第96話 旅先での奇跡 💒4(バージンロードのキセキ)
「……う、うう……ふぁぁぁー…………良く寝たな~……そう言えば……夕べ……露天風呂!……あ!ベル?……ベル?……」
目が覚めたのは、あのベッドの上だ。横を見てもベルはいない!布団をめくってみると、僕は半分裸のような恰好だ!
つまり、浴衣の帯だけが、腰に巻かれている。浴衣は、かろうじて袖に手が入っているが、他はすべてめくりあがり、もう浴衣の姿は確認できない。
それよりも驚いたのが、浴衣の下には何も着ていないという事だ!
慌てて、ベッドから飛び起きて、部屋の中を見回した。テーブルの上に、何かメモがあるのを見つけた。
≪ソージへ、お母さんに呼ばれたので、ちょっと行ってきます!あたしが帰ってくるまで、ベッドで寝てていいですよ💛≫
「な、なんて、ことを!
………待て?
……ベルがこれを書いたということは、ずっとここにいたんだな……
こんな格好の僕と……昨日のように一緒に寝てたのか???……うわああああーー」
暫くして、ベルは帰ってきたが、母ちゃんと何をしてたかは、言わなかった。ただ、オヤツをご馳走になったとは言ったが、嘘か本当かはよく分からない。
僕は、露天風呂のことやその後のことは、あえて話題にしなかった。
ベルも、そのことについては触れなかったが、部屋に帰ってきた時、一番初めに発したのが、
「……なーんだ、ソージはもう起きちゃったんだ!着替えもしてるし、……あーあ、残念!」
と、少しがっかりしたような物言いだったが、目はいつもより嬉しそうに微笑んでいると感じた。
この後は、みんなで明日の結婚式の準備そして1日を過ごした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1月3日、鎌田センセとメグの結婚式は、うちのホテルで行われた。午前中の式と昼食に合わせての披露宴は、新装開店したばかりの地下3階のプラネタリムを会場にして行われた。
神前ならぬ、
なんて、そんなキャッチフレーズで、母ちゃんはこのホテルでの結婚式を流行らせたいらしい。
そんな宣伝も兼ねて、
「それにしても先輩、結婚式の費用がタダなんて、上手いことやしましたね~」
「ああ玉よ~、わしらの給料は安いからの~少しでも節約せんと。
………それに、
「お、そろそろ始まるな。玉よ、演出の方は、頼んだぞ!」
「はい先輩、任せてください!」
メグちゃんの方は両親も呼んだ。後は、ほとんど身内だけだが、正月3日に急遽決まったにしては、多くの人が集まった。
もちろん
この
「ソージ?お嫁さんはどこから来るの?」
「ん?……あ、あそこに大きな満月が映っているだろう?あの近くからバージンロードを歩いてくるんだよ」
「へー、なんか、かぐや姫みたいだね~」
「ベルは、かぐや姫のお話を知っているんだね」
「うん、この間、図書室で1年生の女の子が絵本を見てたのよ。……あたしが傍へ行くとね。そのかぐや姫のお話を読んでくれたんだ…………」
「そりゃ、良かったなーー」
「ううん……、でもね、かぐや姫って最後に月に帰っちゃうんだよねー。おじいさんとおばあさんを置いて行っちゃうんだ!」
「まあな、そういうお話だ…………」
「なんか、おじいさんとおばあさんも可哀そうだなあって思ったんだけど…………大事な人を置いていかなきゃならないかぐや姫が………」
そこまで言うとベルは、悲しそうな顔になり、物思いに耽ってしまった。
僕も心の中で今の言葉を反芻してしまった。
『……大事な人を置いて……』
僕は、“大事な人”なんだろうか?
プラネタリウムでは、厳かに満天の星空をバックに2人の結婚式が執り行われた。
太陽から流れる近いの言葉に宣誓をした2人は、燃え盛る大きな太陽をバックに、誓いのキスをした。
キスと同時に、太陽のプロミネンスが、大きく盛り上がり、宇宙を飛び回った後、銀河をバックにハート❤の模様を作って、会場を盛り上げた。
【挿絵:センセとメグの記念写真!】
https://kakuyomu.jp/users/kurione200/news/16817330669085533145
「さあベルちゃん、次はブーケトスよ!」
ジョンが、ベルを誘って花嫁の近くに行った。他にも会場にいた若い女性がこぞって集まった。
メグが、星座の舞台上から、後ろ向きで思いっきりブーケの花束を投げ上げた。
花束は、大きく飛び、会場の後ろの方まで飛びそうな雰囲気だったが、会場の照明でもぶつかったのか、一瞬≪ピカッ!≫と光ったと思ったら、急に方向を変えベルの頭上に舞い降りて来た。
「えいっ!」
ベルは、両手でしっかりとブーケを受け取り、優しく微笑んだ。
まわりからも大きな拍手が沸き起こった。
「ソージ、これ貰っちゃった!」
と、嬉しそうに僕にブーケを見せた。
「よかったな。今度はベルが花嫁さんかな~」
僕は、何の気なしにそう言ったら、ベルは「うん、お願いね」と、だけ言って席を立った。
「ソージ、ちょっとここで待っててね……」
ベルは、それだけ言ってどこかへ消えていった。
≪お願いされてもなああーー。かぐや姫は、追いかけられないんだぞ~……≫
後ろ姿を追い駆けながら、そんな言葉が浮かんでしまった………。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
会場のみんなは次の披露宴の会場へ移動した。この、やけに星の光だけが眩しいプラネタリウムには、僕しか残っていない。
僕は、星空を眺めながら、ベルが戻るのを待った。
急に会場の照明が消えた。
満天の星空と月の光だけが充満したこの部屋に、バージンロードを歩いている人影が見えた。
スポットライトが当たった。
真っ白なウェディングドレスを身に纏ったベルフィールだった。
「ベル!」
思わず僕は声を出した。
するとスピーカーから母ちゃんの声が響いた。
『折角の機会だから、ベルちゃんの写真だけも撮ろうと思って準備したから、お前も手伝いなさい!』
母ちゃんは、プラネタリウムの管制室で照明やスライド、それから撮影機器の操作をしているんだろう。
そうか。昨日の朝早く、ベルが呼び出されたのは、このためか!
「な、何を手伝うんだよ……」
『いいから、早くベルちゃんの傍に立ちな……』
僕は、言われたまま、ベルの手をとり、満月のスライドの前に立った。何回かシャッター音が鳴りフラッシュが光った。
ベルは、黙って立っていたけど、嬉しそうな笑顔だった。
……でも、なんでだろう?笑っている目には、うっすらと涙が溜まっているように見えた。
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