキパキ。









 パキバキパキュバキバキキバギバキバキャバキパキパキバキバキパキバキバキバキパキパキパキバキパキュバキバキキバギバキバキャバキパキパキバキバキパキバキバキバキパキパキ。





 音と共に、黒焦げの中から光があふれ出す。



「な、ななななななんでありますかぁ!?」


「え?」


 ブリジットの慌てた声にエオルの頭が急激に冷えていく。



 エオルの視線の先、真っ黒な竜から光がれ出る。



 バギバギバギバギバギバギ。



 黒い体を脱ぎ捨て、眩い光を放つが現れた。



「……」



 現れたのは、倒したハズの真竜だった。しかし、先ほどまでと全く違う。その姿は鱗が高貴な輝きを放ち、神々しさすら感じさせるほどの空気をまとっていた。


「……倒して、なかったの?」



「カッ!!」



 真竜がブレスを吐き出すと、はるか遠方の荒野が一瞬にして吹き飛んだ。



「な、何よ……あの威力……!?」

「明らかに先ほどより強力であります!?」



「……娘と騎士よ」



 真竜が口を開く。



「な、何よ?」


「名はなんと申す?」


 真竜の瞳が真っ直ぐに2人を捉えた瞬間、2人に強烈なプレッシャーが襲いかかる。



「あ、う……」



 言葉を出そうにも上手く話すことができないエオル。そんな彼女へ、真竜はゆっくりと告げた。


「名は?」



 拳を握りしめて声を振り絞る。



「……エオル・ルラールよ」

「ぶ、ブリジットであります」


「そうか」


 真竜が天を仰ぐ。


「……ぶりだ」


「え?」

「今、なんと?」


「100年ぶりだ、この解放感。己のを脱ぎ捨てるのはな。はは」


 竜が笑う。



「ずっとな、脱皮・・できずにイライラしておったのだ。ソナタ達のおかげで古き自分を脱ぎ捨てられた」



 そう言うと、竜が空へと舞い上がった。



「見ろ! 再び空も飛べる! 私はどこにでも行ける! どこへでも行けるぞぉ!! はははははははは!!」



 咆哮ほうこうを上げる竜。


 ウネリを上げながら空を舞い、やがてエオルとブリジットを見つめた。


「ソナタ達の名、覚えておこう」


「お、怒ってないでありますか……? ジブン達は真竜殿を……?」


「殺そうとした……か? ふはは。先ほどまでは四肢を奪いじわじわとなぶり殺してやろうかと思っていたがな」


「ひええ……!?」


 怯えてエオルの後ろへと隠れるブリジット。それを見て竜はニヤリと笑った。



「冗談だ。良い。許してやろう。脱皮を手伝ったことに免じてな」



「ありがとう」



 エオルがそう告げると、真竜はもう一度咆哮を上げ、空の彼方へと飛んで行った。



「はぁ……なんだったんでありますか、あれは……」



「ジェラルドよ」


「え?」


「ジェラルドのヤツ。あの真竜が私達を殺さないと踏んで居場所を教えたんだわ」



 私は、アイツの手のひらで転がされたってこと……?


 エオルが手にしていた杖を握りしめる。


「ムカつく野郎ねぇ!!」



 まぁ、でも……。



 彼女の中に喜びが湧き上がる。疑似的とはいえ、炎しか扱えなかった自分が雷を使えるようになったことへの。



 許して、やるか。





◇◇◇



「アンタねぇ!! 真竜襲って来ないって分かってたなら最初に教えなさいよ!!」


「そうであります!! 心臓に悪いであります!!」



 エオルとブリジットはジェラルド達と合流してすぐにキレ散らかした。



「待て待て。俺だって言いたかったさ。だけどよ。確定情報じゃねぇこと伝えたら逆にお前達をピンチに落とし入れるかもしれねぇだろ?」


「え?」

「う〜ん……」


 ジェラルドが冷静に反論したことに面食らう2人。そんな様子を見てジェラルドが続ける。


「考えても見ろよ。お前らの話聞いた限りだと、必死・・だったからこそ真竜は脱皮できて助かったってことだ。『殺される訳ねぇ』って気持ちで挑んでたらよ。それこそ死んでたかも知れねぇぞ?」


「ちょ、ちょっと待って待って……」


 エオルが混乱したように頭を抑える。


「まぁいいじゃねぇか。エオルは新しい魔法を覚えられた訳だし、さすが未来の大魔導士様だぜ」


「ま、まぁね……っ!」


 ジェラルドの言葉に怒っていたはずのエオルの顔が崩れていく。


「チョロいでありますなぁ……」


「何よ!? アンタなんてずっとビビってたでしょ!?」


「ジブンもちゃんと戦ったであります!」


「うるせぇなぁ……」


 喧嘩を始めた2人にジェラルドは肩をすくめる。



 しかし、彼は内心喜びを抱いていた。



 エオルも自力で魔法を習得して来やがった。これで、ヴァルガンが現れるまであと3日。全員のレベル上げと準備を整えれば……行ける。



 待ってろよヴァルガン。



 次こそ絶対に、勝ってみせる。



―――――――――――

 あとがき。


 エオルも新たな魔法を習得し、いよいよ決戦の時が近付く……。


本日はこの後20:03より閑話の更新があります。どうぞよろしくお願いします。

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