第53話 秘境の楽園?⛰️3(満開の露天風呂)

 この古びた旅館には、いくつかの貸し切り露天風呂があった。防衛隊は、その一つを貸し切った。


「メグミ……本当にみんなで一緒に入るのか?」

 岸川が、男女別になっている露天風呂の更衣室を見て、怪しんでまた声を掛けた。


「本当にキッシーは、心配症なんだから~ベルちゃんを見て!……ホラ、ニッコニコしてるわよ!」

 そういうメグミも満面の笑顔だった。


「わ、わ、わしは、……へい、気だぞ!」

 と、言いながら、鎌田は、さっきからソワソワしっぱなしだった。


「あははははは………ごめん、ごめん。はい、これ!」

 メグミは、先日デパートで買った2着目の水着を男性達に渡した。

「あ!これは、この間、お前に買わされた水着じゃないか?」


「そ!ここの混浴露天風呂はね………水着着用なの!」


「「何だ、そうなのかよ~………脅かすなよ~」」

 男性達は、一気に緊張感が解けて、どっと疲れた。


「でもね……ただの水着じゃ面白くないから、男女共に、思いっきりビキニにしたから、楽しんでよね!」

 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 辺りはもう薄暗くなっている。大きな岩に囲まれ、少し離れたところにある他の露天風呂は、まったく見えない。

 岩1つ挟んで前面が、大きな湖になっている。

 

 今晩は、ここで地元のお祭りがあり、打ち上げ花火があるらしい。


 着替えは、男の方が早いので、先に湯に浸かって待っている。

 少し、ぬるめのお湯なので、いくらでも浸かっていられる。

 風もなく、空の月明かりだけがこの辺りを照らしていた。そう言えば、電器照明は更衣室以外には無いようだ。


「お待たせ~」

 メグミが、派手なピンクのビキニで現れた。極端に布地は少なかった。

「総司~、はい、これ持って~」

 ベルの水着は、スカイブルーでトップの肩紐が無いタイプだった。アンダーは、横を紐で結ぶタイプなので、メグミよりも、尚布地は少なめに思えた。


「ん、ん……ああ、おい、何を持って来たんだ?」

 一瞬、返事をするが遅れた岸川の様子を見て、鎌田がわざと聞き返した。


「どうした?総司……ベルちゃんが何だって?……お前、ベルちゃんに見とれてたんじゃないか?」


「そ、そんなことはないよ……ただ、いつもと髪型が違うから……」


「ああ~ベルちゃんね、髪の毛長いから、温泉に入る時は、束ねて止めてるのよ」

 メグミは、わざわざベルを後ろ向きにして説明した。


「総司、どうかなあ?」

 長い髪をうまく丸めて頭の後ろに櫛で留めている。

 首筋から肩までが露わになり、いつもとは違うベルフィールの輪郭がはっきりと見える感じがした。

「う、うん……き、きれ、いだなあと思った……、いや、ところで、それは、何?」


「昨日のホテルのパンフレットにあったのよ~とってもおいしそうだったから、さっきの食堂から持ってきちゃった」

 ベルは、両手にいっぱい冷酒の瓶と徳利や御猪口を抱えて、嬉しそうにしていた。


「メグちゃん、ここならいいでしょ?……おいしいよ、きっと!みんなで飲もうよ!ね!ね!」

 ベルは、そう言いながら、もう湯船に桶を浮かべて、徳利にお酒を注いていた。


 貸し切り露天風呂なので、そんなに広くはない。

 畳一畳分ぐらいの楕円形のごつごつした岩に囲まれた形の湯船だ。

 それでも、4人で向かい合ってお酒を酌み交わすのにはちょうど良い広さだった。





「メグちゃん、これ、キツイからとっていいかな?……」

「わあー、ベルちゃん、ダメよ……今は、我慢ね……」


「(酔いがまわって、自然の中で、気持ちよくなってくるのはわかる……俺だってキツイ)」

「総司、お酒おいしいね~暖かい温泉で、冷たいお酒………ゆらゆら揺れるお湯にお酒を浮かべながら、楽しいなあ……」


 岸川は、真上の空を見上げた。真っ暗な地表に比べ、満天の空は、抜けるような星明りで輝いていた。

 ふと目を下すと、露天風呂にも夜空が映り、そこに輝く星が見えた。


 ドン ドドン シュウウウウ ドオオオン


「わああ、きれい!花火だわー」

 露天風呂のみんなは、一斉に湖の方を向いた。


「何?総司!……あれは……すっごい、きれい!!」

 花火を始めて見る、ベルフィールは、興奮して露天風呂の中で、子どものようにはしゃいだ。


「“花火”って、言って、火薬を爆発させるんだけど、きれいな模様を作るんだよ…………ほら、お花に見えるだろう!」


 ドドッドオオオオ パン


「へー、すごいんだね」


 花火は、だんだんと激しくなっていった。

 暗闇で、花火の明るさだけが、露天風呂を照らしていた。

 岸川は、一番後ろからみんなを見ていたから、花火の上にみんなのシルエットだけが重なるように感じた。


「………総司、この温泉って、ちょっとショッパイなーー」

 何気なくベルが、そんなことを言うのを聞いて、鎌田が思い出したように近くの看板に目を凝らしていた。


「……お、見えたぞ!

 ……何、何……泉質は、塩化物泉で保湿効果があり、神経痛や冷え性などに効果がある。

 また、美肌の湯としても有名

 ………なるほど、なるほど、こりゃあ、わしにはちょうどいいなああ~」


 岸川は、それを聞いて、なぜか妙な胸騒ぎを覚えたのだった。

「塩化物泉?……ショッパイ?……海の水と同じって事か?……最近、海の水で何かあったような………」


 その時、花火大会最終のアナウンスが聞こえて来た。

『…………最後の……花火は、大輪満月草です……みなさま……カウントダウン……お願い……5・・・・』


 露天風呂でも、一緒にカウントダウンに合わせて、大合唱が行われた。



『………4・・・・3・・・・2・・・・1・・・・』


 ドン シューーーーーウウウウ  パアアアアアン


   ドドッドッドドドッドンンンンンン ババババッババッバババ



  夜空に咲きほこる

     大きな花びら、

      暗闇を引き裂く轟音、

        夜の世界を照らす光明



  ピカカカカアアアアア ドバババババババア ピピピピピピピ



 花火の光と共に、ジャッパアアアンンーーン。

 露天風呂の淵にすっくと立ち、花火に向き合ったベルフィール。

 自分も花火のように、夜空に舞い上がった気持ちに違いなかった。

 足を踏ん張り、両手を真横に広げ、目は花火を追っていた。


「(きれいだな~)…………あ!無い!」

 岸川は、真後ろから、この勇壮なベルフィールを大輪の花火の中に見た。


「(が!今、思い出した。あいつの売った水着だった!……あれは、海水で溶けるんだった)」

 

 岸川達は、慌てて自分の水着が溶けたことを知り、焦った。


 ただ、ベルだけは、解放感に満ち溢れ悠然と花火を見つめている透き通った顔が、月明かりに照らされていた。

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